第五十話 ずっと好きだった
漆黒の魔法陣が炸裂した。
空から降り注いだ黒炎の嵐が、大地を焼き、空気を裂いた。
ライアスの剣は砕かれ、ガイアの剛剣は折れ、リュミナの詠唱は炎にかき消された。
ティナは倒れ、カイルの治癒魔法も追いつかない。
「は……ぁ、く……そ……っ」
ライアスが血を吐きながら膝をつく。
「ここまで……なのか……?」
ガイアの肩からは大量の血が流れ、動けない。
「私……まだ、踊れる……まだ、みんなに……力を……」
美怜も、足元がふらつき、息は絶え絶えだった。
その時だった。
魔王の動きが、ふと、止まった。
「……? あれ……?」
紅い瞳がゆらりと揺れ、魔王は頭を押さえた。
「……やだ……こんなの……やめてよ……っ」
その声は、いつか聞いたアルのものだった。
「……う……ぁ……あああああっ!」
魔王の中で、何かがせめぎ合っていた。
美怜は、立ち上がろうとする足を引きずりながら、一歩、また一歩と近づいていく。
「アル……?」
白銀の髪が揺れた。
魔王の姿のまま、アルの瞳が涙で潤む。
「ミレイさん……みんな……こんなこと、したくなかったのに……」
その声は確かに、アルだった。
「どうして……僕、こんな姿になって……こんな風に……!」
両手を震わせ、アルは膝をついた。
「みんなを傷つけて……殺しかけて……ッ」
「……やめて……アルのせいじゃない……!」
美怜は、最後の力で叫ぶ。
「全部、抱え込んでたんでしょう……!痛かったんだよね、苦しかったんだよね……!」
「……っ……でも……僕……!」
アルの声が震える。
「僕……“魔王”だったんだよ……? みんなの敵だったんだよ……?」
「知らなかったから、普通のふりをして……でも、ずっと嘘だったんだ……!」
「僕は……人を殺す力を持ってる。壊す力しか、ない……!」
美怜の目から涙が溢れる。
「だから……」
アルは顔を上げた。
その紅い瞳には、深い悲しみと——決意があった。
「僕を……殺して」
「……え?」
「お願い……ミレイさんがいい……!」
「僕……ミレイさんが……好きだった……ミレイさんの踊りを見たときから……!」
涙が頬をつたい、唇が震える。
「だから、お願い……!あなたの手で終わらせて……!」
その場の空気が凍りついた。
誰も、言葉が出なかった。
リュミナも、ライアスも、ガイアも、ティナも、カイルも。
痛みにあえぐ中で、ただ——アルの言葉が、風のように心を突き刺していた。
そして、美怜は震える足で、彼の元へ歩み寄る。
「……アル……私も……」
美怜の瞳に浮かぶ決意は、涙に濡れながらも揺らいでいなかった。




