第60話 竜騎士、来襲
「何?!」
「……誰だ?」
リュークとヴェイルの眼光が鋭くなり、用心深く聞く。
飛竜から誰かが飛び降りた。
そのまま竜は何処かに飛び去り、その者がこちらへと近付いて来る。
リュークが素早くヴェイルの前へと躍り出た。
その動きは反射のようで、彼の中にある忠義と警戒心が一瞬で発動したのが見て取れた。
竜騎士の鎧と冑を被り、マントを靡かせ金属の音をさせながら歩いて来た人物は、彼らの前方5ガルドル程の所で止まり、こう言った。
「ワタシはカイア=リシュー。竜騎士だ。強い男を奪いに来た」
「……『奪いに』…?」
問い直す彼の後ろにいるヴェイルに向かって言う。
「魔王ヴェイル=ヴォルクリア。ワタシと勝負しろ。竜騎士は強いぞ?お前など簡単に倒してみせよう……」
「なんだと?……無礼だぞ貴様」
リュークが腹を立てた様だ。
「魔装・黒銀武装」
詠唱して黒銀武装の鎧を着装する。
「リューク、待て……」
ヴェイルが言う。
「そうか……こいつがリュークか」
彼の言葉にカイアが反応して鎧冑姿のリュークを見た。
―—知ってたけどぉ?分かってたけど?!
久しぶりで恥ずかしくてチラッとしか顔見れなかった……やっぱりめっちゃカッコ良くなってる!!
うわぁ照れる……あ、いやここはビシッと言わなきゃ。
竜騎士の心がはやるが、敢えて落ち着いて言う。
「……ヴェイル。ワタシが勝ったら、このリューク=ノワールをもらって行く」
「……オレは物ではない。
それに―—お前は今、我が王を名前で呼んだな?まるで面識があるかのような口ぶりだ。
そしてオレのフルネームまで知っている……おかしいな。何者だ?お前は」
挑発の言葉には動じず、彼が問う。
竜騎士は内心しまったと思った。
―—この一言でそこまで分かるとは。怒ってるのに冷静で鋭いなぁ……
……バレるのは時間の問題かも知れないな。
しかし彼女は余裕のある様子で続ける。
「自分が襲撃する敵の事を調べるのは当然だろう……でもそうだな……ワタシがもし負けたら魔王、お前の臣下にでもなってやるか」
「竜騎士、何のつもりだ……」
ヴェイルが彼女を睨み付けながら言う。
「フフフ。だからワタシと戦えと言っているのだ。それとも何か?今ここでお前の秘密を言ってやろうか?」
「秘密?」
「……詠唱列382と96、65……」
カイアが煽る様な調子で数字を言った。
「……」
黙ってしまったヴェイルが、リュークの背に小声で言う。
「……リューク。今のが何か分かるか?」
鎧装状態のままの彼は少し考え、ヴェイルをやや振り返りながら言った。
「……融合拡散発動……雷式96と65。重力系統2列が足りないが、お前が『リィナ』として撃った『天裂迅雷』の術式方程式か?」
ヴェイルが歩いてリュークの横に並んで来る。
「そうだ。彼女は俺が戦乙女リィナだと見抜いている。黙らせるしかないな」
「え。戦う理由……そこ?」
リュークが思わず冑のままの顔を彼に向ける。
「魔装・黒銀武装」
静かにヴェイルの全身が闇の気配に覆われ、鎧冑姿となった。
「俺が行く。リューク、勿論お前を取られるつもりもない。兵達を頼む」
「あ、ああ、承知した」
リュークに一言で指示を出す。
彼はもう一度竜騎士を見たが、魔王の指示に従い兵達の元へと走った。
ヴェイルは竜騎士に向かってゆっくりと歩きながら長刀を召喚する。
2ガルドル程近付くと重いその刀を片手でクルリと回して両手で握り直し、立ち止まって腰を落として構えた。
「……遠慮はしない。行くぞ!」
竜騎士はそう言いながら右手を左脇に回し、前へずらした。
その手の動きに合わせて竜族仕様の長刀が姿を現す。
それを振りかぶり、ヴェイルに向かう。
ギィン!と激しい鋼の音がし、火花が散った。
2人のぶつかった長刀からワゥン……と音波を伴った衝撃波が広がり、空気がビリビリと震えた。




