第四十五話 リュミナの舞
静寂の中、リュミナは立ち上がった。
白布をまとった身体はまだ細く、かすかに揺れている。
だが、その琥珀の瞳には確かな意思が宿っていた。
彼女は、失われた“二人”の依り代を見つめる。
「今度は……私が、舞う」
そう呟いたその声は、以前よりもどこか柔らかく、優しさを含んでいた。
「……無理しないで」
美怜が、まだ痛みに息を荒げながら問いかける。
リュミナは微笑む。
「できるわ。だって——私は、彼らの“記憶”を知っている。あの旅も、あの戦いも……ぜんぶ、私の中にある」
セリスは無言でうなずき、再び祭壇に魔法陣を展開した。
「舞う者が変わるなら、祈りの調律も変える必要がある。……でも問題ない。始めましょう、リュミナ」
「ええ」
静かに立ったリュミナが、目を閉じる。
細く指を掲げ、宙に描くように、舞が始まった。
かつての祈り子としての記憶が、身体の奥から呼び起こされる。
舞は流麗で、しなやかで、まるで風そのもののようだった。
だが、その動きの中には、確かに痛みと哀しみが混ざっていた。
「——ライアス。あなたはいつも、誰よりも先に剣を振るってくれた。誰かを守ろうといつも必死だった。その背中が、どれほど心強かったか……私は、忘れない」
ひと振り、腕が描いた弧に、淡い赤の光が走る。
ライアスの依り代が、微かに震えた。
「——ガイア。あなたの手は大きくて、温かくて、時に不器用で。だけど、いつも私たちを守ってくれた。無言の優しさと、苦しさを胸に隠したまま……私は、それを見てたのよ」
旋回する脚が床を打ち、細かな光が舞い上がる。
次の瞬間——
ライアスの器から、ふっと風が吹き出した。
続けて、ガイアの器も、かすかに脈打つように輝きを放ち始めた。
「二人とも……!」
美怜が息を呑む。
「祈りの核に触れている……!もう少し!」
セリスの声が震える。
リュミナは最後の旋回に入った。
その全ての所作に、かつての日々が刻まれていた。
焚き火を囲んだ夜。傷を癒した朝。一緒に魔獣に立ち向かった日。
思い出が、一つひとつ、舞に溶けていく。
「あなたたちが、私を救ってくれた。だから今度は——私が、あなたたちを迎えにいく!」
その声と共に、舞が頂点に達した。
祈りの柱が二つ、真上に伸びる。
赤と金の光が交差し、器へと魂の糸が降りてくる。
そして——
ライアスが、苦しげに目を開いた。
「……ここは……リュミナ……?ミレイ……?」
続いて、ガイアもゆっくりと上体を起こす。
「……帰ってこれたのか」
「ライアス!ガイア!」
美怜とリュミナが同時に駆け寄る。
カイルは静かに目を伏せ、ぼそりと呟いた。
「……これで、全員だな」
祭壇に立つセリスが、微笑む。
「……記憶が繋いだ、魂の還元。……奇跡じゃない、あなたたちが掴み取った現実よ」
リュミナは、美怜と目を合わせる。
二人の間に、言葉のいらない想いが通じ合っていた。
こうして、《魂の器の再生》は完結を迎えた。
——だが、復活の代償と、この儀式で目覚めた“過去”は、彼らの心に影を残していた。




