第六十四話 紅蓮の焔VS虚空の剣
重く、乾いた空気が一瞬、張り詰める。
誰もが息を止めたその刹那——ヴァルグラドが動いた。
「——焔刃・斬火!」
双剣が交差し、炎が咆哮を上げる。
その一閃は空間を灼き裂くほどの熱を帯びていた。
「来る!」
ツカサが飛び込む。
鞘走る音とともに、銀光の刃が閃いた。
ギィイン!!
鋼がぶつかる轟音。
ツカサの日本刀が、灼熱の双剣を受け止めた。
その細身の身体がぐらつく。
重さも、熱も、殺意も……全てが規格外だった。
(こいつ……ほんとに“剣”か?山ごと斬れるだろ、これ)
汗が首筋をつたう。
だがツカサの目は、どこか楽しげだった。
「はははっ!!!面白ぇじゃん……やっぱ、こうでなきゃなぁ!!」
反動を跳ね返し、ツカサが斬り返す。
鋭く、鋭く、まるで心の澱を断ち切るように。
——シュバァッ!!
縦、横、斜め。
ツカサの刀は、踊るように空を裂く。
その刃は、炎を避けるように流れ、わずかにヴァルグラドの頬を掠めた。
「……ほう」
武帝の眉が僅かに上がる。
「闇を抱えた剣かと思いきや、陽の気もある。奇妙な剣気だ……だが!」
ヴァルグラドの右腕が唸り、剣が灼光を放つ。
「まだ、足りぬぞッ!」
——ゴォオオッ!!
炎が爆ぜる。広間全体が赤く染まり、床の石が焼けて軋む。
「にゃっ!熱っ……!」
ヴァルグラドに殴りかかったティナが後方に跳び、カイルが神聖の結界を張って熱波を遮る。
その中心、ツカサは剣を構えたまま、膝をつきかけた。
(……やばい。さすがに、体が追いつかねぇ)
心が明るい今だからこそ、冷静に思える。
だがこの“明”は、どこまで続くか分からない。
もし今、沈んでしまったら——この場で終わりだ。
ツカサは、自分の胸に問いかける。
(……まだ、終わってねぇよな。俺には……俺にしかできねぇことが、まだある)
ふと、背後に仲間の気配を感じた。
ティナの拳。カイルの回復魔法。美怜のバフ補助。
誰も、彼を置いていっていない。
その実感が、ツカサの中の熱を呼び覚ます。
「おい、焔のオッサン」
彼は、焼け焦げた床を蹴って立ち上がった。
「俺、“剣士”とか名乗るのも、実は嫌だったんだよ。暗くなると斬れねぇし、迷惑しかかけてこなかった」
だが、とツカサは笑った。
「……今は、ちっと違う。仲間が“背負ってくれる”って言ってくれた。だから俺は、切り開くよ」
その言葉に、ヴァルグラドの目がわずかに見開かれた。
ツカサが、右足を引き、刀を低く構える。
「——いくぞ。これは俺の全てだ」
「……来い」
ヴァルグラドも、紅蓮刃を構え直す。
今度は、真に認め合った者同士の一撃。
誇りと魂が交錯する——その瞬間だった。
「——月閃・空崩!!」
ツカサの刀が、空間を引き裂くように走った。
熱風が裂ける音とともに、刀身が炎を断ち割る。
——ドン!!
炎が砕け、ヴァルグラドが一歩、後退した。
その胸元、甲冑に斬撃の痕が刻まれていた。
「……見事だ」
静かに、武帝は頷いた。
その目には怒りも焦りもない。
あるのは、剣士ツカサへの——敬意だった。
「まだ終わってはおらんが……お前の剣、確かに心に届いたぞ」
ツカサは、肩で息をしながら、それでも笑ってみせた。
「じゃあ、次は……あんたの番だぜ、武帝さんよ!!!」




