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麗しのハーフダークエルフの最恐魔王が勇者アリアにだけは甘い  作者: 久遠悠羽
第4章 死者を愛する者の罠

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第89話 おやすみ、アリア

 夕方、帰還した彼らは真っ先にグラディスにパトラクトラの件と、ロイの事を話した。


 フィスファーナを部屋に下がらせ、グラディスとヴェイル、リューク、アウドラの4人で王墓に向かう。

 そこに静かに安置されている祖父、祖母、伯母、そしてロイの墓を開けに行ったのだ。


 棺の蓋をわずかに開けると、6年の月日を閉じ込めていた冷気が、頬を撫でて過ぎた。

 中には深紅の衣に包まれた骨が静かに横たわり、まだ王家の威を守っているかのようだった。


 母の変わり果てた姿を確かめたアウドラが涙を流す。

 

 しかし……やはりロイの棺の中だけは空だった。

 代わりにそこにあったのは、数枚の枯れた薔薇の花びらと、核が無くなった何かの魔石だったのだ。


 王墓を日常的に管理する『陵墓守部りょうぼしゅぶ』の1人が謝罪をした。

「我ら陵墓守部は交代で巡回しておりますが、侵入の痕跡は封印の魔法ごと消し去られていました。これほどの者が相手とは……誠に申し訳ございません」


「……仕方あるまい」

 グラディスが返す。


 見つかった魔石には小さな文字が刻まれているのが読み取れた。

「古代エルフ語ではないな。ラキシャ語?」

 ヴェイルは呟き、その花びらと魔石を手にした。


 そして——かつてルガリエルの王、シュダークを欺く為に行った自分の国葬時に安置したヴェイルの棺に、開けられた跡があった。


 中には空であった事に立腹したのか、底に何かを書いた小さな羊皮紙を貫いた短剣が突き刺さっていた。


「シュダークも言っていたが、俺を殺せと言った奴が、俺が死んだと思って死体を持ち去ろうとしたのか……」

 ヴェイルの背筋にゾクリと悪寒が走った。



 持ち帰った魔石と羊皮紙と短剣を、タイカーシアの最高位魔術院に回し、解析してもらう。


『花びらは一般的にあるただの薔薇でした。魔石の方は、恐らく古代遺跡から持ち出された物と思われます。短剣は製作場所が分からない程のかなりの年代物でした。

 文字の方はラキシャ語ではある様ですが、私共には資料がなく、解読出来ませんでした』


 魔術院からこのような回答が届いた。


「最終的に古代遺跡に繋がって行くな……しかし文字が読める者がいないと意味がない」

 報告書を見て、ヴェイルは呟いた。

 母から貰った資料だけでは、書いてある文字は解らなかったのだ。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 数日後の夜の事……


 ヴェイルの部屋に、誰かがノックする音が響いた。

 見ると、アリアの肩を抱えた彼女の侍女がそこにいた。


「魔王陛下、アリア様が……」

 侍女の見上げた瞳から、涙が溢れている。


 あの日、タイカーシアから戻って以降、アリアは急速にフィスファーナに入れ替わる時間が増えて行った。

 『時空の魔女』である彼女の魂が、アリアの魂を自然と押し退ける形になってしまっていたのだ。


「アリア……君はアリアなのか?」

 ヴェイルの声に、時々意識が飛びそうになっている彼女が頷く。


「ああ……どうして……ほら、おいで」

 もう只事ではなくなった事を悟った彼は、侍女からアリアを受け取り、抱き上げて部屋に入った。

 そのまま静かにソファーに座る。


 腕の中のアリアが薄目を開け、小さな声で言った。


「ヴェイル……ごめんね。私、もう、私ではいられないの……」

「……嫌だ……行かないでくれ……」


「私の中の……心が、まるでパズルが一片ずつ欠け落ちていく様に無くなって行ったわ……毎日、毎日……今は最後の一片みたい。

 それももうすぐ欠け落ちるの……」


「そんな……」


 どうしたら良いか分からなくなったヴェイルが、腕の中で見上げるアリアの頬を撫でる。


「私は……私の中に深く沈んでしまうけれど……あなたが助けてくれるよね、きっと……」

 気を失うまいと懸命に、途切れ途切れに話す。


「俺が……でも、どうすればいいんだ」

「分からないけど、いつも助けてくれたから……小さい時、兄様って呼んでた頃から、いつも……いつも……」


 ふと碧い瞳に、涙が浮かぶ。


「……ヴェイル……私、怖い……」

 彼女の瞬きに合わせて、雫が頬を伝った。


 ヴェイルは胸が張り裂けそうになった。


 怖がるアリアが不憫だった。

 けれども自分に今出来ることはない。


 彼は全身全霊を込めて優しく抱き締めた。

 


 そして暫くの後身体を戻し、誓いを込めて言った。


「分かった。必ず助けるから……待ってて」

「……うん」


 彼女の瞼に、慰めるように、約束の証のように……ふわりと唇を当てる。


「ヴェイル……」

「ん……」

 唇でそのまま鼻筋を優しく……何度か確かめるように撫でて行く。


「愛してるわ……」

 最後に精一杯、声を絞り出す様にしてアリアが言った。


「俺も愛してるよ……」

 ヴェイルも返す。


 2人の唇が——そっと重なった。




 ——彼は顔を上げた。


 もう意識を失くしてしまった彼女の、閉じられた瞳から涙が最後に頬を伝い、襟を濡らした。


 その顔を見つめるヴェイルの瞳からも涙が溢れて来た。

 それは瞳に留まる量を超え、アリアの頬に瞬きの度に光を散らして落ちて行く……


「……おやすみ……」

 届かぬ言葉を呟き、堪らずもう一度抱き締め、首元に顔を埋めてしまう。


「アリ……ア……」


 声にならない声を上げ、彼は肩を震わせ泣いた……



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 フィスファーナは、暗いヴェイルの部屋のソファーで目を覚ました。

 身体には毛布が掛けてある。


 辺りを見回すと、腰窓に彼が座っているのが見えた。

 膝を抱え、じっとしている。


「ヴェイル……」

 フィスファーナが声を掛けた。


「君は……フィスファーナなんだね」

 ヴェイルはそのまま動かずに言った。


「ええ……そうよ……」

 彼女が申し訳なさそうに答える。

 それまでよりも意識が清明で、身体との違和感はもうなかった。


 これは……アリアを完全に押し除けてしまったのだと彼女は悟り、ハッとしてもう一度彼を見た。


 ヴェイルは既にその事を知っている様子で、蹲ったまま黙っている。


 しかし暫くして静かに言った。


「——君が辛い思いをしている事を俺は知っている。好きでこんな状況になった訳ではない事も理解している。

 ……だけど、俺は君に……一度だけ酷い事を言う……」

 

 夜の静寂に、水面を揺らす様な彼の言葉が響く。

 

「アリアを……返してくれ……」

 そして瞳に一度光を反射させると、膝に回した腕の中に顔を沈めた。



 ——フィスファーナの視界が、涙でぼやけて行った……


挿絵(By みてみん)



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― 新着の感想 ―
うわああああああ…… もう……もう……胸が痛すぎて呼吸できない……です……、、 アリア……アリア……ヴェイル様……、、、 まさかこんな形になるなんて... 切なくて、綺麗で、優しくて、つらくて…… …
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