第98話 死者を愛する者の罠 1
古代遺跡では、ヴェイル達が鬼の彫像軍を全て倒し終えていた。
頽れた彫像は地面に吸い込まれるように消え去っていたので、200体もの像が置いてあった空間は広く開け放たれた場所となった。
戦っている時には気が付かなかったが、手前には仕切りが立ててあり、中に入った壁面には『死者復活の間』とラキシャ語で書かれていた。
壁面には他にも、葉を茂らせた巨大な樹木の絵や、いつも天空に見えているこの星の双子衛星(双月)ミタリアI、IIとその間の空間の拡大図のようなものも描かれていた。
その手前には棚があり、ガラスのような素材の容器に入った種がいくつか置いてある。
更には解説の文字だろうか、ラキシャ語も連なって彫り込まれていた。
「……惑星ベラクロワに生まれし……生命……体の……」
少しだけ読めるヴェイルが読み上げてみた。
「……分からないな。フィスファーナ、読めるか?」
「はい」
フィスファーナが彼と交代して読み上げて行く。
言葉は古文で書かれていた為、皆に分かりやすいように文章を変えて伝えてくれた。
文面は、それぞれに分かれて描かれている壁面の下に、いくつかの文章に分けて刻まれてある。
それは、誰かが研究した結果を刻んでいった物だった。
5人で壁画を眺めて歩きながら、彼女がその下の解説を読み上げていく形になった。
【私は、この惑星ベラクロワに生まれた全ての生命体が、自らの存在意義を問う時に自分達が何処から来たのかを知る権利があると考え、研究して来た結果と後悔をここに記す。
我らはこの星で生まれ、この星に死ぬ。
けれども、死んだ後に何処に行くのかは、誰にも分かってはいなかった。
何処かにそれを示す場所は無いのだろうか。私の探索する日々は続いた。
そんな時、この洞窟を見つけたのだ。
この場こそが我らの死した先に辿り着く場所を知り管理する神、ガダルシアが作った物だった。
洞窟の探索を進める内、その神、ガダルシアは現れた。
彼は言った。
『双月ミタリアの間にある暗夜空間ルムンガーダこそが、其方らの魂の行き着く先である』と。
生命は死して魂はそこに送られる。
魂は一定期間そこに留まり記憶を忘れ、浄化された後、またベラクロワの生命に入り込む。
それを繰り返すのがこの星の生命体である。
真実を知った私は舞い上がった。
神への尊敬の気持ちを一気に持ったのだ。
ガダルシアは尚も言った。
『命の繰り返しの流れの中で、心を引き裂かれる程の別れを惜しむ者が出て来ることがある。
その者、自らの命も惜しまず死者を想う時、それを救済し死した者を再びこの世に蘇らせる弐なる方法を授ける事とする。
主に長き年数を生きる種族が苦しみを味わう時、それは許される。
どちらかの術を使って死者を復活させるが良い。
一つ、我の力を保たせる為、我と繋がるこの洞窟に自らの大量の命を捧げよ。
さすればルムンガーダに生えるユガドの樹の種を授けよう。
ユガドの樹の種は数十年掛けて大樹に育ち、この星の生命体の魔力を大量に吸い込む核を形成する。
その核を取り出し、強き魔力を持つ者の遺体に埋め込み、同化させると、蘇らせたい死者の魂と体を生きていた頃の姿に戻す光力となる。
一つ、愛する者の為に、洞窟に自らの長き寿命の半分を捧げよ。
さればルムンの翼を育成する魔石、プラバライアを授けよう。
その核を蘇らせたい者と同じ祖先の血を引く、魔力の高い者の体内に埋めよ。
核はその者の身体に寄生し、漆黒のルムンの翼を背に生やす。
翼が約1000フォラ(時間)を掛けて純白に染まる時、その者の命と魔力は核と翼に移り切り、宿主は息絶える。
死した宿主より溢れし核と抜け落ちたルムンの翼が2対、巨大なる呪岩に還り復活の呪文を詠唱した時、死者は復活するだろう。
ただこの方法を使うには必ず代償がある。それを恐れぬ者のみ実行するが良い』と。
私は彼の教えに従い、この地を整備し同志と共に遺跡として保存した。
後から思えば、私は利用されたのかも知れない。
ガダルシアは誰かがここを見つけ、自分に都合良く整え力の供給源になる事を画策していたのかも知れない……。だがその考えは確信に変わる事はなかった。
どの様な代償があるかは分からず、長年試してみる者はいなかったからだ。
しかし、とうとうこの方法を使って死者復活を成し遂げた者がいた。
それは我が身内であった。
止めるべきだったと私は思う。
誰かを復活させる為に、自らの命を差し出す者などいない。
いたとしても、復活させたい者への余程の愛と覚悟を持つ者でなければいけない筈だった。
我が身内はその確認を怠り、関係のない相手を騙して生贄にした。
