第三十話 呪具師を訪ねて
私たちの新しい旅路は、「武器の声」に応えるためのものになった。
その始まりとして、最初に声を上げたのは、カイルだった。
「ちょっと思い出した。……いや、まあ、試してみる価値はあると思う」
宿の食堂で朝食を囲んでいるとき、彼はぽつりと切り出した。
「俺さ、昔な……妹の病気を治すために、いろんな場所回ったことがあってさ」
「その中に、一つだけ“変な村”があった。秘境の中にぽつんとあって、地図にも載ってないような場所なんだけど、そこに一人、腕の立つ呪具師が住んでるんだ」
「呪具師……!つまり、呪いや霊的なものに詳しい人……?」
美怜の言葉に、カイルは頷いた。
「そう。結論から言えば、妹の病気を治す呪具はなかったんだけどな。でも、あの人、ちょっと変わっててさ。妙に人の心の中を見透かしてくるっていうか……」
「怖い人……なんですか……?」
アルが震えだす。
「なんか、その人面白そうにゃ!」
ティナが身を乗り出した。
「名前は、アマネって言ったかな。年は……二十歳半ば、俺と同じくらいだったと思う。黒髪で、肌がちょい焼けてて、金色の目。言葉が訛っててな、どこ出身か聞いても『知らんがな』で流された。とにかく……“ただの変人”じゃない」
「それだけ特徴あれば、忘れようにも忘れられないにゃ」
ティナはうんうんと頷く。
「魂のことが分かるって、普通じゃない……でも、ライアスさん達を助けられるなら……」
アルが不安そうに呟く。
「私も、会ってみたいです。何か知ってるかも……!」
私も思わず身を乗り出していた。
「じゃあ、決まりにゃ!」
ティナが立ち上がって拳を突き上げた。
「ミレイの元カレ、取り戻すための第一歩にゃ!」
「ちょっと!!もうそれいいって!」
こうして、私たちは“地図にない村”を目指して、旅に出ることになった。
そして——
数日後。
険しい山道を越え、滝を渡り、獣道のような細道を通って、ようやくたどり着いたのは、霧に包まれた小さな集落だった。
古びた石と苔の匂い。鳥の声すら遠い静寂。
「ここが……」
「たぶん、間違いない。俺が来たときも、こんなだった」
カイルがうんうんと頷く。
「なんだか……空気が、違う……」
アルが周囲をきょろきょろと見回す。
「すごく静かで……でも、どこかで誰かに見られてるような……」
そして、村の中央——朽ちた祠のような建物の前で、私たちは彼女と出会った。
「おやおや、また来たんかいな?今度は何を治してほしいんや?」
声がした方を見ると、そこに立っていたのは、長く艶やかな黒髪、焼けた肌に金の瞳を持つ女だった。
年の頃は二十代半ばくらい。白い羽織のようなものを肩にかけ、腰には奇妙な形の道具が何本も下がっている。
「アマネ……!」
カイルが驚いた声を上げた。
「おぉ、元気そうやん。まだ妹ちゃんの病気、諦めとらんの?根性あるわ〜」
「……いや、今日はその話じゃねぇ。お前に、聞いてほしいことがある」
アマネは一瞬だけカイルの顔を見つめ、それから私たちの方に目を向けた。
そして、私が背負っていた三本の武器を見た瞬間——金色の瞳が鋭く光った。
「……ふぅん。こりゃまた、面白いモン背負ってきたなぁ」
彼女はゆっくりと私に近づくと、ひとつひとつ、武器を眺めながら小さく呟いた。
「……これ人の魂が宿っとるわ。ようこんなもん、無事に持ってこれたなぁ……」
「宿ってる……?やっぱり、これは……!」
アマネはニヤリと笑った。
「うちは“心の器”って呼んどる。魂が、肉体の代わりに宿る器。まぁ滅多にお目にかかれんわ」
私の胸が大きく跳ねた。
「……助けられますか?彼らを……この中から出すこと、できますか?」
その問いに、アマネは軽く指を振った。
「それができたら苦労せんわ〜。けど、ヒントくらいはやれるかもな。ほんで、それにはちぃとばかし、アンタらに“手伝ってほしいこと”があるんやけど……どや?」
彼女の口元には、挑戦的な笑みが浮かんでいた。
こうして、ライアスたちを救うための新たな取引が始まろうとしていた。




