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麗しのハーフダークエルフの最恐魔王が勇者アリアにだけは甘い  作者: 久遠悠羽
第2章 魔王陛下は今日も玉座に座っていない

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第49話 ドレス展示会 5―リューク回想録―

 無法者の男達を黙らせたあとはお開きになり、オレとヴェイルは契約時間が済んだので、主催者のアルタやミレーヌ、アリアにも早々に挨拶をして舞台裏に引き揚げた。

 

 術を出してからのヴェイルの様子がどうもおかしかったからだ。

 口数が少なくなったし、何かの痛みを我慢している様にも見える。

 だからもうドレスを着替える必要もないので、一緒にオレの控室まで連れて帰って来た。

 

 扉を閉めると、ヴェイルは薄暗い中をよく確かめもせずフラフラと歩き、部屋の奥の方にある広いカウチソファーまで行った。

 そして認識阻害魔法を解いてハイヒールを脱ぎ捨て、ソファーの上に向こう向きにペタンと座りこむ。


 少し間があったが、小さな声でオレに言って来た。


「……リューク……ごめん、後ろの首元の所のボタンを外してくれるかな」

「お、おう」


 言われるままにボタンを外してやる。

 ヴェイルがそこに手を掛け、左右に布地を引くと、サテンで出来たドレスは抵抗なくスルスルと滑り落ち、白くて滑らかな背中が露わになった。


「ヴェイルお前、裸…?」

 訓練時以外ではいつも頑なに魔王のスーツか鎧系で隠れているのに、身体のラインを重視した今夜のドレスの下には何も身に付けてはいない。


 どれだけ真面目にドレスと向き合ってたんだ?

 プロ意識高すぎるんだけど……


 控室には十頭程の蛍光蝶を閉じ込めた籠があり、中で淡く光りながらふわふわと飛んでいる。


 そのゆらゆらと揺れる光が、彼の両袖を抜く仕草に合わせて形の良い肩甲骨や流れる様な線を描く背骨の影を背中に落とす。

 脱ぎ切った為に現れた美しく引き締まった筋肉と細い腰のラインが、なまめかしく照らし出されて行く。

 

 ……にしても、これはどういう事だ?なんでオレの前で脱いだんだろう。

 躊躇ためらってた感じだったけど、そもそも何故オレにボタンを外させた……?



「う……っ」

 嵌めていた手袋も外した彼が、苦しげに呻いて堪らず両腕を抱え込んでかがんだ。


「えっ!?どうした?」

 暗くてよく見えなかったけれど、その時初めて彼の曲げられた両腕に、焦げ跡のような部分があるのに気が付いた。


 急いで部屋の明かりを付けた。状態を確認しない訳にはいかなかったからだ。

 なんて酷い焼け方だ。よく我慢していたな。


「お前、やっぱりさっきの術で……」

「……見ないで……くれ……こんな……」

 ヴェイルは明るさで露わになった両腕の火傷を更に隠すように身を捩って言う。

 白い背中が痛みに微かに震えていた。


 どうしてやりようもなくて動揺していたら、回復の靄が立ち上がり出した。

 今まで靄が出ない様に抑えていたのか。

 ドレスが長袖で、手首から先は淡い水色のレースの手袋を嵌めていたから分からなかった。


 外したその手袋の下の手にも、指先まで痣の様な火傷が広がっている。

 これじゃボタンなんか外せないわけだ。

 腕に長袖の布が触れるだけでも痛かっただろうに。

 だから一刻も早く脱ぎたかったのか。


「掛けてやれる物がないな」

 オレはそう言いながら自分のテールコートを脱いで近付き、慎重に肩から掛けてやった。

 

 ヴェイルがビクリとした。傷に少し触れたのか。

「すまない、大丈夫か。見るなって言ったから……」


 彼が向こうを向いてうずくまったまま、無言で何度か頷いた。

 

