第五十三話 それぞれの道
静けさが戻った山道に、風がひとすじ吹き抜ける。
血と焦げた大地の匂いの残る戦場跡で、美怜は杖を抱いたまま、立ち尽くしていた。
その手は小さく震えていたが、彼女の瞳は、もう迷っていなかった。
「……私、旅に出る」
美怜の静かな言葉に、ティナとカイルが顔を上げた。
「この杖の中のアルを——魔王じゃない、アルを助けたい。彼を……“ただのアル”に戻したい。だから、どんな方法があるのか探してみる。たとえ、どこまで行くことになっても」
ティナは間髪入れずに頷いた。
「当たり前にゃ!ミレイが行くなら、あたしも行くにゃ!」
「俺も一緒に行くさ」
カイルは小さく笑って、美怜の肩をぽんと叩いた。
「そもそも、魔王と戦った時にアルが魔王を倒さなかったら、俺たちはあの時とっくに……な。置いていけるわけないだろ?」
美怜の目に、また涙が浮かぶ。
「……ありがとう。ふたりとも……」
その様子を見守っていたライアスが、軽く鼻を鳴らした。
「君達らしいな」
彼は折れた剣を背負い直し、立ち上がる。
「君達には助けてもらった恩義がある。俺たちは俺たちで、やれることを探すさ。封印の解除方法とか、魔王人格の剥離の術とか……」
「“魔王”としてじゃなく、“アル君”として帰ってこさせるには……きっと何か手段があるはずだ」
ガイアも頷き、静かに剛剣の柄を見つめた。
「協力は惜しまないわ」
リュミナは美怜に歩み寄り、そっと指先を杖に触れる。
「これは私がかつて封印に使った術式を改良したもの。逆転の糸口は、私たちが探してみせる。あなたたちはあなたたちのやり方で、アル君の心に繋がっていて」
「うん……お願い。みんな……」
その時、杖がかすかに震えた。
美怜が胸に抱くように強く抱きしめると、それはまるで応えるように、微かに温もりを伝えてきた。
「……行こう。アルが待ってる」
そして三人は、傷を引きずりながらも、山道を下っていく。
それぞれの決意を胸に——ライアス、ガイア、リュミナとの別れは寂しいけれど、それ以上に信じ合う絆があった。
ライアスたちの背中を見送りながら、誰からともなく呟いた。
「どうか、無事で」
青空がようやく広がり、希望の道を照らしていた。
それぞれの旅が、今、始まった。
“魔王”ではない、ただ一人の少年——“アル”を救い出すための旅が。




