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麗しのハーフダークエルフの最恐魔王が勇者アリアにだけは甘い  作者: 久遠悠羽
第3章 滅びし王家の血と竜騎士の帰国

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第71話 リオクの襲撃

 今日のトラフェリア王宮は、いつものありふれた朝を迎えていた。

 突然、結界が破られて何者かが侵入して来た事を示す警戒アラートが鳴るまでは。


 王宮全体に耳をつんざくような音がした時、勇者であるアリアとミレーヌは、真っ先に庭園の上空に現れた飛竜の元へ駆け付けてしまった。


「来た来た。お姫様達!!」

 あの男は2人を見つけると、あっと言う間に魔力の縄で縛り上げ、10ガルドル程上空にいる自分の元へ引き上げたのだ。


「「キャアアア!!」」

 アリアとミレーヌはなす術も足場もなく、空中に縛られて吊り上げられてしまっている。


「ミレーヌ様!アリア様!!」

 近衛隊長他の兵が駆け付けて見上げて叫ぶ。


「ミレーヌ!アリア!!」

 女王ハウエリアもその場に来た。


「お母様!皆んな!」

 アリアが叫ぶ。

 

 2人を捕らえた男が言った。

「パキラ、石化息吹バチュラフィーサスだ!」


 ミレーヌがハッとして大声を上げた。

「皆んな、逃げてー!!」


 次の瞬間、男が乗っている体長8ガルドル程の飛竜が息を吸い、真っ白な息吹をトラフェリア王宮とそこにいる人々に向かって吹き掛けた。


 息吹が掛かった部分からバキバキと石化が始まった。

 その威力は絶大で、驚いて悲鳴を上げて逃げ出す者達を次々に石に変えた。


「「やめてー!!」」

 2人の王女が悲惨さに泣きながら叫ぶ。

 

 彼女らを引き連れたまま空中を移動して息吹を吐き続けた飛竜によって、トラフェリア王宮は全て石に変わってしまった。

 竜族国に住む石白竜ピエドラブランカの能力だった。


「はーはっはっは!ちょろいな、トラフェリアは!」


 飛竜を操作していた男は着陸し、縛ったままの2人を促し、共に歩かせて周りを観察した。

 王宮も兵達も女王ハウエリアも石化している……


「お前は誰だ!何故こんな事をした!」

 アリアが怒りに震えて聞いた。


「オレはドナウザーン公国の第二王子、リオクだ。お前、強い女なんだろ?オレの妻になれ」


「……なんですって?」

「あなた、正気なの?こんな事をして」


 アリアとミレーヌが驚いて言う。


「ああ。ドナウザーンの掟でな。強い配偶者を連れて帰った奴が次の竜王になれるんだよ。オレは竜王の座を狙っている」


「……蛮族め……」

 アリアの瞳が赤く染まる。


「おおっと。何かしようものなら石化は解除出来ないぜ」

「何?」

「元に戻せるの?」


 2人の顔に安堵の色が広がった。

「ああ。だから、アリアがオレの妻になって、そっちのお姫様が今から言う奴を殺してくれたら解除してやるぜ」

 リオクが悪びれもせずに言う。


「……そんな……誰を?」

 ミレーヌが問う。


「あのさぁ、オレの兄貴が妻にしたかった従姉妹の姉ちゃんが逃げちゃってさ。どうもナザガランの『リューク=ノワール』とか言う男の元に行ったみたいなんだよね」


「リューク殿下の元へ?」

 彼女が驚いて聞き返す。


「そうそう。なんか兄貴、やる気がなくなったみたいで張り合いがないんだよね。だからそいつを殺して来てよ。姉ちゃんを取り返してやるんだよ」


「そんな理由で……あの方を殺せと言うの?!」

 ミレーヌが肩を振るわせた。


「そう。殺して来たら石化を解除してやるよ。あんただって国と女王や民の方が大事だろ?」

「あっ!!」

 リオクが縛ったままのアリアの縄を持ち、ぐいと引き上げて再び竜に跨った。


「この子は貰って行くから」

 そう言うと腕をサッと振ってミレーヌの縄を切った。

 パサリと音を立ててその縄は地面に落ち、消えた。


「リュークを殺して明日の朝、またここに戻って来い。じゃあな!!」

「ミレーヌ!ダメよ、言うことなんか聞かないで!」

 アリアが髪を乱されながら叫んだ。


「ははは!元気な姫様だなぁ!」

 リオクは高らかに笑うと、竜を飛び上がらせて見る見る遠ざかって行った。


 ——全てが大理石のようになってしまった王宮と人々が、静かにそこにあるだけの世界……


「リューク様を殺せ、と……?」


 ――何かの間違いではないだろうか。

 それとも今まで密かに暗殺に手を貸して来た自分への報いなのだろうか。


 寄りにもよって自分が一番愛している人を殺せなどと。

 しかし、国がこんな目に遭っていては……――


 ミレーヌは護身用に身に付けていた短剣を確かめると涙を拭いた。

 石化した武器庫に使える武器はない。

 いつも使っている移動用の草竜グリーンドラゴンも石になっている。

 

 使えるのは短剣と自分の魔法のみ。

 彼女は居住いを少し正すと、ナザガランに向けて転移魔法陣を展開した。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 ミレーヌはナザガラン王宮の応接室で、一連の出来事を思い返し、再び止まっているリュークを見た。


 この城で彼の剣を止めた時から、気になっていた人だった。


 トラフェリアで再開した時、ヴェイルの従兄弟という事ぐらいしか知らないのに、自分の秘密をスラスラと話してしまった程、何故か始めから信頼してしまっていた。


 それから母を助け、自分を励まし守ってくれる姿を見る内、恋する様になったのだった。


 ——この人を殺せば石化を解いて貰える。

 けれども魔王軍最強クラスの彼を殺すなど至難の技だ。

 自分が唯一出来る暗殺の方法は、まず時間を止め、相手の動きを止める事……


 しかし彼を殺してどうなる?

 油断させる為に客人のフリをして来ている事など、事務方にはすでにバレてしまっている。

 その後トラフェリアに転移し潜伏したとしても、すぐに追っ手が来るだろう。


「……リューク様。わたくしは愚か者です。でも、最後にあなたに想いが伝えられて良かった」

 またミレーヌの瞳から涙が溢れた。


挿絵(By みてみん)


「わたくしには自分の国よりも……あなたの方が大切だったみたいです。もう、どうしたらいいか分からないの」


 彼女はそう言って、両手で短剣を握り締め、自分の喉にギラつく切先を向けた。

「さようなら。わたくしの愛したお方」


 そして腕に力を込めた。


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― 新着の感想 ―
もう嫌だちょっと待ってください 無理ミレーヌうううういううううううう.... ミレーヌ幸せになってくれなきゃ嫌だあああ
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