第六十一話 爽やかな朝、明るい男
静まり返った部屋に、わずかに夜の街灯の光が差し込んでいた。
ツカサはベッドの端に腰掛けていた。
肩を落とし、顔は伏し目がち。
だが、先ほどまでの“死を選ぼうとした絶望”の色は、わずかに薄れていた。
「……で。あんたたちは何のために、強い仲間を探してるんだ?」
問いかけるツカサの声は、かすかに掠れていた。
美怜は一歩進み、静かに言葉を紡いだ。
「“アル”という少年を、復活させるためよ」
ツカサの目が、わずかに動く。
「復活……って、死んだ人間を蘇らせるのか?」
「そうじゃない。彼は……“魔王”の中で生まれた、もう一つの人格なの。まだ完全には失われてない。けれど、時間が経てば——きっと、消えてしまう」
「だから私たちは、四天王たちのもとを巡って、真実を集めているの」
カイルも続けて言った。
「君の力が必要だ、ツカサ」
ツカサは少しうつむき、膝の上で手を握りしめた。
その指は、微かに震えていた。
「……俺なんかに、四天王と戦えるわけない」
「剣が振れるかどうかも分からないんだ」
「きっと、戦いになれば……俺はまた動けなくなる」
その声は、自らを呪うように沈んでいた。
まるで、自分が“存在していること”そのものが間違いだと言っているようだった。
その瞬間、ティナがバン!と床を叩いて立ち上がった。
「もーッ!!うじうじしてるにゃああ!!」
「……うじうじ?」
「そうにゃッ!!落ち込むのも、動けないのも、弱くなるのも、仕方ないにゃ!でも、だからってそこで終わるのは違うにゃ!!」
ティナは小柄な身体でツカサの前に立ち、まっすぐに見上げた。
「命を捨てようとしてたあんたが、今こうしてまだ生きてる。だったら、戦ってみたっていいにゃ!暗くなったときは、あたし達が背負ってやるにゃ!だから——明るいときは、その分、引っ張れにゃ!!」
その言葉に、ツカサの唇が少しだけ動いた。
……何か言いたそうだったが、彼はただ目を伏せ、静かに呟いた。
「……一晩、考えさせてくれ」
美怜たちは無理に追い詰めようとはしなかった。
ティナも、ゆっくりと息を吐き、背を向ける。
「……分かったにゃ」
そして三人は静かに、ツカサの部屋を後にした。
翌朝。中央都市。宿屋《青狼亭》の玄関。
扉が勢いよく開かれ、眩しい朝日と共に現れたのは——
「おっっっはよぉぉうございまーーーすッ!!!!!」
「……っ!?」
「え? だ、誰……?」
美怜とカイルがぎょっとした。
そこに立っていたのは、昨日の陰鬱な青年と同じ人物……ツカサだった。
だがまるで別人のように、背筋を伸ばし、白い歯を見せ、太陽を浴びてキラキラと笑っている。
黒髪をくしゃっとかき上げ、まるで昨日までの彼はいないような爽やかさだった。
「いや〜やっぱ朝は最高だな!もうね、生命力溢れてるって感じ?」
「テンション高すぎる……」
「昨日、死のうとしてた人間の言葉とは思えないな……」
美怜とカイルが困惑する中、ティナは目を細めて笑った。
「にゃは。こいつはこいつにゃ。どっちの顔も、本物だにゃ」
「で?決めたんか?」
カイルが問うと、ツカサはニカッと笑い、腰の日本刀の柄をポンと叩く。
「決めたさ。行こう、四天王のところへ!」
「……お、おぉ……」
「もう心配でしかない……」
内心、そんな不安を隠せない美怜とカイル。
だがティナは明るく笑い、ツカサの背をポンと叩いた。
「ま、落ちたらまた引き上げるにゃ。だから、気張れよ、剣士!」
「任せろって!」
朝日を背に、四人の影が長く伸びていく。
新たな仲間——ツカサを迎え、勇者一行は次なる四天王のもとへと旅立つ。




