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麗しのハーフダークエルフの最恐魔王が勇者アリアにだけは甘い  作者: 久遠悠羽
第5章 蘇る記憶 交錯する想い

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第115話 魔力統制管理室

「……ふう。やっと言霊が効き出したな」


 浮遊城にいるリヒトが一息付いて言った。


 ナザガランの機竜隊による奇襲があった昨日の夜から、ずっと送り続けていた魔法の効果が出て来たのだ。

 死者ルムンの翼を回収する為に、ヴェイルとリュークの命をお互いに断てという命令がそれだった。


 案の定、2人は操られて戦い続けている。

 彼らは強いが、力は無限ではない。

 その内どちらかが疲れ果てて死を迎えるだろう……



 今朝は朝食を済ませたパトラクトラと、ロイをまた書庫に案内した。

『今日は大切な用事があって暫く籠るので、お2人で読み物をするなり農園に行くなりしてください』と頼んで連れて行ったのだ。


 ――2人に興味がありそうな書物をいくつか取ってやり、渡してある。

 ロイもそうだが、元々研究がお好きだったパトラクトラ様もきっと夢中で読むだろう。

 何しろあの書庫には、私の数百年に及ぶ知識の元となる本や魔術書が山程あるのだから……


 彼は魔力統制管理室の中で考える。

 側に浮く正八面体の結晶から、壁一面に広げた魔鏡に戦う2人の様子が映し出されていた。


「……魔王城が破壊されているな……翼に吸われた筈なのになんて力だ。あれでもエルフの子孫か?強すぎる。

 まあ、翼がかなり早く真っ白になったのも頷けるな」


 ヴェイルとリュークの壮絶な戦いぶりを見て独りごちる。


「しかし……想像していたよりも凄いな……

 一騎当千同士が戦うとああなるのか?翼は無事で済むのだろうか……」

 

 自分で殺し合えと言った割には2人の戦闘の勢いを見て動揺している。

 繰り出される術や弾く剣の音の大きさに、結晶に翳す手が時々ビクッと動いた。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 その頃、ロイとパトラクトラは書庫で書物を読んでいた。


 2人とも楽しそうに読んでいたが、ふと彼が彼女に話しかけた。


「おばさま、少しいい?」

「なんだ?」

「ここ、これ見て」


 ロイは本の中の1枚の画像を指差した。

 そこには明るい緑に輝く何かの蝶の蛹が載っていた。


「僕ね、薔薇を集めに行っていた時にこの蛹を見かけたことがあるの。とっても綺麗だった。

 ここに名前が書いてあるんだけれど、ラキシャ語みたいで読めないんだ。

 おばさまには読める?」


 パトラクトラが覗き込む。

 見ると、彼女にも分からない文字のようだった。


「……知らない文字だな」

「そうなの?うーん……そうかあ……」

「リヒトになら読めると思うぞ?聞きに行こうか」

「え?でも今日はお部屋に籠ってしないといけないことがあるって言ってたよ?」


 彼女が立ち上がって微笑んだ。

「何、少しぐらい構わんだろう。本を持って一緒に行こう」


 2人で書庫を出てリヒトを探す。

「どこだろう……」

「籠るといえばね、リヒトはよく『魔力統制管理室』って所にいるんだよ。

 今もきっとそこだと思うんだ」


 場所を知っているロイが先を急ぐ。

「あ、でも静かにしてやらないとな」


 パトラクトラが注意する。


「うん。そっと見てみるよ」

 ロイがこちらを向いて微笑んで言った。

 

 そして彼女より先に小走りになって、魔力統制管理室の近くに来た。

 邪魔をしないように、鍵がない扉をそっと開けて小さく声を掛けた。


「……リヒト……?」


 リヒトは気付かず、こちらに背を向けて壁の一面を見つめている。

 その先から、何かを壊すような、ぶつけ合うような大きな音が聞こえて来た。

 ロイも何だろうと思って同じ様に壁を見る。

 

 壁には巨大な魔鏡があり、そこに正八面体の結晶から映像が投影されていた。

 

 魔鏡には大きな白い翼を生やし、鎧を着た人間が2人、戦っている様子が映っている。

 鋭い氷の結晶が固まった剣を持った人と、火焔が巻き起こる長刀を持った人だった。


 お互いに激しくぶつかる様に戦い、それぞれの武器が相手に振るわれる……


 ——長……刀……


 その様子を見た彼の中で、1つの記憶が蘇って来た。


 それは、自分に長刀が振り翳されている場面の記憶だった。

 いや、振り翳されていたのは兄に対してであって、彼はそこに立ちはだかってしまったのだ。


「……あ……」

 ロイが目を見開いたまま、震えて後ずさる。


 ――肩から心臓に掛けて、長刀で斬られ絶命した事を思い出す……


「ああ……」


 震えながら見る魔鏡の画面の中の2人が、お互いに頭を狙った為に、武器が同時に冑を掠めて飛ばしてしまった。

 冑の下から、漆黒の髪の青年と、赤茶色の髪の青年が現れる。


 ——あの人は……僕の兄様に似てる……?


「どうした?」

 後から着いてきたパトラクトラが声を掛ける。

 

 呆然として部屋の中を見つめたまま動かないロイを不審に思い、彼女もそっと覗いて見た。


「!!」


 画面の2人を見たパトラクトラの頭の中に、閃光のようなものが走った。

 ぼんやりしていた感覚の中に、時間を早送りにしたように鮮明に映像と記憶が甦る。



 ――ヴェイル?!……リューク!


 パトラクトラは咄嗟にロイを抱えて扉の外の壁にもたれた。

 隠れなければいけないと思ったのだ。


 ……しかしそのまま力が抜けたようにしゃがみ込んでしまう。

 彼もまだ、目を見開いたまま声も出せない。



 ――私は……一体……今まで何を。

 ここは……?

 リヒ……ト……姉上……?


 彼女の頭の中で思考が交錯する。

 一瞬混乱しかけるが、息を吸って目を瞑り、大きく吐き出した。


 ——落ち着け……落ち着くんだ……大丈夫……。

 

 自分に言い聞かせてそっと目を開ける。


「……思い出した……私……私はパトラクトラ=ヴォルクリア……

 私は確か、闇竜アンライトを移住させに行っていて……」


 パトラクトラは一気に記憶を取り戻していた。 


 しかしハッとして腕の中のロイを見つめ、驚愕する。


 彼も記憶が戻ったのか、同じように見上げて来た。


「……パト……ラクトラ様……?

 あ、あなたは伯母上様ではありませんか……」


「……ロイ。お前は死んだ筈では?

 ……そうだった。リヒトが……そしてお前も記憶が戻ったのか」

 

 そう言って2人共一旦黙る。

 驚きはしたが、ここで過ごした記憶も消えずに残っているので、状況は何となく分かって来ていた。


 直感的に、今騒いではいけない気がした。


 パトラクトラがロイに向かって口に指を立てて静かにする様に合図を送り、またそうっと扉の隙間から中を見る。



 改めて見てみると、ヴェイルとリュークは戦っているようだった。

 その背中にはなんと、ロイと同じように翼が生えているではないか!


「ええ……?」


 信じられない光景に目を疑う。

「ヴェイルとリュークが……あれは姉上への生贄になっているという事か。

 リヒトはあの者達が私の息子や甥だと知っているのか?

 いや、それより……」


 もう一度、確かめる様に画像を見る。


「あれは無理やり戦わされているのか?彼が操っているようだな。

 ……アイツめ……」

 リヒトに気付かれないように小声で呟く。


 ロイが驚いて言った。

「ヴェイル兄上と……リューク兄様?あの大きな人達が?」

「そうだ。……そうか、お前のナザガランでの記憶は6年前に死んだ時から止まっているのだな。2人共大人になったのだよ」


「6年?そんなに長く僕はリヒトの元にいたのですか。

 僕は……僕のこの身体は死体なのに……」


 そう言いながら胸元の消えない傷に手を当てる。

 そしてふと思い付いて言った。


「そうだ、僕、タイカーシアの山中湖に翼を洗いに行った時に兄様達に会いました。

 お2人にはまだ翼はありませんでした。

 その時兄様が『お前の兄だ』と言って泣いていたのです……僕は分からなかったけれど……あんな衝撃的な再会を、何故忘れてしまっていたのでしょうか」


「リヒトがお前の記憶を操作したのだろう。

『辛ければ思い出さなくていい』などと言っていたが……

 実際思い出すと術が切れて、お前は強制的に遺体に戻ってしまうからな。

 それを防ぎたかったのだろう」


「そう……ですか」


 彼が俯いて視線を逸らせた。

 哀れに思いながらも、彼女は言う。


「あの正八面体の結晶が怪しいな。手を翳している所を見ると、あれから命令を出しているようだ。

 このままでは本当にどちらかが死んでしまう……


 ロイ、彼が武器を置いている場所を知らないか?

 剣でも斧でもなんでもいい、とにかく打ち物を手に入れたい」


「武器ですか?……何をしようとなさっているのですか?」


「そうか、お前が生きている間に戦った姿は見せたことがなかったな。

 私は実は武闘家なのだよ。ヴェイルには個人的に稽古を付けてやっていたのだ。

 安心しろ、リヒトは殺さん。あれでも私の養育係兼魔法の師匠だった」


「そうだったのですね、意外です。

 ヴェイル兄上のお強さは、伯母上様のご指導の賜物という事ですね。


 ……そう言えば、東の塔の奥に武器をしまった場所があったような気がします」


「案内出来るか?」

「はい」


 2人は顔を見合わせて頷き、そっとその場から離れて武器庫に向かった。


 ——ロイの漆黒の翼の根元が、じわりと白く染まり出した。





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