「お前、あの術初めて使ってみたんだよな?出力何%でやったんだよ」


「……87%」

「87?普通60%から試せってあれ程……」


 オレ達は魔力が強いから、初めての術式を使う場合はどんな反動があるか予想が付かない。

 だから新しい術式を試す時にはいつも、安全圏の出力から出してみるように魔導師達からは指導を受けて来た。


 ちなみに最大出力でも、自身の生存確率を上げる為に90%以内に留める事になっている。


 魔力がゼロになっても死ぬ事はないが、それは戦線離脱の際の転移すら出来なくなるという事を意味するので、戦闘時には絶対に避けなければならない。


 ……そんな事言っても俺達2人はそれを超えてしまった事があるけれど……

 親達がその場にいてくれたからなんとか死ななかっただけだ。


 魔力は自家発電的に体内から湧き出てくるが、全回復には丸1日は掛かる。


 ヴェイルは本当に特殊で、かなり昔にアリアから吸い取った妖魔力でさえ身体の何処かにしまっていた。

 こんなタイプの魔族は他には見たことがない。

 でも普段の闇属性魔法での術式には妖魔力は使えないと言っていた。


 だけど、いくらなんでも今日みたいな大型の術をいきなり高出力から始めるなんて……無茶にも程がある。


「……あの時本当は凄く腹が立っていて……でも他の大型魔法を使うと魔王だと分かってしまうし」


 まあ確かに。

 【蒸発ロドン】も【重力圧殺イアスミリアティ】も魔王のヴェイルのみが使える魔法だ。

 ナザガランではそれを知る者が多数存在する。

 ルガリエルではヴェイルは全く知られていないから【重力圧殺イアスミリアティ】を使った様だが。


「地盤がどんな状態になるか分からなかったから、演習場でやる訳にも行かなくて試し撃ちする機会もなかったんだ。今日、終わった後あの申請した土地でやってみようと思っていて……」


 それであんな書類を出していたのか。


 少し疑問に思ったから聞いてみた。

「あの魔法、お前にしたら新しい特性と詠唱だったけど。雷と土、いや術式方程式からすると重力応用か。なんで今頃雷特性を?」


「俺も一応雷特性持ちの父上の息子だし、なんとか使える様になりたくって。

 それに、リュークの破壊魔法も羨ましかったから……」


 オレにはグラディス伯父上の妹で王族直系の母、ミシュレラから受け継いだ雷特性と、王家の分家であり火焔連撃特化魔法一族でもあるノワール家の血筋の父、ストリクから受け継いだ火焔の特性がある。


 それを使った大型破壊魔法【焔雷殲閃レギガヴィラゴウラ】は、本気を出したら国土の1000分の1程をほぼ焼き尽くしてしまうぐらいの威力がある。

 勿論そこまでの出力で出してしまうとオレも無事じゃ済まなくなるけど。


 なんでも出来るヴェイルが、オレを羨ましいと思っていたなんて意外だ。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 痛みが少し和らいだ様で、彼が後ろを向いたまま、はぁとため息を吐いて言って来た。


「俺……やっぱり結構行き当たりばったりかも。負けず嫌いだし」


「なんだ、弱気だな」


 少し身体を起こし、気落ちした様子でポツリポツリとヴェイルが喋る。


「いつもリュークに迷惑かけてるし……周りにも、結局今回も母上が来てくれなかったら、俺、どうなっていたか分からない」


「オレは迷惑だなんて思ってないよ……お前の事はオレが生きてる限り護るって決めてるし。

 パトラクトラ様だってお前の為に嬉々として術を使ってらしたぞ?第一、魔王なんだから多少は気が強くないと、さ」


「……でも」


「お前が魔王であろうとして、物凄く努力してる事は周りも分かってる。今日もなんだかんだあったけど、普段じゃ経験できない様な事だったし、お前のお蔭で嫌な奴らにも一泡吹かせてやれたじゃないか。結構スカッとしたぞ」


