第116話 女帝、激怒する
ヴェイルとリュークは戦い続けている。
長時間に渡っているので、2人とも肩で大きく息をしていた。
しかしお互いに攻撃する手を緩めない。
「六氷雷撃刀」
ヴェイルの詠唱で雷を纏った氷の剣が出現し、次々とリュークに襲い掛かる。
彼は素早く跳び躱すが、1本の剣につき更に6本ずつの氷の小剣が出現して追撃をしてくるので逃げ切れない。
ついには崩壊しかけている壁に、こちらを向いた時に勢いで開いてしまった翼を何本もの小剣がドカドカと突き刺してしまい、磔にされる。
翼の上腕に当たる部分に刺さった所から血が滲み、傷の周囲が再び黒い羽根になって行く。
「くっ……!」
痛みと危機感になんとか逃れようと引っ張るが、外す事が出来ない。
そのまま止まってしまい、ハアハアと荒い息をしながらヴェイルを睨み付ける。
「氷鋼槍」
動けない彼の前で、一呼吸置いてヴェイルが詠唱し、空中に上げた手の中に氷の長槍を出現させ、胸を目掛けて投げ付けた。
それはリュークの心臓を目指す。その時、
「やめろと言っているだろう!!」
と叫びながらグラディスが2人の間に割り込み、ガギン!と音をさせて長槍を剣で弾き落とした。
後ろではリュークの父、ストリクが滑り込んで彼の翼に刺さった剣を急いで抜いてやっている。
「いい加減目を覚ませ!」
ヴェイルに向かって剣を構えるグラディスが言う。
「……父上、叔父上様……」
長槍を投げた姿勢から体勢を戻した彼が呟いた。ゼイゼイと苦しげな呼吸音がする。
「……ヴェイル、正気に戻ったのか?」
ホッとしたグラディスが聞いた。
しかしヴェイルの周りには新たに冷気の波が立ち上り始めた。
それらは大きく上下する肩の近くでパキパキと氷の結晶になって行く。
「お2人共……お退きください。
……俺の標的は……リューク=ノワールただ1人です」
息を切らせながら話す。
「くっ……洗脳はまだ解けないのか……」
その後ろでストリクに全ての剣を抜いてもらって自由になったリュークが空中に飛び上がり、ヴェイルに向かって詠唱した。
「火焔剣撃!!」
魔力を込めて振り下ろした剣から豪焔が襲う。
それはゴオゥ!と音を立てて彼とその周囲を直撃した。
「「うわああっ!!」」
巻き込まれそうになったストリクとグラディスが、受け身を使って必死で避けた。
「剛玉防御」
ヴェイルは自分の周囲に、氷から鋼玉結晶を作る防御の壁を出現させて防ぐ。
「リュークめ、折角助けたのに親まで巻き込むとは!」
ストリクが火焔が掠って燃えたマントの端を急いでもみ消しながら言う。
「まずいな……このままでは本当にどちらかが死ぬまで戦い続けてしまう……」
グラディスが焦って言った。
再び激しく剣や術を撃ち合う姿に、追い切れなくなった2人の父親は、愕然としながら眺めているしかなくなった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「翼が!黒く戻ってしまっている。あれでは使えない……
いや、死んでしまったらかえって命を吸って白くなるのか?
……どうなのだろう」
魔力統制管理室で彼らの戦いを見ているリヒトが焦って言う。
「どうしよう……一旦もう止めさせるか?」
指示を送る正八面体の結晶に翳した手が、迷ったように揺れた。
その時、背後からいきなり大きな声がした。
「リヒト!そこに直れ!!」
ハッとして振り向いた彼の側を何かが高速で通り、次の瞬間には結晶がバァン!!と割れた。
「えっ?!」
驚いて画面を見る。
映像が途切れる瞬間、その場に突然ドウと倒れるヴェイルとリュークの姿が映り、通信が切れた。
手元を見ると、薄い水色の髪をふわりと靡かせ、剣を振り切った姿勢のパトラクトラがいた。
その剣で殴った結晶が粉々に叩き潰されている。
「パトラクトラ様……?」
「ハアアッ!!」
彼女は気合を入れると、ドレスのまま振り返りざまに飛び上がり、次々に周りの傀儡人形と計器を剣で叩き潰し、破壊した。
バギン!ドカン!と音がして火花が散り壊れて行く。
「ええ?パトラクトラ様?!……折角私が開発した機構なのに……」
リヒトが身を引きながら悲しげに言う。
「うるさい!そこへ直れと言っておろう!!」
彼女が怒って彼に剣を向ける。
「わ、分かりました」
リヒトが手を上げて制しながらそろそろとそこに跪いた。
「記憶が戻られたのですか?……随分と乱暴な登場の仕方ですね」
「そうだ!大事にお世話されたからお陰様で戻ったのだ!!
貴様、よくも私の息子と甥を倒したな!あれは死んだと言うことか?!
すぐに生き返らせろ!!」
物凄い剣幕で彼を責める。
「あの、違います。今、彼らが倒れたのはあなたが結晶を壊したせいであって……」
「……んん?」
「ですから、ちょうど指示を止めようかなって時に結晶を壊されたので、一気に私からの精神操作が切られてしまって気絶したんですよ、彼ら……」
「……んんんん?……」
パトラクトラが壊した結晶と手の中の剣を交互に見て自分の所業を振り返る。
額から、タラリと一筋の汗が流れた。
しかしガランと剣を投げ出してリヒトを指差し大声で言う。
「どっちにしろお前が悪いんだ!!謝れ!私はあの愚かな戦いを止めただけだ!!」
「申し訳ありませんでした」
「くっ!素直に謝りおって!なんか腹が立つ……!!」
腹の虫が収まらない彼女の後ろで、武器庫を案内して一緒に戻って来たロイが、扉の外から心配そうにそっと中の様子を伺ってきていた。




