第十八話 記録の都へ
翌朝。
空気はひんやりとしていて、昨日の戦いが夢だったように感じた。
けれど、腰につけた鈴が、歩くたびに微かに鳴る。あの夜の記憶は、現実だ。
「おい、ミレイ」
市場通りでパンを齧っていたカイルが、紙くずを広げて見せた。
地図だった。中央都市アークルゼンへと続く道が、赤く線引きされている。
「ここだろ。情報集めるんなら」
「……うん。行こう、アークルゼンへ」
あのセリスの言葉が、胸に残っていた。
「リュミナは祈りを捨てた」。
なぜ?いつ?彼女は、どこに行ったの?
私は、もう一度あの人の背中を追いかけたくなっていた。
街を発つ準備をしていると、ティナが手を腰に当てて言った。
「ふーん。結局あたしたち全員、ついていくことになったにゃ」
「いや、別に無理にとは……」
「バッカにゃ。仲間にゃ。ひとりで抱え込むなにゃ」
「そーそー。どうせ中央都市なら、治療研究所もあるだろ?俺の目的地でもある」
カイルが珍しく真面目な顔をした。
「……それに」
アルが、小さな声で口を開いた。
「リュミナさんって……ミレイさんの、昔のパーティーメンバーなんだよね……?だったら、魔王の手がかりもあるかもしれない……」
その言葉に、私は目を見開く。
「そう、だよね。リュミナも、ライアスもガイアも……魔王と出会った」
もし、彼らの軌跡を辿れば——今、私たちがどこへ向かうべきかが見えてくるかもしれない。
「よーし!じゃあアークルゼンで“ライアス・パーティー”の記録、探しにゃ!」
「お前、ライアスのこと知らないだろ」
カイルかツッコむ。
「ミレイの元カレかにゃ?」
ティナがくすくすと笑う。
「え、ミレイさん元カレとかいたんですか……!?」
アルが動揺する。
「違う!!!!!」
美怜が食べてたパンを吹き出した。
その瞬間、みんなが笑った。
なんだろう、この空気。
昔、パーティーの仲間と旅をしていたときの、懐かしい感じに、少し似ている。
「……じゃあ、行こうか。記録の都へ」
誰かの過去を追うことは、
きっと、自分自身の現在を見つめ直す旅でもある。
私は、踊る。
祈りを込めて。
もう一度、あの人達の背中を目指すために——。