第四十二話 真実の舞
舞が終わった。
霧の中で、息を切らす美怜の足元には、赤いしずくがぽたぽたと落ちていた。
その痛みに耐え抜いた姿を、セリスは黙って見つめていた。
やがて、彼女はゆっくりと歩み寄ってきて、冷たい瞳を美怜のものと重ねる。
「……認めるわ」
その言葉は、霧の静寂に吸い込まれて、まるで祈りのように響いた。
「あなたには、“鍵”を開ける資格がある。——この地に眠る記憶と祈りに、触れる権利があるわ」
セリスが胸元から取り出したのは、銀の輪を持つ小さなペンダントだった。
中央に、淡く紫がかった宝石がはめ込まれている。
「これは、“祈り子の記録庫”へ入るための鍵。過去の記憶が封じられた場所よ」
「記録庫……?」
「ええ。リュミナの過去も、私たち祈り子の秘密も、そこにすべて収められている。神と祈りを繋ぐ“記憶の根”にね」
その瞬間、霧がまた風に吹かれたように流れ、奥の岩壁がわずかに揺らいだ。
まるで岩が呼吸をしているかのように、脈打つような気配があった。
「……そこに行けば、リュミナの“何が”わかるの?」
美怜の問いに、セリスは視線を伏せて小さく呟く。
「リュミナが、なぜ“祈り子”を捨てたのか。そして……彼女が生涯、たった一度だけ願った“禁じられた祈り”のこと」
「禁じられた……祈り……?」
セリスは美怜を見つめ返す。
その瞳の奥には、深い後悔と決意の色があった。
「その真実を知ったとき、あなたは彼女を憎むかもしれない。でも——それでも、進みたいと願うのなら……私も、あなたと共に歩くわ」
「……ありがとう、セリス」
美怜は静かに微笑み、血の滲む足をもう一歩前に進めた。
ティナがすかさず駆け寄り、肩を貸す。
「無理しすぎにゃ……!」
その時——岩壁が、音を立てて開き始めた。
白い霧をまとった門が、古の祈り子たちの記憶を宿す聖所へと繋がっていく。
光が差し込むその先へ、美怜たちは進む。
リュミナの過去。
禁じられた祈り。
そして“失われた記憶”の真実を知るために——




