第五十二話 二度も魔王を倒した者たち
魔王戦が終わったあと、山道に残されたのは、風の音と、傷だらけの仲間たちの静かな呼吸だけだった。
美怜は、リュミナが封印した杖を胸に抱きしめたまま、動けずにいた。
アルの魔力の残滓がまだ杖の周囲に淡く漂っている。だが、それはさっきまでの破壊の気配ではない。穏やかで、悲しくて、それでも温かい気配だった。
「……終わった……のか?」
ライアスが、ふらつきながらも立ち上がった。折れた剣を杖代わりにしている。
「……終わった……よ」
美怜が、ようやくぽつりと答えた。
その声はかすれていたけれど、どこか、希望を含んでいた。
「よかった……」
ティナが泣き笑いのような表情で、美怜に駆け寄る。ひどい傷を負っているのに、そんなことはお構いなしだ。
「本当に……よかった……アルが……まだ、生きてる……」
「……生きてる、か……」
カイルがぽつりと呟く。
「封印は……“生きてる”って言えるのかね?」
「言える」
ガイアがゆっくりと、でも力強く言った。
「少なくとも、美怜が“待つ”って言ってる限り、そいつは“生きてる”」
「リュミナ、封印は……安定してるか?」
ライアスが問いかけると、リュミナは小さく頷いた。
「ええ……彼の魔力は完全に杖の中に封じたわ。二重結界をかけた。そう簡単には破れない」
彼女はふと、美怜を見た。
「でも、簡単に目覚めさせることもできない。封印は封印……それが“救い”なのか、“罰”なのかは、あなたたち次第よ」
美怜は、その言葉を静かに受け止めた。
「——救うよ。私が。きっと、必ず。何年かかっても」
風が吹いた。
遠くの空は、ようやく晴れ間を取り戻していた。
黒く濁っていた空が、青に染まっていく。
今はただ、大切なものを守れたという実感だけが、胸の奥にあった。
美怜は最後にもう一度、抱えた杖にそっと語りかけた。
「アル……待ってて。今度は私が、あなたを助ける番だから」
「だから……何があっても、あなたを“忘れない”よ」
その言葉に応えるように、杖の内側がほんのわずかに——温かく、震えた。
まるで、眠る誰かが微笑んだように。




