第三十三話 禁術・肉体の生成
アマネはしばらく美怜の顔を見つめていたが、やがてふっと視線を外し、結界の端に腰を下ろした。
「ほんでやな……あんたには、もうひとつ話しとかなあかんことがあるんよ」
小さな香炉に炭をくべ直しながら、彼女はぽつりと続けた。
「魂を繋ぎ止めることができた。せやけど、それだけじゃ、彼らは“器”を持たんまま、漂うことしかできへん」
美怜はゆっくり頷いた。
「……その“器”を、作る方法があるってことですか?」
アマネは短く笑った。
「あるには、ある。……けどな、それは“禁術”や」
その声には、さっきまでの軽やかさがなかった。
「“肉体の再生”——いわゆる、魂を宿すための新しい器を錬成する術。それを研究しとる奴がおる」
私は思わず身を乗り出す。
「誰……なんですか、その人は?」
アマネは、香炉の煙を見つめたまま、しばし沈黙した。
「……ザハル・アル=ナジル。黒魔術を極めたダークエルフや。見た目は妖艶、頭は切れる。けど、あれは……まともな道理が通じるような奴やない」
「それでも……!」
美怜は思わず声を上げる。
「彼らを助けるためなら、私はどんなことでも……!」
アマネは、鋭く美怜を見た。
「あんた、あのザハルに会うってことはな、魂の芯まで覗き込まれるっちゅうことや。あいつは、弱さを見て笑う。苦しみを見て楽しむ。……そういう奴や」
美怜は唇を噛んだ。
けれど、胸の奥から、強い声が湧き上がる。
——怖くても、逃げられない。
美怜は、もう決めたのだ。
「……それでも行きます。私は、彼らを取り戻したい。リュミナも、ガイアも、ライアスも。……どんな方法であっても」
アマネは小さく息をついて、立ち上がった。
「……せやな。そう言うと思ったわ」
彼女は懐から古びた封書を取り出した。
「これは、あいつの居場所への“鍵”や。地図には載ってへん、地下のアジト。昔、一度だけ使うたことがある。……命は、保証せん」
美怜はそれを、震える手で受け取った。
「ありがとう、アマネさん」
「礼なんていらんよ。むしろ、あんたが戻ってこれるかどうかが心配やわ」
アマネは肩をすくめながらも、ほんの少しだけ、優しい眼差しを向けた。
「ザハルは、“真実”を見抜く力を持っとる。その代わりに、“人を壊すこと”も得意や。……けど、あんたがほんまに“覚悟”があるなら、きっと、あの化け物すら、見返せるはずや」
美怜は拳を握った。
この手で、彼らの“命”を取り戻すために。
今度の旅は、魂ではなく——肉体を取り戻すための戦いだ。




