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第十一話 踊り子といえば、あの衣装

 「ついたにゃーーーッ!!」


 猫耳がぴょーんと跳ねた。


 灼けた石畳と、砂色の建物が並ぶ街。その中心に広がる広場では、赤と青の布を身にまとった踊り子たちが民族音楽に合わせて軽やかに舞っていた。


 「砂の街・バルセム……まるで別の国に来たみたい」


 空は晴れ渡り、風は乾いていて、どこからか香辛料と油の匂いが漂ってくる。


 カイルはふぅと息をつき音頭を取った。

 「さーて、とりあえず旧装備を売って、新しい装備整えるぞ。金は有限だ、無駄遣いはするなよ。特に猫」


 「ひどいにゃ!でも無駄遣いはしないにゃ。あたしは必要な装備しか買わない主義にゃ!」


 「で、その“必要な装備”にこの新入りの衣装も含まれてるわけか?」


 「当然にゃ!!」


 


 そして今——私は店の試着室で、泣きそうな顔をしていた。


 「……これは……着るの……無理……!」


 鏡に映った自分は、明らかに“踊り子”というより“高級娼婦”に見えた。


 深く開いた胸元。布というより紐に近いウエスト部分。腰から太ももにかけて大胆にカットされたスリット。

 スパンコールがキラキラと光を跳ね返し、微妙に肌が冷える。


 「ステータス的には最高なんだにゃ〜!魔力上昇+速度上昇+魅力極振り!あと布が少ないから風通しもいいにゃ!」


 「風通しいらないよ!!」


 「パーティー内での役割はちゃんと分担が大事にゃ。あたしは可愛い担当で、ミレイはセクシー担当にゃ!」


 「勝手に役割決めないで!?ていうか見た目だけで分類しないで!私だってかわいい路線でいけるかもしれないでしょ!」


 「いけないにゃ」


 即答。


 「ほら、あたしは見た目はロリィタ、でも中身は戦闘狂にゃ!ギャップ萌えってやつにゃ!」


 「その理論で言うなら、私は内面すごく健全なのに!外見が露出狂になっちゃうの!」


 「だいじょーぶにゃ〜。踊り子ってそういうもんにゃ〜」


 「そういうもんで納得しないでよぉおおお!!」


 


 そのあと、店主が苦笑しながら持ってきた「性能は同じだけどもう少し布面積が多いタイプ」の衣装をなんとか選んで落ち着いた。


 「ま、悪くないにゃ。ちょっと露出控えめだけど……踊ったときにビーズが揺れるデザインになってるにゃ。ちゃんと“魅せる”服にゃ!」


 「……あんた、服屋になればいいのに……」


 「戦うのが好きだからムリにゃ」


 


 装備更新が終わり、夕暮れの市場に出た頃には、アルが荷物に埋もれてふらふらしていた。


 「う、重い……つい……鍋とかも買っちゃって……ごめんなさい……」


 「旅先で自炊を想定した買い物ってのは意外とポイント高いけどな。あとで薬草拾って売った金で食材買って、その鍋使うぞ」


 「カイルさんの言葉って、時々商人と区別つかなくなる……」

 美怜は苦笑した。


 


 ティナがくるりと一回転して、新しく買った革製のフリルとリボンが付いたブーツを見せびらかす。


 「このブーツ、滑らない加工がしてあるにゃ! このブーツを履いて明日は朝から“腕試し会”に出るにゃ!」


 「えっ? それって参加するの……?」


 「当たり前にゃ!あたしがあたしであるために、拳で勝負してなんぼにゃ!」


 「宿で休むって選択肢は……ない?」


 「ないにゃ!!」


 


 私はふと、夜風に揺れる小さな鈴の音に気づいた。


 腰につけたあの鈴——リュミナからもらった、私の踊り子としての証。


 「……明日から、また戦いなんだよね」


 「うん……でも、大丈夫だよ」


 隣で、アルがぽつりと呟いた。


 「こないだはごめんなさい……今度は、きっと……ちゃんと、守るから」


 その声はまだ弱々しかったけど、少しだけ、昨日より強くなっていた。


 


 私はそっと、その言葉にうなずいた。


 砂の街の夜空の下で、私たちの冒険はまた、一歩進む。

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