第二話 面接と聞いてない内容
翌朝、私は宿の女将さんに朝食を出してもらいながら、昨日拾ってきた求人票を広げていた。
『踊り子募集!勇者一行、旅の仲間募集中!報酬あり』
踊れる仕事。それだけでありがたい。
よく読めば「勇者」とか「旅」とかツッコミどころはあるけど、今の私にはそれよりも生活費の方が重要だった。
女将さんも言っていた。「この街じゃ女の子がまともに稼げる職なんて限られてる」と。
踊り子なら得意だし、ステージもなくていい。人がいて、音楽があればいい。
そんな軽い気持ちで、私は指定された面接会場へと向かった。
面接会場とされていたのは、街はずれの小さな武具店の二階だった。
「……え、ここ?」
てっきり劇場とか、もっとこう、華やかな場所を想像していた私はちょっと拍子抜けした。
けど、店の扉を開けると、ひとりの男性がカウンターに肘をついて待っていた。
銀髪で背が高く、肩に剣を背負っている。黒の外套に傷だらけの革手袋。ちょっと目つきは怖いけど、そこまで悪人っぽくはない。
「お前が踊り子志望か?」
「あ、はい……求人票見てきました!」
「二階だ。パーティーリーダーが面接する」
パーティーリーダーってなんだろう……座長的なやつかな?
そう考えながら、二階へあがった。
ドアを開けると、そこには二人の男女が待っていた。
——そして私は、ドアを開けた瞬間、空気の違いを悟った。
部屋の左に座る、緑のローブを来た美人な赤毛の女性がこちらを睨みつけていた。
え……この人……耳尖ってる……なになに付け耳?なんかのコスプレ?
部屋の右に座っている金髪の青年は、まぶしいくらいのオーラを放っている。
金髪に、白いマントに、銀の鎧。なんか、ほんとにほんのり光ってるんですけど……。
「君が踊り子志望の子だね。僕がこのパーティーのリーダー、勇者ライアスだ」
「……勇者?ってあぁ、私は奈々瀬 美怜と言います!」
「そうかミレイか。僕達は世界を救う旅の途中なんだ。君には、僕たちの“バフ担当”として加わってほしい」
「ばふ……?」
何それ、カクテル?
「バフっていうのは、踊りで味方を強化する補助行動のことさ。攻撃力を上げたり、移動速度を上げたりね」
「ま……まさか……それって、私、戦場に立つんですか?」
「もちろん!」
「……」
完全に、想定外だった。
(えっ、踊るって、そういう意味!?RPGゲーム的な?)
私はてっきり、巡業とか、町おこし系イベントの旅公演的なやつだと思ってた。
まさか魔物が出るようなところで、剣振ってる人の横で踊るなんて、聞いてない!てか、意味あるのか、それ!
「え、あの、ちょっと待ってください!私、武器とか持ったことないし、戦い方って言われても……」
「大丈夫、踊ってくれればいい。前衛は僕らがやるから。君は後ろで美しく跳ねてくれれば、それだけで力になる」
「跳ねる……?」
だが、リーダーのライアスは真剣な目で言った。
「戦いの中にだって、美しさは必要だ。士気が上がる。動きが洗練されていれば、魔力の乗りも良くなるんだ。踊り子はただの飾りじゃない」
……変な人だなと思ったけど、なんだろう、ちょっと説得力ある。
それに、ここで断っても、他に仕事はない。宿代は明日まで。次の保証はない。
「……あの、旅って、危険なんですか?」
「うん、まあ命は張るね」
「即答なんですね」
「でも、報酬は保証するし、もし君が踊ってる間に敵が君に攻撃しようとしたら、僕が絶対守る」
その言葉はちょっと、ぐっと来た。
舞台だって、前に立つほどリスクはある。でも、支えてくれる仲間がいるなら——
「……じゃあ、やってみます。私、踊ることしか取り柄ないし」
ライアスは笑った。
「ようこそ、僕たちのパーティーへ」
こうして私は、“勇者一行の踊り子”になった。
後に知ることになる。「バフが切れた瞬間に仲間が全滅」とか、「呪いを踊りで解除しろ」とか、「敵がこっちにヘイトを向けてくる」とか。
いや、ほんと、聞いてないからね……!