第二十五話 魔王戦
——呪いの森。
ねっとりとした瘴気が絡みつくような空気の中で、私たちは“それ”と対峙していた。
魔王。
かつて、ライアス、ガイア、リュミナそして、美怜を絶望させた存在。
……見間違えようがない。
真っ白な髪、赤い瞳、少女のような外見。
でも、その無垢さの奥にあるのは、冷たく乾いた“破壊”の意志だった。
その瞬間——魔力が爆発した。
「来るにゃ!!」
ティナが殴り込み、カイルが魔法の結界を張る。
「くそっ、速すぎる!」
魔王の手が虚空をなぞるたび、地面から黒い手が生え、私たちを押さえ込もうとする。
祈りのステップでかわすも、幻覚と腐臭が視界と嗅覚を侵していく。
「やばい……あの時より強い……!」
身体が揺れる。
恐怖と焦りが喉にせり上がる。
「アル……!」
私は叫んだ。
そして、その名を呼んだとき——風が、止まった。
アルが、前に出た。
ただ一歩、前に出ただけ。
でもその瞬間、空気が……変わった。
「——……君が、魔王なんだね」
アルは、ただ静かにそう言った。
手にしていたのは、いつものように杖。
けれどその杖から、白銀の光が生まれ、世界を貫いた。
まばたき一つの間に。
魔王の右腕が、消えた。
「……え?」
ティナが呆然と呟く。
カイルが、反射的に立ち止まった。
「今、何した……?」
魔王は無言で後退した。
空間がひび割れたような音がして——アルがもう一歩、踏み出す。
「終わらせる」
その言葉の後、杖を振る動作が見えた気がした。
——気がつけば、魔王の身体に幾重もの“光の輪”が絡みついていた。
「君は……」
魔王の口が何かを言おうとしたが、その声も、光に飲み込まれた。
黒い霧が爆ぜる。
風が舞い、瘴気が吹き飛ばされる。
静寂が戻ったとき、そこに魔王の姿はなかった。
誰も、言葉を出せなかった。
「……終わったよ」
アルが、いつもの調子でそう言ったとき、私たちはようやく息を飲んだ。
「え……まって……あんにゃの……」
「瞬殺ってレベルじゃねえぞ……」
ティナもカイルも、アルをまじまじと見つめていた。
「アルって……そんなに強いの?」
美怜は唖然とした。
「え?う、うん……まあ……多分、頑張った……からかな……」
アルはしどろもどろに笑ってみせる。
でも、笑顔の奥に隠れた何かは、私たちには見抜けなかった。
ただ一つ、確かなのは。
——あの魔王を、たった一人で。
——あんなにも、あっさりと。
倒してしまったのは、アルだけだったということ。




