表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
踊るだけで勇者パーティ最重要職!?テーマパークのダンサー、異世界でバフ職踊り子してます  作者: 烏丸 燈


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/80

第四十一話 祈り子との邂逅

 霧は音を呑み込んでいた。


 鳥のさえずりも、風の唸りも、己の足音さえも、すべてが白い靄に溶けて消えていく。


 


 「——うそ、方向感覚が……」


 ティナが眉をひそめる。


 数歩進んだだけなのに、道がねじれたように感じられた。


 空と地面の境界も曖昧になり、前後左右の感覚すら頼りにならない。


 


 「……これは、ただの霧じゃないな」


 カイルが慎重に足元を探りながら言う。


 「空間そのものが歪んでる。結界っていうより、もはや精神干渉の領域だ……」


 


 「ミレイ、大丈夫……?」


 アルが後ろから美怜に声をかけた。


 美怜は、ふらつきながらも歩みを止めていなかった。


 足元はまだ赤く濡れ、ザハルの所での舞の痛みが消えたわけではない。それでも、美怜はただ一点を見据えるように前へ進み続けていた。


 


 「……聞こえるの」


 「え?」


 「誰かの声が、私を呼んでる。遠くて、懐かしくて、……でも、少し悲しそうな声」


 誰も声など聞こえなかった。


 けれどそのとき、霧の奥に——灯りが見えた。


 


 ぼんやりと灯る、青白い光の柱。


 それは地面からまっすぐに立ち上り、霧をゆっくりと割っていく。


 


 「なんだろう……?」


 アルがぽつりと呟く。


 「……これは、試練かもな」


 カイルが低く言った。


 「でも……行くしかないにゃ」


 ティナが、ぎゅっと拳を握る。


 


 美怜はうなずき、静かに足を踏み出した。


 


 光の柱へと近づくにつれて、空気が変わる。


 冷たいはずの霧が、どこかぬくもりを帯び、まるで誰かの手に頬を撫でられているような——そんな不思議な感触に包まれる。


 


 やがて、光の柱の中に、映像のような何かが浮かび上がった。


 それは、まだ少女だったリュミナの姿だった。


 


 雪の中、一人で舞う白衣の少女。


 祈りの舞。


 誰にも見せることのない、孤独な祈り。


 


 「……リュミナ……」


 美怜は思わず、手を伸ばした。


 


 けれど、その映像は霧とともに崩れ、ふわりと消えていく。


 そして、代わりに現れたのは——


 


 「……久しぶりね、リュミナの継承者」


 白い衣をまとった女性の姿だった。


 その声を、美怜は忘れていなかった。


 鋭く、それでいてどこか澄んだ声。


 正しく在ろうとし続けた、あの冷たい背中の声。


 


 「——セリス……!」


 


 霧の中、彼女はただ静かに佇んでいた。


 「私を探しに来たの?」


 「……リュミナの記憶を辿りたくて。あなたが何かを知ってると思った」


 「そう。……でも、私は過去を渡すためにここにいるんじゃない。あなたが“祈り子の地”を踏む資格があるのかどうか、それを見極めるためにいるのよ」


 セリスの瞳には、情がなかった。


 けれど、それは突き放すものではなく、祈り子としての“務め”をまっとうしようとする意志の色だった。


 


 「なら、証明する。私はここに来た意味を見つけたい。リュミナの……仲間として」


 「——見せて」


 セリスが言った。


 「その足で、どこまで祈りに辿りつけるか。舞って。……今の、あなたの“魂”を見せて」


 


 再び、足の呪印が疼く。


 けれど、美怜は——頷いた。


 


 静かに、両腕を広げ、痛みに耐えながら、霧の中でひとり舞い始める。


 


 その祈りが、誰かの記憶を揺り起こす。


 リュミナの過去。


 祈り子という名の宿命。


 そして、セリスが"祈り"を捨てて“杖”を手にした理由——


 


 すべては、霧の奥で静かに眠っている。


 


 やがて、彼女の舞が届いたとき。


 聖域フィル=セリオンの扉が、真に開かれる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