第四十四話 復活の儀式
《記録庫フィル=セリオン》の地下、封印された祭壇室。
空間は静まり返り、天井の浮遊石が淡く輝いていた。
その中心に、美怜は立っていた。
白い儀式服に身を包み、傷ついた足には包帯が巻かれている。
祭壇の前には、ザハルから譲り受けた三つの“依り代”——リュミナ、ライアス、ガイアのための魂の器である肉体が静かに並べられていた。
セリスが祈りの位置につき、静かに目を閉じる。
「……始めましょう。あなたの“舞”、そして私の“祈り”——それが一つになれば、魂は呼び戻されるわ」
「うん……」
美怜は小さくうなずくと、息を吸い込み、一歩を踏み出した。
足に走る灼けるような痛みが、即座に神経を焼いた。
それでも、美怜の動きに迷いはない。
腕を伸ばし、旋回し、舞う。
その一つひとつの所作に、祈りが込められていた。
「リュミナ……どうか、応えて……」
セリスの祈りの詠唱が響く。
その声に包まれるように、美怜はさらに深く舞を続ける。
血がにじみ、震える脚が軋む。それでも、止まらない。
ティナが思わず手を握りしめ、アルが肩を震わせる。
カイルは険しい顔でその姿を見つめていた。
そして——
祭壇の中央、リュミナの器だけが淡く光を放ちはじめた。
他の二つは、沈黙したままだ。
「……これは……!」
セリスが目を見開く。
「魂が、リュミナだけ反応してる……! 他の二人には、まだ記憶の核が届いていない……!」
「でも……せめて、リュミナだけでも……!」
美怜は最後の力を振り絞り、舞い上がる。
旋回、跳躍、静止。
痛みに震える中、それでも彼女は空気を裂くように舞い切った。腰に付けた鈴が魂を呼ぶように鳴った。
その瞬間——
光が爆ぜた。
霧のような輝きが、リュミナの器を包む。
そして、その中心に、人影が浮かび上がった。
「……ああ……この舞……また、感じられるなんて」
その声は、間違いなく、リュミナだった。
美怜は、涙を浮かべた目でその姿を見つめる。
器の上に横たわるリュミナのまぶたが、ゆっくりと開いた。
深い琥珀の瞳が、静かに美怜を見つめ返す。
「……おかえり、リュミナ」
美怜はポロポロと涙をこぼしながら言った。
セリスが、祈りを終え、静かに告げる。
「魂の接続、完了よ」
リュミナは体を起こし、まだおぼつかない声で問いかけた。
「……ガイアと、ライアスは……?」
美怜は首を振った。
「ごめん……二人の“記憶”を私は知らない。でも……あなたは知ってるよね。彼らと、長く一緒にいたから……!」
リュミナの目に、静かな光が灯る。
「……私が、舞う番ね。彼らを……今度は私が、迎えに行く」
こうして、リュミナは復活を果たし、
次なる儀式——ライアスとガイアの記憶を辿る舞が始まろうとしていた。
魂の器の再生は、まだ終わっていない。
記憶をつなぐ旅は、次なる扉を開こうとしていた——。




