第六十三話 武帝との対話
燃え盛る溶岩の峡谷に建つ、火山砦の大広間。
壁には赤黒い炎の意匠が走り、空気は重く、乾ききった熱が肌を刺していた。
広間の中央。
真紅の甲冑に身を包んだ巨躯の男が、どっしりと椅子に腰かけていた。
その背後には炎の紋章——魔王軍四天王【焔獄の武帝】の証が掲げられている。
「よくぞ来た、人の子らよ」
低く、よく通る声。
その人物——ヴァルグラド・リンエンは、玉座のような鉄椅子からゆっくりと立ち上がった。
動きは一切の無駄がなく、鋼の如き威圧を放っている。
「我が名はヴァルグラド。焔と戦の双刃を掲げし、魔王の剣なり」
その言葉には誇りと忠義、そして静かな威厳が宿っていた。
美怜は歩みを止め、まっすぐに視線を合わせる。
「私たちは、敵意を持って来たわけじゃない。あなたに聞きたいことがあるの」
ヴァルグラドは表情を崩さず、だがその眼差しにわずかな柔らかさを宿す。
「敵意がないのは承知している。……我が炎は、虚ろな剣気には反応せぬ」
彼は腰に帯びた双剣《紅蓮刃》に手を触れつつ、美怜達を見渡す。
「踊り子、武闘家、僧侶、剣士。どれも中途半端ではあるが、芯がある。悪くない」
その評価にティナがふくれっ面になり、ツカサは小さく笑った。
美怜は少し緊張したまま、言葉を続ける。
「魔王の中には、“アル”という少年の人格がある……あなたは、そのことを知っている?」
その瞬間——
ヴァルグラドの表情が、わずかに動いた。
だが、すぐに静かな沈黙が落ちる。
「……答えられん」
「……!」
美怜が目を見開いた。
「知っているのね?お願い、教えて。彼は……時間が経てば消えてしまうかもしれないの。手遅れになる前に、何か手がかりが欲しいの!」
ヴァルグラドは、ほんのわずかに視線を伏せた。
そして、額の焦げ跡にそっと手を当てる。
「……あの御方は、“心”を持ったことで我らと袂を分かった」
静かな声。
「私にとって、魔王様は今なお“主”である。だが同時に……あの時から、あの御方は我らの王ではなくなった。今のあの御方を理解することはできない」
「それでも……!」
美怜が口を開きかけた時、ヴァルグラドはゆっくりと双剣を抜いた。
刀身が炎を纏い、眩く燃え上がる。
「俺の忠義をねじ曲げるな、人の子。アルという存在に関わることは、“我が王の核”に触れること。容易には語れぬ。だが——」
その剣が、地を裂かんばかりに構えられる。
「俺を超えてみせよ。武帝として、お前たちの“覚悟”を見極めよう」
「あはは!やるしかないね!」
ツカサが、白布で巻いた日本刀の柄に手をかける。
カイルも聖印を掲げ、光の護りをその場に張った。
ティナは拳を握って、美怜はステップを踏む構えを取る。
「やるからには、本気でいくよ!」
「望むところだ!」
ヴァルグラドの双剣が、紅蓮の嵐を纏いながら唸りを上げる。
——誇りと忠義を懸けた戦いが、今、始まる。




