第六十二話 炎の四天王
ツカサを仲間に加えた美怜たちは、中央都市を後にし、南を目指して旅立った。
その目的地は、炎と戦の領土——《紅焔荒野》。
灼熱の大地に砦を構える、魔王四天王の一人。
その名は、《焔獄の武帝》ヴァルグラド・リンエン。
数千の軍勢を一人で屠り、魔王軍最強の戦士として恐れられた剣豪。
燃え盛る戦場を駆け、ただ忠義の名のもとに命を賭してきた男。
現在も、南部辺境の火山地帯《熾炎峰》を拠点に、炎の民を統べる存在であるという。
「ま、わりと分かりやすそうな奴だにゃ。武人気質ってやつにゃ」
「その分、交渉は簡単にはいかないだろうけどね……」
美怜が小さく呟く。
「問題は、“戦う前に話ができるかどうか”だよな」
カイルが髪を手でなでつけながら言った。
「ふはは、任せておけ!“戦う前に”じゃなくても、“戦いながらでも”意思は伝わる!」
ツカサがやたら快活に叫んでいたが、誰も特に突っ込まなかった。
《紅焔荒野》——熾炎峰・麓の砦
数日後、一行は《紅焔荒野》へと到達した。
空気は乾き、熱風が砂塵を巻き上げる。
荒れ地の地平線の先、黒い火山の裾野に、巨大な赤い砦がそびえ立っていた。
砦の門には、獣と魔族が混成した武装兵たちが立ち並び、鋭い視線を送り込んでくる。
「通る者、名を名乗れ!」
門兵が叫ぶ。
美怜が一歩進み出て、堂々と名乗った。
「踊り子、美怜。四天王ヴァルグラド・リンエン殿に、謁見を求めに来た!」
門兵たちがざわつく。
「……踊り子、だと……?」
「構わん、通せ。——“武帝”は既にお待ちだ」
一人の幹部と思しき戦士が命じると、門がゆっくりと開いた。
熱気が一層強くなる。
炎に包まれた回廊の先、堂々と立ち尽くす男がいた。
《焔獄の武帝》ヴァルグラド・リンエン。
真紅の甲冑に身を包み、全身から揺らめくような熱気を放っている。
額には、焼け焦げたような痕跡——まるで、かつて角があった場所を自ら焼いたかのような傷が残っていた。
「踊り子、ミレイか。……よく来たな」
声は低く、だがどこか暖かさを含んでいた。
その目には、戦場で命を見続けた者特有の、揺るぎない光がある。
「俺はヴァルグラド。焔と剣の名のもとに、貴様らの覚悟を見届けよう」
そして、ゆっくりと——彼は、黒鋼の双剣《紅蓮刃》を抜き放った。
炎が、爆ぜるように舞い上がる。
「交渉の前に、ひとつだけ確認させてもらう」
「……“命を賭ける覚悟”はあるか?」
その問いに、一行は一瞬の沈黙の後、揃って頷いた。
(——始まる)
《焔獄の武帝》との対峙が、今まさに幕を開けようとしていた。




