第59話 合同魔法訓練
午前中から、魔王軍第一部隊と第二部隊内の魔術特化人員の訓練が行われようとしていた。
対外的には内密にされていたが、親族間内争により各部隊将軍以下の上官をほぼ失っていた魔王軍は、軍部の上層部が相当な人手不足に陥っていた。
従って後継者育成の為、魔法力向上には通常配備の魔導師に加え、ヴェイルも魔王でありながら特別顧問的に兵達への指導にあたっている。
今日は彼が先日のドレス展示会の時に呪術室に篭って開発していた術のお披露目と、同じ特性を持っている者に習得させる為の時間を取っていた。
「陛下も呪術室などに篭ってらっしゃらないで、アルタ商会のドレス展示会を見に来られれば宜しかったのに。華やかでしたよ?」
広い第1演習場に、術式発動ポイントの為の小さなコーンの様な目印を数ガルドル(数メートル)毎に設置しながら、魔術指導師のワイアーガがヴェイルに話し掛けた。
「そうか」
兵と同じだが指導者カラーの訓練着を来て、同じく目印を設置しながらヴェイルが返事をする。
「特にリィナ=エミル様の美しさが最高に神がかっていました。本当に麗しくて……陛下もご覧になれば良かったのに……」
ワイアーガが思い出して少し興奮気味に言う。
「ハハハ。それは見れなくて残念だったな。あの日は俺も必死で術式を考えていたから」
ヴェイルが答える。
「陛下はほんっと真面目ですよね。皆の事ばかり考えてらっしゃらないで、息抜きにたまにはああいうイベントにもお顔を出してくださいよ」
彼が呆れた様に言った。
―—よく言うよ。お前がそのリィナだったくせに……
……本当に誰もあれがヴェイルだとは気付かなかったみたいだな。
リュークが同じく定位置に目印を並べながら心の中で呟く。
「今度リィナ様にお目に掛かれるのはいつかなぁ。なんでもリィナ様モデルの化粧品や香水の企画とか、ブランドのアンバサダーとか。全部お断りになられたそうですよ?」
「少し静かに過ごしたいんじゃないか?元々は母の遠縁の娘だし、ルガリエルの件から派手に顔を出しすぎて疲れたと言っていたそうだ。これからは何かあっても王太后である俺の母を通して用事を伝えて欲しいと言っていたしな……」
ヴェイルが何事もないかの様に答える。
―—ヴェイル。神の様に美麗なお方だが、その神々しさがかえって人を寄せ付けない雰囲気のパトラクトラ様を窓口にするとは考えたな。
これで誰もリィナに軽々しく会いたいなどと言う者はいないだろう。
しかもリィナは彼女の遠縁の娘だって?……上手い説明だ。それなら仮に誰かがヴェイルと顔が似ていると言い出しても納得が行く。
リュークは彼の策士ぶりに舌を巻いていた。
全ての目印を設置すると、ヴェイルが魔術訓練兵達に声を掛ける。
「準備が出来たぞ。見に来てくれ。今から俺が作った術式を公開する」
「はい!お願いします陛下!」
返事と共に各自でトレーニングをしていた30人程の訓練兵がワラワラと集まって来た。
ヴェイルの横にいるリュークがそっと聞いてみる。
「まさか『天裂迅雷』を撃つんじゃないだろうな」
「まさか。この演習場が使えなくなってしまうじゃないか」
「じゃあ、別の術を考えたのか?こんな短期間で?」
余裕のある表情の彼に意外そうな顔で聞いた。
「ふふ。まあ見てろって」
ヴェイルはリュークに向かって軽く笑ってそう言うと、一歩前に出た。
右手を前に出し魔法陣に術式を走らせる。
「六氷雷撃刀!」
彼の詠唱と共に数本の氷の剣が出現し、それぞれが置いた目印に刺さり、破壊して影も形もなくなった。
更に剣を中心として剣の後部、六角の位置に雷光と共にすぐさま氷の小剣が出現し、全てが同じ場所に刺さった。
剣撃は地中深く潜り、周囲の土を酷く抉って直径40ルドル(1ルドル=約1センチ)、深さ50ルドル程の穴が次々に空いた。
見ていた兵達から
「おおー!」
「凄い!陛下の初めて見る雷特性だ!」
「1詠唱で数本?!」
「破壊力凄い!」
などと声が上がる。
「一撃でえげつない威力だな」
リュークも呆れた様に言う。
「氷剣が突き立った瞬間に雷光が駆け巡り、6つの小剣が放射状に生まれて一瞬遅れて着刀する追撃型剣撃だ。雷光が付けられない者は氷刀のみでも威力向上の応用術式を書き込むから遠慮をしなくていい。まずは水及び氷特性で習得したい者は前に出ろ」
ヴェイルが教授しようとしたその時だった。
何かの気配を感じて、彼はハッと空を見上げた。
まもなく視界がふっと暗くなり、中型サイズの飛竜が現れた。
体長は7ガルドル(7メートル)程だろうか、降りて来て地表から3ガルドル程の高さでバサリバサリとホバリングする。
せっかく立てた目印が、風圧で全て倒れてしまう。
「皆!下がれ!!」
「はい!ですが魔王陛下もお気を付けください!」
ヴェイルの指示とワイアーガの誘導で兵達が驚いて下り、彼を案じて遠巻きに見ている。
「……ほう。お前が魔王、ヴェイル=ヴォルクリアか」
下からは見えない竜の上から、誰かの声がした。




