第五話 デバフダンスは笑顔で!?〜地獄の特訓編〜
「……で、これがその“デバフダンス”?」
私は草原のど真ん中で、片膝をついた謎のポーズをとっていた。
「そう、それが“呪いの蝶ステップ”。敵の攻撃命中率を下げるやつ。ちゃんと左足から4カウントね?」
「蝶……これが!? どう見ても“謎の決めポーズ”なんですけど!?」
そう叫ぶと、隣で手本を見せてくれていたリュミナが肩をすくめた。
「これでも古来から伝わる“魔術舞踏”の一種なの。見た目がダサいとか言わないでよ。私だって最初は無理矢理覚えさせられたんだから」
「うそでしょ……」
踊り子に必要な技術、それは“バフダンス”と“デバフダンス”。
つまり「味方を強くする踊り」と「敵を弱くする踊り」。
しかもデバフの方はより複雑で、微妙に不自然な動きが必要になるらしい。曰く、“視覚的に相手の集中力を乱す”とか、“魔力の流れを遮断する”とか……。
ようは、変な動きをして相手を惑わせるってことじゃん!!
私たちは今、街の外れの草原で特訓中。
といっても、踊っているのは私ひとり。
リュミナが冷静に指導し、ガイアは木陰で剣の手入れ、ライアスは遠くで魔物相手に剣の型を試している。
……自由か!
「いい? デバフはタイミング命。攻撃が来る直前に発動させるのがベスト」
「そんな高度なこと、いきなりできるわけ——」
「できるようになってもらわないと、パーティーは壊滅するわよ」
「そんな重要ポジションなんですか!?」
「当たり前でしょ。敵の攻撃を避けるために、ミレイの“変なステップ”が必要なのよ」
「言い方!!」
私は汗だくになりながら、奇妙なポーズとターンを延々と繰り返した。
某テーマパークでは、いかに動きを綺麗に見せるかに命を懸けていたのに。今は全力で、“不自然な動き”を習得しようとしている。なんという屈辱!
けれど、意外と、楽しい部分もあった。
(おかしいな……。ちゃんと発動すると、ちょっと嬉しいかも)
リュミナが放つ低レベルの魔法をかわしながら踊る。
くるっとターンして、地面を蹴って——
「今の、成功よ。敵がよろけるタイミングでバランス崩す魔力が出たわ」
「よっしゃ!」
思わずガッツポーズしてしまった。
できるようになると、やっぱりうれしい。
魔法が使えない私でも、踊りだけでここまで干渉できる。
それってちょっと、魔法よりカッコよくない?
夕暮れ、特訓を終えて宿へ戻る途中。
「ミレイ」
不意に名前を呼ばれた。後ろを振り返ると、ライアスが肩に剣を担いで立っていた。
「今日のデバフ、良かったよ。まさか“呪いの蝶”を初日で出せるとは」
「え、見てたんですか?」
「もちろん。……嬉しいんだよ、君が戦えるようになってくれるのが」
その言葉に、ちょっとだけ胸が熱くなった。
「この世界って、弱い奴に優しくないからさ。だからこそ、君が“自分の力”を手に入れてくれるのが、本当に嬉しい」
「……」
ふと、昔のことを思い出した。
オーディション前、家に帰って一人で何度も練習してた日々。
“実力で戦う”って、どの世界でもやっぱり同じなんだなと思う。
「ありがとう、ライアスさん。私、まだまだ頑張れそうです」
「うん。その調子」
ライアスはふっと笑って、私の頭をぽんと軽く撫でた。
——ちょっと、ずるい笑顔だった。
私は顔が熱くなるのを誤魔化すように、くるっと一回転してみせた。
「明日からも特訓、よろしくお願いします!」
「おう!」
こうして私は、“踊り子”として少しずつ形になっていった。
……でも翌朝、ガイアにこう言われることになる。
「次の任務、“呪いの森”の調査だ」
「……」
「毒霧も出るし、幻覚魔法も使ってくる連中が出るって話だ」
「……聞いてないんですけどーーーー!!!」