第三十五話 自分が差し出せるもの
「君は、いったい——何を差し出せる?」
その問いに、空気が凍りついた。
誰もが息を呑む中、美怜は拳を握りしめる。
「……私の“舞”です」
ザハルの眉がぴくりと動いた。
「……ほぉ?」
「私は踊り子です。舞は私の核で、命そのもの。……それを、あなたに捧げます」
ザハルは数秒、沈黙し、やがてふっと笑った。
「傲慢で、純粋。それだけ自信があるってことだねぇ……」
彼は身体を翻し、祭壇へと歩きながら、手をひらひらと振った。
「けど残念、君の舞はまだ“完成”していない。魂と器をつなぐには、その舞が“神楽”に至らなければならない。未熟な舞では魂がはじかれてしまう。つまり——“痛み”を知らない踊りでは、扉は開かない」
「……だったら、私、もっと練習します。もっと舞えるように……!」
「違うよ」
ザハルがぴたりと足を止めて振り返った。
「練習じゃない。魂を焦がす“代償”を知る必要があるんだ。君の舞に、痛みという名の“真実”を刻むんだよ」
彼は、指をパチンと鳴らした。
次の瞬間、美怜の足元に、黒い紋様が滲み出た。
淡く、熱く、まるで焼き印のような痛みが、じわりと脚に絡みつく。
「……っ!」
美怜は思わず膝をつきそうになるのをこらえた。
「その印は、君が踊るたびに疼く。筋を裂き、骨を軋ませるような痛みだよ。でも——舞は踊れる。華麗に、美しくね」
「……なんてことを……!」
アルが叫ぶ。
「それでも、踊れるなら……」
美怜は震える声で言った。
「……それでも、彼らを助けられるなら、私は舞う……!」
ザハルはにっこりと笑った。
「うん、いい顔だ。君はとてもいい素材になる。苦しむほど、美しくなる」
カイルが低く呟く。
「……やっぱり、外道だな」
「ははっ、そうだろうとも。でも私は仕事には誠実だよ。器は造ってやる。——さあ、踊りたまえ。痛みを纏い、魂を呼び戻すために」
その瞬間、祭壇の上で黒い霧が渦を巻き始めた。
儀式は始まった。
足の奥、筋にまで沁み込むような灼熱の痛みが、私の身体を締めつける。
それでも——私は舞う。
痛みとともに、美しく。
仲間を取り戻すために。