「本当?」

 ヴェイルが顔を上げてこちらを向いた。


 普段の顔なのにメイクが少し残っているのとピアスが違うからか、それこそ女の子の様に見えた。


 オレは軽く笑って言った。

「お前、傷治って着替えたらメイク落とすのとピアス変えるの忘れるなよ。呪術室に篭ってるって事になってるんだろ?」


「あ、うん」

 顔をあまり見られたくないのか、彼はまた向こうを向いてしまった。


 けれども見ていてもなかなか傷が治らない。

「魔力が足りないのか?……全く休まず認識阻害魔法も掛けてたもんな」


「……」


「しょうがないな。手、出せるか?」


 オレが言う。

 ヴェイルは下を向いて黙っていたけれど、後ろ手にまだ痛々しい両手を躊躇ためらいがちに出して来た。

 テールコートの下は布地が腰に溜まっているドレス以外何も着ていないから、こちらを向くのは恥ずかしいのか。


 その手を痛くない程度に握り、魔力を送る。

 戸惑っていた感じのアイツの細い指先が、縋る様にオレの手の甲を握り返して来た。


 オレも疲れているし、魔力供給は正直少し堪える。

 だけど、回復魔法も受け付けられないヴェイルの身体に、してやれる事はこれぐらいしかない。


 靄の上がり方が強くなった。

 痛々しかった指先から火傷が消えて行き、上腕に向かってゆっくりと肌が白く整って行く。

 

 もうすぐ全回復しそうだ。

「……助かったよ……魔力まで分けて貰えて。

 ……今日は俺の女装劇に巻き込んでしまって悪かったな」


 後ろを向いたまま、ヴェイルが礼を言って来た。


「いや、まあ、外交的にも内政の健全ぶりがアピール出来たイベントだったし、それなりに成果はあったよ。

 更にお前の真面目さを実感したしな……凄まじい本気ぶりだった。本物の女の子に見えたぐらいだ」

 正直な感想を言う。

 

「……ルガリエルの時に比べたらまだ気楽だったし、リュークが側にいてくれたから頑張ったけど。凄く平静だったな、お前。

 俺はお前のカッコよさにいちいち動揺してた。男らしくて羨ましかった。

 俺、なんで全力で女のふりしてるんだろって……ちょっと切なくなった」


「切なかったのか。オレはお前の事凄く綺麗だなって思ってたんだけど……嫌だったのか」

「え?……あ、うん……」


 一瞬、手が更にキュッと握られた気がした。


 暫くして火傷も全て治ったみたいで、ヴェイルがそっと手を離した。


 そのままスッと立ち上がる。

 スラリとドレスが足元まで全て脱げてしまってアッと思ったけれど、身体にはもう魔王のいつものスーツが纏われていた。


 ソファーに腰掛け同時に転送されて来ていたブーツを履くと、向き直ってドレスと掛けてやっていたオレのテールコートを丁寧に畳み、差し出しならがら言う。


「悪いけどこれ、アルタの所まで一緒に持って行っておいてくれるかな。俺はこのまま王宮の呪術室まで飛ぶから」

 いつものピアスが耳元に光る。


 ドレスの上には高価なアレキサンドライト他のピアスや、今日身に付けていた装飾品も丁寧に置かれていた。


 ……早着替え凄いな。


「おお。いいぞ」

 オレはそう言って受け取ってやった。


「勝手言ってごめん。本当にありがとう。今度何かで埋め合わせするから。……じゃあおやすみ、リューク」

「ああ、おやすみ」


 彼はそう言うと優しく微笑んで、少しゆらりとマントを揺らしながら、静かに魔法陣の中に消えて行った。


 オレはため息を付いて、そのままアイツが座っていたソファーの上にドスンと座った。


「……平静だった訳ないだろ。女装はもう、勘弁してくれよな」

 そう呟いて少し笑ってしまう。


 魔力と気が抜けて、しばらくアイツがいた場所から動けなかったけれど、いつまでもそうしている訳にはいかないので、オレも着替える為にやれやれと腰を上げた。



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