結果、その者は復活した者と共に生き、寿命を終えて死した後、この遺跡を守る永遠の番人となってしまった。
それが神の言う『代償』だったのだ。
その者が番人となり石化した後、再びガダルシアが現れて言った。
『次に死者復活を実行する者が現れない限り、永遠に番人を辞することは許されず、愛する者と生まれ変わり、共に生きる機会は2度となくなるだろう……』と。
機会を与えておきながら罰をも与える……神の仕打ちとは恐ろしいものである。
身を裂く程の寂寥感に苦しむ者に死者復活を囁き、我ら鬼族の身体に宿る、この星の生命力を吸収するのがガダルシアの目的でもあるようだ。
彼は神であり、同時に悪魔でもあるだろう。
それでも尚、愛しき者の復活を願う者へ向け、後悔を含め、死者復活の方法と共にその代償もここに記しておく事にする。
後世の者達の生に幸あらんと切に願って止まない】
「……死者を復活させる為に、ユガドの樹の種をルガリエルのシュダークに与えて育てさせ、俺の遺体を手に入れて核を埋め込むつもりだったのか……
リヒトは代償も敢えて受ける心意気なのだろうか」
真実を知ったヴェイルが言った。
「そのユガドの樹を、あろう事か狙っていた遺体になる筈だったヴェイルに押し潰されて、霧にして消されてしまったから計画がダメになったって事だな」
リュークが返す。
彼らが最後の説明文、巨大なる呪岩の前に来た。
そこには確かに見上げるような大きな岩があり、翼の形が2対分彫り込まれていた。
下部には魔石プラバライアの核を嵌めるのであろう、楕円形の穴も2つ、彫られている。
穴の下にはラキシャ語の呪文が書いてある。
これを詠唱する事により、死者はまた復活するらしい。
「……それにしても、こんな巨大な岩を……」
ラザルが見上げて驚いたように言う。
呪岩は同じ物が6つ設置してあったのだが、手前の1つが壁面から削り取られ、無くなっていた。
「……きっとリヒトが持ち出したのね。彼は念動力も物凄く強いの。山肌をいくつも手の一振りで削って別の所に避けて、鉱脈を当てるような人なのよ……」
フィスファーナが呟いた。
「……ヴェイルの怪力を凌ぐ力だな」
リュークが恐ろしげに言う。
「それにしてもその『神』とやらは悪趣味だな。結局この星の命を弄ぶ行為をしている。オレ達生命体ってのは遊びの駒でしかないのか?
この文面を書いた者も、神の圧に押されて遺跡を整えてしまった事を反省している様だが……」
彼の憤りの言葉に、周りの者も頷いた。
彼らはやがて、遺跡を一回りして、元の位置の反対側の壁まで来た。
そこには守りのように人の型に巻き付けられた、ラキシャ語の帯が立っていた。
なんとも不気味な形だったが、その横に細長い台座が何台かあり、上にガラスに似た素材のケースが置いてあった為に、5人は近寄って繁々と眺めてしまった。
その中には、中心から外側に向けて黒から白に色を変える魔石がいくつか入っている。
2つの台座から、ケースが開けられ中が抜き取られている物があった。
「2つ取り出されたようだな。ロイの棺に入っていたものか。これが魔石プラバライア……もう1つも誰かに埋めるつもりなのか?」
ヴェイルが言う。
「ロイの背中に翼が生えていたが、リヒトはあいつを死者復活に使うつもりなんだな。なんて事を……」
リュークが悔しそうに言う。
「しかし、1000フォラで純白の翼に変わると書いてある。ベラクロワの日数で40日程だ。けれども6年もの間、彼の翼は黒いままだ……」
「……」
「あの子には見た所不自由もなさそうで、こう言うと変だが、……大切に扱われているようにも見えた。
リヒトは一体何を考えているんだろうか」
「知るもんか。遺体を攫うようなやつだぞ?常軌を逸している」
リュークが怒ったように返す。
「……そうだな」
彼の剣幕に、ヴェイルは曖昧な返事しか返せなかった。
「ヴェイル、台座にも何か刻んであるわよ?」
アウドラが彼に声を掛けて、台座に顔を近付けてみた。
「あれ?ここだけ古代エルフ文字だ……」
同じく近付いたリュークが言う。
「本当ね。これなら私でも読めそう」
アウドラが読み上げてみる。
「ええと……『遺跡に辿り着き、この文字を読むエルフの子らに告ぐ』」
彼女が読むと、台座が光り始め、続きの文章が現れ出した。
「え?」
フィスファーナが驚く。
光って新たに出現した部分をリュークが読む。
「『ダークエルフの祖、アズサーバルの血を引く魔族の者』」
「待って!読まないで!」
フィスファーナが何かを察知したのか止めに入った。
その時、
【……標的確認。……起動】
という微かな声がした。




