第三十一話 呪具師の手伝い
「手伝ってほしいことがあるんやけど……どや?」
アマネの唇が、挑むように吊り上がる。
その目は、まっすぐに私を見ていた。
「……私に、ですか?」
思わず問い返すと、アマネはくつくつと喉の奥で笑った。
「そうそう。アンタや。踊り子のあんさんにしかできへんことやねん」
彼女は手をひらりと動かすと、奥の祠へと私たちを招いた。
朽ちた柱。苔むした石畳。祠の内部は、外よりもさらに静まり返っていた。まるで時すらここを避けて流れているかのように。
中央には、三日月型の祭壇と、歪んだ円を描くように埋め込まれた幾何学紋。そこに、かすかに燻る線香の香りと、淡い鈍色の光が漂っていた。
「この祠にはな、“魂を守る結界”が張られとる。正確には、“魂をこの世に繋ぎとめておく結界”や」
私の背で揺れる武器たちが、微かに震える。
「本来やったら、この結界がしっかりしとるうちは、魂はここで穏やかに眠る。けどな——」
アマネはゆっくりと床の紋に触れた。
「最近、力が弱うなっとる。結界が、軋んどる。放っときゃ、あんたの背負ってる魂たちも、共鳴していつか“壊れる”やろな」
「そんな……!」
「それを防ぐにはな、この結界に“舞”を刻まなアカンねん」
「……舞?」
「せや。これはな、舞によって起動する結界や。魂と共鳴する“舞”の波長が、封じたものを安定させる。ただの踊りやあらへん、これは祈りであり、術や」
アマネは真剣な目で、私を見つめる。
「ほんでな、今うちが見た限りだと、あんさん舞えそうやと思ってな」
「わたし……?」
心臓が、どくり、と鳴った。
「なぁあんた、自分の舞が“誰かの心に届いとる”って、わかっとるか?」
唐突な問いに、返事ができなかった。
でも、どこか、わかっていた。
私の踊りが、戦場の空気を変える瞬間。
「あんたの舞、魂に触れる力がある。うちには分かる。それは“ただの踊り子”にはない資質や」
アマネは一歩、私に近づいた。
「やってみるか?あんたの踊りで、あの武器ん中の魂——あんたが愛しとる者たちを、“繋ぎとめる”力、試してみいへんか?」
口をつぐむ私の横で、ティナがこっそり背中を押してくれた。
アルは不安げに私の袖を握っていたけれど、瞳には“信じる”気持ちが宿っていた。
カイルは何も言わなかったが、静かに頷いてくれていた。
私は小さく息を吸い込み、アマネの瞳を正面から見つめ返す。
「……やります。私にしかできないことなら、やらせてください」
アマネは満足げに笑い、背後の棚から布の包みを取り出した。
「ほんなら、舞の場を整えようか。ええか? これは命の舞や。うちは“魂の音”を聴かせるけど、踊るのは——あんたやで」
こうして私は、再び踊り子として舞台に立つ。
命を繋ぐ、たった一人の踊り子として。




