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第十二話 闘技場バトル・開幕!

 朝、まだ太陽が昇りきる前。


 闘技場の前には、すでに大勢の観客が詰めかけていた。香辛料と砂煙の匂いに混じって、ざわざわとした熱気が立ちのぼっている。


 「うっひょおおお!この感じ!血が沸き踊るにゃあああ!」


 開場の鐘と同時に、ティナが両拳を突き上げて飛び跳ねた。革ブーツが地面を軽く蹴って、ぽんっと身体が浮く。


 「うるさい!ちょっと落ち着いて!!尻尾ぶんぶんだし!!」


 「ミレイ、あたしは今が一番落ち着いてるんだにゃ」


 「それ、落ち着いてるって言わないよ!!」


 


 観客席からは、すでに前座の試合が始まっていた。地元の若者や旅の冒険者たちが、腕試しと名を借りて拳を交えている。


 砂を蹴り上げ、叫び声が響き、地面を揺らすような音が次々と闘技場を駆け巡っていた。


 


 「ティナさんは、何組目の試合なんですか?」


 「三組目にゃ。対戦相手は……どれどれ。おお、見た目がごつい筋肉ダルマオークにゃ!」


 「筋肉ダルマ!!??完全に仕留めに来てる雰囲気じゃん!!」


 「望むところにゃあああああ!!」


 


 アルは緊張で汗だくだった。


 「えっ、ええと、僕らはどうすれば……?」


 「応援。あとでおまえも出るかもしれんがな」


 「!?」


 カイルの頭の中はティナかアルが優勝賞金を取ってくることしか無かった。




 そうして、第三試合——ティナの出番がやってきた。


 猫耳ふわふわのロリィタ武闘家が、ポンとリングの上に跳び上がった瞬間、観客席がどよめく。


 「なんだあの子!?猫獣人!?」「うわー、瞬殺されそう〜〜」


 ティナはにやりと笑った。


 「舐めてると、痛い目見るにゃ」


 対するは、体格二倍はあるオーク戦士。全身傷跡だらけで、持ってる鉄棍棒が妙に禍々しい。


 開始の鐘と同時に、オークが突っ込んでくる。


 「グアアアアアア!!」


 その瞬間——


 「爆脚旋風!!」


 ティナの回し蹴りが火を巻いて、空気を裂いた。


 ゴッ、と重い音。


 オークの巨体が宙を舞い、そのままリングの外へ吹っ飛んだ。


 ……場内、沈黙。


 直後、観客が一斉に爆発した。


 「え!?強っ!?」「なんだあの猫!?」「好きッ!!」


 ティナ、両手を掲げてドヤ顔で叫ぶ。


 「にゃっはー!あたしが最強にゃあああああ!!!」


 「やばい……!スター誕生してる……!」

 美怜は焦りながら実況した。




 観客の熱が冷めやらぬうちに、次の試合。


 なんと、アルが呼び出された。


 「ぼ、僕!?えっ、えっ、やるの!?いま!?!?」


 「行ってこい。死ぬなよ」


 「気軽に言わないでカイルさん……!!」


 


 相手は弓使いの青年。遠距離戦かと思いきや、アルが杖を握った瞬間、空気が変わった。


 ——パキッ。


 杖の先が光を帯びると、地面が揺れ、魔方陣が浮かび上がる。


 「出力……下げて……コントロール、コントロール……!」


 次の瞬間——


 ズドオオオオオォン!!


 光の束が爆発し、闘技場の床が崩壊した。


 「わ、わ、わああああ!!ご、ごめんなさい、ごめんなさい!!暴発しましたああ!!」


 アル、顔面蒼白でその場に土下座。相手の弓使いは瓦礫に埋もれていたが、ギリギリ生きていた。


 「……なにこの勇者……爆弾か何かなの……?」

 美怜はあんぐりとした口が閉じれなかった。

 



 その後、最後に私がステージに立った。


 聞いてないんですけどー!!!???

 カイルさん……閉会式のソロダンサーに当選したからって急に言われても……


 「観客の前で……踊るのって久しぶり……」




 私は一歩、また一歩、ステップを踏んだ。


 火照った空気の中、腰の鈴が鳴る。


 流れるようなターン。しなやかな指先。砂を巻き上げる軽やかな足取り。


 観客が、静かになっていくのがわかった。


 誰もが、目を奪われていた。


 ——戦場で、踊るということ。


 それは、戦い方のひとつだと、今なら胸を張って言える。


 


 試合後、私たちは結果を告げられた。


 「武闘家ティナ、優勝。踊り子ミレイ、特別賞。勇者アル……規格外危険人物扱い。出入り禁止」


 「アルだけ罰ゲームみたいになってる!?!?」


 カイルはティナの優勝賞金と美怜の賃金を計算し、そこからアルの損害賠償を引いて計算していた。その表情からみるにプラスだったようで口笛を吹いていた。


 「……会場壊しちゃって……ごめんなさい……でも、少しだけ、嬉しかったんだ」


 アルは、はにかんで笑った。


 「怖いままだった。でも、ちゃんと戦えた。ティナさんの背中を見て、前を向けた気がしたんだ……」


 私はその言葉に、少しだけ自分の姿を重ねた。


 


 こうして私たちは、“闘技場”という戦いの場で、ひとつ前に進んだ。


 それぞれのやり方で。


 次の街では、また違う冒険が待っている。


 でも私は信じてる。


 “戦い方”はひとつじゃない。


 ——踊って、護って、繋ぐ。


 それが、私の物語の続き。

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