第46話 ドレス展示会 2―リューク回想録―
ランウェイを他のモデル達と共に全て歩き切ると歓談の時間になった。
皆が自由に飲んだり食べたり、ドレスやスーツを見て注文したり、思い思いに休んだり。貴族がほとんどだからか、ちょっとした社交場になっている。
オレとリィナは大勢の人に囲まれていろいろと質問攻めに遭っていたが、ヴェイルの『リィナ』の設定は完璧で、どんな質問にも矛盾なく納得出来る答え方で実に滑らかに捌いていた。
元々頭のいい奴だけれど、無駄な方にもスペックを全力で振っていくタイプだ。
……1周回って尊敬する。
そんなオレ達に「失礼」と言って近付いて来た人物がいた。
側近数名を連れたグラディス陛下だった。
周囲の人が驚いて引いて首を垂れる。
「よい。今日は無礼講だ。私も客として来た」
陛下が軽く手を挙げて周りに気を遣ってくださる。……カッコイイ……
そしてオレとリィナに話し掛ける。
まずは目を細めてオレを見て満足そうに仰った。
「リューク。よく似合っているな。流石私の甥で我が軍第一部隊の第一参謀なだけあるな」
「ありがとうございます」
伯父上に褒められた!嬉しい。
オレには勿論本当の父もいるけれど、小さい頃から一緒にいてくださるのはグラディス陛下の方だ。
武術の指導もしていただいている。
もう本当の父親みたいなものだ……
そしてリィナに向かってお話をされる。
「……ご機嫌いかがかなリィナ殿。本日は実に艶やかで美しいな……」
「グラディス陛下。いつもお引き立てありがとうございます。本日は陛下にお目通りが叶い光栄ですわ」
……な ん だ こ の 親 子 は!
揃いも揃って帝国劇場の役者か?
そりゃ『もう覚悟する』って言ってらしたよ?
でも少しぐらいは息子の女装に動揺しない?
普段は眉ひとつ動かさずに害獣竜とか野良オークとか、なんかもう色んなヤバいのをぶった斬ってる奴だよ?
それが今日はめっちゃ女神みたいな風貌なんだよ……
何その堂々とした態度!伯父上様っ!?
ヴェイルもヴェイルだ!
自分の父親に女装姿見られて何とも思わないの?しかも褒められてるよ?
……これさぁ……オレの方がおかしいの?
後、周りにいる側近!おいルーカス!ウェルティス!
お前達が嬉しそうに眺めてるの、ヴェイルだからな?
小さい頃からお前達が王太子様王太子様って言ってた坊やだからな!?
……ダメだもう一切気付く気配もない……
「……ところでパトラクトラが見当たらないのだが、リィナ殿は舞台裏で見掛けなかったか?」
「王太后様ですか……いえ、私は拝見しておりませんが」
「そうか。……邪魔をした。お勤めご苦労だな。しっかり仕事をしてくれ」
グラディス陛下はそう言って離れて行った。
すっごく自然。堂々としてる。流石覇王。
……覇王は息子の女装になど動揺しないものなのか……凄いな。
……ヴェイルにグラグラのオレはなんなんだ……修行が足りないって奴か……明日からもっと走り込もうかな。
そこへアリアとミレーヌが来た。
「リューク様!……リ、リィナ様!」
アリアが声を掛けてくれるけど、リィナの名前で一瞬戸惑っていた。そりゃそうだろう。
でもなんだか2人を見るとホッとする。
「アリア様。ミレーヌ様。本日はお越しくださりありがとうございます。楽しんでいただいてますか?」
ヴェイルが天使の様な笑顔で言う。
……2人とも一瞬固まったじゃないか!
「……はい、ありがとうございます。リィナ様も麗しゅうございます。ランウェイでのお姿、素敵でしたわ」
ミレーヌが笑顔で返す。
彼女こそ今日はなんて綺麗なんだろう!
オレ、今日初めてここに来て良かったって思ってる。
そして心からの礼を込めて言う。
「2人とも来てくれてありがとう。特別に綺麗で可愛いな」
「リューク様……リューク様こそ……す、素敵ですっ」
ええええ?何?なんでそんなにオレ見て照れるのミレーヌ!
語彙力なくなってるぞ?
あっ、ヴェイル?お前までなんでそんな笑顔でオレ達見るの?
もう視線が保護者だよ……てか、お前はアリアの前で恥ずかしくないの?
もうダメだ~何この茶番劇……オレ、ちょっと休みたい……
そうこうしているうちにオレ達モデル組は午後の部の為にお色直しに引っ込めさせられた。
少しの休憩の間に小耳に挟んだが、なんとドレスとスーツが既に今日の売り上げ目標以上に売れたらしい。
凄いな……じゃあもう帰っていいかな。
休憩室で椅子からこっそり腰を浮かせてみたら、主催者アルタと目が合った。
小声でもう帰っていいかと言うと首を振って胸の前に手で大きくバツマークを作られてしまう。
……やっぱりダメか。
オレは言われるがままに次のスーツに着替えた。
イメージに合わせてメイクスタッフが目元のシャドウなどを少し変えてくれる。
そしてまた『リィナ』のヴェイルと再会。
今度は、透明感のあるオーガンジーのケープが特徴的なドレスだ。
肩にふわりと掛かっていて、光を受けて柔らかく輝いている。
やや可愛らしくも気品漂っていて、ベルベットの重厚さとオーガンジーの軽やかさが絶妙に調和している。
質の高さに目が釘付けになった。
彼本人は髪を緩く巻かれ、上の方でハーフアップにまとめ、光玉貝から採れる螺鈿を使ったミニティアラを飾っている。
それが歩く度に小さく光を散らしていた。
メイクは少しだけコーラル寄りになっていて、それもまた、似合っているなんてレベルじゃない。
色調とニュアンスがそれとなくオレのスーツとペアになっているし。
ハッキリ言って、否定したけどもうオレとリィナの結婚披露宴っぽくない?
違うそうじゃない!誰か否定してくれ!
……もうさ、どこ見て過ごしたらいいのコレ!!
ヴェイルの美の破壊力が半端ないんだけど?
そしてオレを見て固まっている。何故?
少しの間が空いて、ポツリとアイツは言った。
「リューク……カッコイイ……羨ましい……」
ちょっと目を潤ませている。
どういう意味だよ、やめろよそういうの!!
純粋に普通の男装が良かったのか?
めっちゃ綺麗だぞ今のお前……逆にそういう機会があって良かったんじゃないか?
普段の業務では魔王っぽい暗い色ばっかり着てるしさ。
あ、王子っぽい服はそんな事ないけど。
普段でも可愛いけど……
ああもうダメだ早く終われ今日の日よ!!




