表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
踊るだけで勇者パーティ最重要職!?テーマパークのダンサー、異世界でバフ職踊り子してます  作者: 烏丸 燈


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

66/80

第六十六話 闇の四天王

 中央都市から西へ、三日。


 美怜たちは、かつて魔王の支配下にあった都市国家ラクシェードへと足を踏み入れた。


 そこは闇の霧に包まれ、陽光すら沈む灰色の空の下、かつての栄華を保ちながらもどこか歪んだ気配を漂わせていた。


 通りには笑顔を浮かべる人々。店も市も賑わっている……にも関わらず、街は静かだった。


 誰もが囁き声で話し、目を合わせず、どこかに“監視”の視線を感じている。


 「ここ……息が詰まるにゃ……」


 ティナがそっと呟いた。


 「支配が行き届きすぎてるな……秩序じゃなくて“服従”だ、これは」


 カイルが神気を練りながら警戒を強めていた。


 「うっ……しんどい……」


 ツカサは瘴気に当てられたのか、自前の鬱が出たのか、口元を手で抑えてよろよろと歩いていた。

 ティナはツカサの背をそっとさすった。




 その時——


 広場の噴水の前に、ひときわ異彩を放つ人物が立っていた。


 漆黒のロングコートに赤の裏地。胸元には深紅の薔薇。

 銀灰の髪をオールバックに撫でつけた、壮年の男。


 その姿が目に入った瞬間、美怜の背筋にぞっと冷たいものが走る。


 「——お待ちしておりました、《旅人たち》」


 その声はまるで、低音の楽器のように柔らかく、同時に、抑えようのない威圧感を持って響いた。


 「ご足労いただき、感謝いたします。私はドナード・ルクス。この街の“当主”にして、魔王陛下の忠実なる“執行者”です」


 男は一歩踏み出し、広場の中心で静かに礼をした。


 「どうぞ、ご安心を。罠でも、襲撃でもございません。私どもは常に《秩序》を尊びます。敵意なき訪問者には、礼を以って応じるのみ」


 だが、その微笑には一切の隙がなかった。


 「……あなたが、最後の四天王ってわけね」


 美怜が声を張ると、ドナードは口元を綻ばせた。


 「ええ、正確には《最後に残された柱》。……さて、“家族”を失った孤児たちが、何を求めて我が家を訪ねてきたのか——話を伺いましょうか」


 その言葉に、美怜の表情が引き締まる。


 ドナードの言葉は、常に“丁寧”だった。




 彼らはドナードの私邸《黒茨の館》に通される。


 内装はまるで劇場のような優雅さで満ちていたが、どこか不気味なほど整いすぎている。

 召使いたちは皆、まるで人形のように無言で働いていた。


 豪奢なソファに腰を下ろしたドナードは、静かに語る。


 「……“アル”という名。魔王陛下の中に芽生えた《異物》。私にとって、それは病原であり、家族を壊した《裏切り》そのもの」


 「魔王は変わった。でも、私たちは——その“心”こそが、本当の……」


 美怜が言いかけると、ドナードの視線がふっと冷たくなった。


 「変わるとは、進むことではない。壊すことだ。私は、魔王陛下をあの日のまま——《純粋なる支配者》に戻したいと願っている。……だからこそ、私は《契約》を交わしましょう」


 「契約……?」


 ドナードは指を鳴らすと、一枚の黒い紙を空間から出現させた。


 「この“契約書”に署名をいただければ、私はあなた方に“アル”に関する情報を差し上げましょう。ただし——代償は、あなた方の中から誰かひとり、《心》を差し出すことです」


 空気が、音を失った。


 「心……を?」


 「ええ。心とは選択です。恐れ、憎しみ、希望、後悔、愛情……そういった《揺らぎ》を、誰かひとりから“消して”いただきます。代わりに、完全なる秩序が得られる」


 「いっそ心が無くなったら楽だろうね」

 ツカサが力なく笑う。


 「そんなの、生きてる意味ないにゃ!」

 ティナが否定する。


 「そうでしょうか? 私は——その心が、魔王陛下を壊したと信じております」


 その言葉と同時に、館の空気が変わる。


 視界がぼやけ、空間そのものが歪む——。


 「……!」


 美怜が気づいたときには、彼女たちは“幻影”の中にいた。





 そこは、《もし、誰かが心を失ったら》という“可能性の世界”。


 ティナが何も感じず、笑わなくなった。

 カイルが仲間を助ける事をやめ、合理性だけで動いていた。

 ツカサが鬱のまま、立ち上がることすらしなかった。

 美怜が踊る理由を忘れていた。


 「これは……」


 「はい。これは、選択の果てです。“あなた方は本当に、《心》を信じているのか”。私の問いは、それだけ」


 ドナードの声が、どこからか響いた。


 「さあ、選びなさい。契約するか。あるいは、戦うか。どちらにしても、終わりは——近い」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