第四十七話 魔王再び
空は高く、久しぶりに澄み切っていた。
《聖域フィル=セリオン》を出て、彼らは山道を下り始めていた。
これまでの苦闘を労うように、穏やかな風が草原を渡っていく。
「……終わったにゃ」
ティナがつぶやくように言った。
「ようやくだな。あんたら、よくここまで来たもんだよ」
ライアスがそう言って、美怜の肩を軽く叩く。
「ううん……違うの」
美怜は首を振って、アル、ティナ、カイルの三人を見つめる。
「ここまで来られたのは、私の力じゃない。この三人が、ずっと一緒にいてくれたから。私が折れそうになった時、支えてくれた……」
ティナは照れたように笑い、カイルは照れ隠しとばかりに小さくため息をついた。
アルは——何も言わず、笑顔も見せず、ただ遠くを見つめていた。
「……仲間って、いいもんだな」
ガイアがぽつりと呟き、リュミナは微笑んだ。
そうして、ふたつのパーティーが出会い、初めて全員が顔を合わせる静かな時間が流れた。
セリスはその様子を遠くから見守り、小さく頷くと、静かに踵を返す。
「あなたたちには、もう……私の祈りは不要でしょう」
そう言い残して、彼女は再び《聖域》の奥へと姿を消していった。
そして——
「……あれ?」
ティナが突然、振り返った。
アルの様子がおかしかった。
彼はその場に立ち尽くし、苦しげに額を押さえていた。
「アル……?」
「…………く、あ、あああっ……!」
突如、アルの身体が大きくのけぞる。
空気が、急激に冷たく、重たくなる。
「魔力が……急激に膨れ上がってる……!」
リュミナが声を上げた。
「これは……魔瘴気……!」
リュミナの言葉と同時に、山道の周囲に紫がかった霧が立ち込める。
草が枯れ、石が砕け、空気がざらついていく。
「う……ぐ……っ、止まらない……!」
アルの声が、まるで別人のように響いた。
「アル!?」
美怜が駆け寄ろうとするが、カイルが止める。
「駄目だ!あれは……アルじゃない!」
その瞬間——
アルの身体から、漆黒の魔力が爆発した。
巨大な闇の翼のようなエネルギーが背から広がり、大地を裂く。
彼の髪がすらりと伸びていき、表情が消える。
「——おはよう」
それは、アルの声ではなかった。
低く、深く、まるで奈落の底から響くような声だった。
「お姉ちゃんの舞、綺麗だったよ」
「アル……じゃない……?」
美怜が呆然と呟く。
その姿はここにいる全員が見たことがある。
まるで呪いの森で出会った魔王。
魔王は死んだ。アルが倒したはず。
でも、なぜアルが魔王を倒せたのか、ここで分かった気がする
「“アル”も私も同じなの。だから、アルが倒したのは私のほんの一部」
紫の霧の中心で、魔王はその姿を完全に現す。
少女のような見た目をしているが、禍々しい雰囲気をまとう。
「遊ぼ」
その一言とともに、大地が割れた。
魔王が、かつての仲間たちに牙を剥いた瞬間だった——。




