第三話 初任務、いきなり無理なんだけど!?
パーティーに加入した翌日。
私はさっそく現実を思い知らされた。
朝から連れてこられたのは、街の外れにある野営地だった。小さなテントが三つ、武器や荷物がずらっと並び、見たことのない装備を身につけた人たちが出入りしている。
「……あの、ライアスさん?」
「ん?」
「これって……もう、旅、始まってません?」
「始まってるよ。昨日も魔物倒してきたし」
軽っ!!
ライアスは腰の剣を確認しながら、「じゃ、今日の討伐行くよ」と当然のように言ってくる。
「え、ちょ、ちょっと待ってください!まだ私、装備とかないですし、練習も……!」
「踊るだけだし大丈夫。それに、君はきちんと装備してるし」
いや、ハロウィンパレード衣装のままなんですけど!?
黒と赤の燕尾服、スカート、ラインストーンきらきら。この格好で魔物と対峙するの??
「というか、ダンスって、どうすれば魔法になるんですか?」
「……体感で覚えるしかないかな!」
なんて雑な説明!?
隣にいた銀髪の男性(昨日の受付の人)が私の困惑顔を見て、苦笑しながら言った。
「俺たちも最初は驚いた。“踊っただけでパワーアップ”だからな。でも実際、踊り子の魔力は動きに宿る。型にはまれば、自然と発動する」
「へ、へぇ……」
私はまったく納得していない。が、もはや聞いても理解できる自信がない。
結局そのまま、森の奥へ連れていかれた。
メンバーはリーダーの勇者ライアス、銀髪の剣士ガイア、魔法使いのリュミナ、そして私。
「敵は小型のスライム数体。あっちは危険じゃないから、まずはミレイが“踊りバフ”の練習をしてみよう」
「……わかりました。やってみます」
深呼吸。
心を落ち着けて、ステップを刻む。
某テーマパークのパレード用基本ステップ。ターン、跳ね、手を振り、笑顔で!
(出ろ……何か出ろ……!)
体が温かくなるような感覚は、確かにあった。
すると、目の前で剣を構えていたライアスの体が、一瞬光に包まれた。
「よし、今の、攻撃力バフだ!」
「ほんとに出るんだ……!?」
自分でもびっくりして止まる。
けど、その瞬間——
「きゃあぁっ!」
後方で叫び声。振り向くと、魔法使いのリュミナが、スライムに飛びかかられて地面に倒れていた。
「な、なんで!? スライムって弱いんじゃ……」
「バフ切れた瞬間にこっちに向かってきたのよ!あんたが踊るの止めたから!」
「ちょっ、ちょっと待って!? 私そんな責任重大なの!?」
怒りでエルフ耳まで真っ赤にしたリュミナが服を叩きながら起き上がる。
「油断した私も悪いけど……踊り子って、支援切らすと真っ先に狙われるから気をつけなさいよ!」
(いやいや聞いてないし!!!)
その日の帰り道、私はくたくたになりながら歩いた。
ただ踊っただけ、じゃない。常に周囲を見て、息を乱さず、魔力を流し続ける。
まるでステージ本番を何時間も続けてるみたいな、異常な疲労感だった。
「……勇者パーティーって、こんなに……」
「キツいか?」
隣を歩くガイアが、ぼそっと言った。
「だが、あんたのような奴が入ってくれて、少し安心した」
「……なんでです?」
「華やかだからだ。殺伐とした戦場に一人、笑って踊る奴がいるだけで、なんとなく救われる。士気っていうのは、そういうものだ」
私は黙って、歩きながらその言葉を反芻した。
ステージじゃなくても、誰かの心を動かせるのなら——
この世界でも、私のダンスに意味はあるのかもしれない。
そう思ったのもつかの間、次の街で受けた任務の内容を聞いて、私はもう一度言うことになる。
「聞いてないんですけど!?!?」