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踊るだけで勇者パーティ最重要職!?テーマパークのダンサー、異世界でバフ職踊り子してます  作者: 烏丸 燈


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第三十八話 祈り子

 ザハルの言葉が消えると同時に、場には静けさが戻った。


 だが、その静寂は決して穏やかなものではなかった。


 息を詰めたような緊張と、燃え残るような痛みの余韻が、空間の隅々にまで染み渡っていた。


 苦痛の果てに舞い終えた美怜は、血に染まった足を引きずるようにして座り込む。顔は蒼白で、唇はかすかに震えていた。


 ティナが駆け寄り、手を握る。


 「ミレイ、もう無理しちゃだめにゃ……! これ以上踊ったら、本当に……!」


 「……平気だよ、ティナ……まだ、大丈夫」

 美怜は、かすれた声でそう答えた。


 カイルも、黙っていなかった。

 「ザハル……!お前、ここまでやらせて、まだ搾り取る気か!?」


 アルもぽつりと言う。

 「酷い……」


 ザハルは肩をすくめて、ひとつ扇子を開いた。


 「まあまあ、私はただの黒魔術師さ。情報も、術も、等価交換で動いてる。それが禁術に関わる領域なら、なおさら慎重にね」


 「……聞きたいことがあるの」


 美怜が、ふいに口を開いた。


 「皆のこと。皆の過去を私は何も知らない。でも、それを知らなきゃ……“記憶”を辿る旅なんてできない」


 アルが顔を上げる。


 「そう……ミレイさんは皆さん達と深く関わってたわけじゃない。ただ一緒に旅して……それでも、想いはあるけど、過去を知らない……!」


 美怜は、思い出すように言った。


 「……そういえば、一人だけ、リュミナのことを深く知っていた人がいた……セリス・フィレーネ。あの人はリュミナの“祈り子”としての過去を知ってるはず……」


 「祈り子、ね」


 ザハルが目を細めた。


 「その単語、久しぶりに聞いたよ。だが、残念。そこまでの情報をタダで渡すほど、私は親切じゃない」


 「……条件は?」

 美怜は真剣に問う。


 「簡単なことさ」


 ザハルは指先で空を撫でるように動かすと、美怜の前に立ち、冷ややかに微笑んだ。


 「もう一度、見せてほしいんだ。君の“舞”。あの痛みに顔を歪めながらも舞う姿。あれは……実に美しい」


 「ふざけるな!」

 カイルが怒声を上げる。

 「白魔術で治療してもまだ血が止まってもいないんだぞ!こんな状態で舞わせるなんて……!」


 「やめてよ!もう!」

 ティナも叫ぶ。

 「ミレイはもう十分踊った!これ以上痛い思いをさせないにゃいで……!」


 だが、美怜はゆっくりと、立ち上がった。


 足から血が流れている。ふらつき、崩れそうな身体を、彼女は必死に支える。


 「やるよ……踊る。私には、もうそれしかないから……」


 「ミレイさん……やめてくださいっ!」

 アルが思わず声を漏らす。




 ザハルの目が輝いた。


 「実にいい。ならば、始めよう。祈り子の記憶の扉を開く鍵として、その苦痛の舞、見届けさせてもらおうか」


 再び、魔方陣が広がる。


 今度は祭壇の周囲ではなく、美怜一人を包むように円環が形成された。


 足が焼けるように痛む。皮膚の下で針が暴れているような灼熱が、舞うたびに広がっていく。


 それでも美怜は腕を伸ばし、空気を裂くように舞った。


 表情は、苦悶に歪む。


 汗と涙が交じり、咳き込みながら、それでも足を止めない。


 旋回、踏み込み、跳ね上がる。


 そのたびに、血が飛び散り、肉が裂ける音さえ聞こえてきそうだった。


 「やめて……!」


 アルが思わず顔を覆った。


 だが、美怜の瞳だけは、誰よりも強かった。


 「私は……彼らを、取り戻す……! そのためなら……この痛みも……っ」


 ザハルは満足げに扇子を畳んだ。


 「よろしい。では契約通り、“祈り子”の情報を渡そう」


 彼は黒革の書物を取り出し、数ページをめくった。


 「かつて“祈り子”は、東方の山岳地帯に存在する《聖域フィル=セリオン》で修行を積んだ。外界との接触は限られており、舞と祈りを通じて神の声を聞く巫女のような存在だったという」


 「……そこに行けば、リュミナの過去が……!」


 美怜の瞳が、決意の炎に灯る。


 ザハルは頷く。


 「たぶん、セリスという者も、その聖域と関わりがあるはずだ。探すなら、まずはフィル=セリオンへ向かうことだろうね」


 「ありがとう……ザハルさん……」


 美怜は息も絶え絶えに微笑んだ。


 血のにじむ足で、彼女は再び仲間を見た。


 「行こう……みんな。彼らの記憶を辿る旅を、今度は、私たちが」


 アルたちは黙って頷いた。


 その瞳に、誰もが決して揺るがぬ決意を宿していた。


 彼らの新たな旅が、今、始まろうとしていた。

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