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麗しのハーフダークエルフの最恐魔王が勇者アリアにだけは甘い  作者: 久遠悠羽
第5章 蘇る記憶 交錯する想い

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第112話 ヴェイルの血筋

 竜による奇襲隊が去った後、リヒトはどうしようもない苛立ちを覚えながら廊下を歩いていた。

 カツカツと不機嫌そうな靴音を立てながら独り言を言う。


「……あの男……恐らくリューク=ノワールだと思うが、何故私の姿を知っている?

 名前は遺跡で聞いたのかも知れないが。

 それにしても城の場所も分かってしまっているとは。情報が正確すぎる。


 私はもう500年以上も生きているのだぞ?鬼族の長老も死んでいる。

 ナザガランに私を知る者がいるわけがないのだが……」


 有り得ない情報の漏れ方に気持ちが焦る。


 ラタウスが状況を知り、フィスファーナの魂が彼らの元にいることなど、彼には知る由もなかった。



 そこに、薔薇園から中に入って来たロイとパトラクトラが来た。


「パトラクトラ様。そろそろ昼餉の時間ですので、お呼びしようとしていたのですよ」

 リヒトが平静を装って言う。


「リヒト……城の方が騒がしかったが、何かあったのか?

 中庭にえらく大きな刀や長槍が刺さった傀儡人形が落ちていたぞ?」

 パトラクトラが心配そうに聞いた。


「あー……ちょっとした海賊?……いえ、空賊が来まして……

 大丈夫です、撃退しましたから」


 苦し紛れの嘘を言う。

 

 彼女が自身のダークエルフ特有の長い耳介に触れ、不安気に言った。


「先程飛び去った竜に乗っていた者が……何かを叫んでいた。

 『母上』と呼んでいた気がする……私の事だろうか。

 私には子供がいたのだろうか」


 ロイが切なげにパトラクトラの顔を見上げた。

 普通の大きさの耳介を持つ彼には何も聞こえては来なかった。


「……はい?」


 ——『母上』?……あそこにいたのは前魔王グラディスと、翼が生えた所を見ると魔王ヴェイル、それに副王リュークだが……


 紫炎竜ヴァンガニーロウに乗っていたのは竜騎士だし……まさか……



「それは……気のせいではありませんか?

 空賊がそのようなことを言う訳がないではありませんか……」


 努めて和かに返答する。


「さ、昼餉に参りましょうか。お食事が冷めていないと良いのですが」

 


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 4フォラ(時間)程の後、タイカーシアのレサイア城跡地に、2頭の紫炎竜ヴァンガニーロウ黒竜マギシラハが1頭降り立った。


「ラタウス。乗せてくれてありがとう」

 ラタウスから降りて鞍を外したグラディスが言う。


[……本来は契約者である主と共にしか乗せぬのだがな。お前は主の夫だからな……]

 彼が少々恥ずかしげに言う。


「父上は昔、母上と一緒にラタウスに乗っておられたのですか?」

 ヴェイルが聞いた。


「……昔の話だ」

 グラディスがやや頬を染めて顔を背けた。


「それにしても、やはりパトラクトラ様とロイはリヒトの所にいましたね」

 リュークが腹立たしげに言った。


「そうだな……彼女は農作業などした事がなかったのに。まるで別人のようだった」


「リヒトに術でも掛けられているのでしょうか。思っていたよりお健やかそうでした」


 ヴェイルが言った。

 囲われてはいるが、元気そうな姿に安堵はしたのだ。


「分からん……情に絆されているのか、もしくは力を取られたショックで記憶を失くしているのか……

 いずれにせよ、暫く休んだ後もうナザガランに戻ろう。

 紫炎竜ヴァンガニーロウが疲れている。特大転移魔法陣で帰らせるぞ」


「はい?」

「また私達がやるんですか?」

 行く時もここまで竜を飛ばしてやったヴェイルとリュークが驚く。


「当たり前だ。翼があるのにあそこまで悠長に乗せてもらったんだ。

 それにリュークは偵察なのに襲撃したという軍規違反もしたからな。

 ヴェイルは第1部隊連帯責任。罰として竜2体他全員を転移魔法陣で飛ばせ」


「悠長って…… 黒竜マギシラハは最高フォラキーロス120ギガルドル(時速120km)ですよ?翼で追い付けるわけないでしょう。

 なのに連帯責任?……俺、魔王なのに……」

 何を言っているんだこの人は、という顔でヴェイルが返す。


「……ですから申し訳ありませんでしたって……伯父上様……」

 リュークも完全に白旗の顔で肩を落とす。


「残念だったな。今は私が魔王代理。すなわち魔王だ。

 この場の法は私なのだ」


 グラディスは腕を組み、当然のように言い放った。


「「はい……」」

 2人はしょんぼりと俯いて言った。


「叔父上様ご同行の時は、やっぱり容赦ないわね……」

 アウドラが小声で漏らし、ラザルと視線を交わして同情気味に苦笑した。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 その夜、パトラクトラとロイが寝静まったのを確認したリヒトは魔力統制管理室に入った。


 結晶画面を開き、各地に潜伏させてある傀儡人形にアクセスする。


「ナザガランの魔王、及び副王リューク=ノワールの血筋に関する情報を。そうだな、タイカーシアの最高位魔術院ならば分かるだろう」


 今まで調べてみた事もなかった情報を探ってみる。

 

【ナザガラン:現王位継承権第一位:リューク=ヴォルクリア=ノワール(通称名:リューク=ノワール)


 父:ストリク=ノワール

 母:ミシュレラ=ヴォルクリア=ノワール(第7代魔王 王妹)】


【ナザガラン:ヴォルクリア王朝第8代魔王 ヴェイル=ヴォルクリア


 父:第7代魔王 グラディス=ヴォルクリア

 母:……】


「……何?」


 リヒトは驚愕した。

 画面には確かに次のように出て来た。



【母:パトラクトラ=ヴォルクリア(旧姓()()())※注:『()()()』は300年以上前に断絶した王朝名。時代不一致のため真偽未確認】



 彼は暫く声も出せずに、画面を茫然と見つめていた。



「……そんな、まさか……魔王ヴェイルが彼女の息子だったなんて……

 それも、偶然にしてもりにってナザガランの前魔王とご結婚されていたとは。


 グラディスもグラディスだ。彼にとっては素性も分からぬ怪しげな美女だったろうに。よく妻に迎えたな。

 そしてロイもリュークも彼女の甥にあたるのか……最悪だ」


 もはや悪口とも取れる言葉を言いながら、リヒトは無意識に頭を抱えていた。


 ——もし、パトラクトラ様が自分の息子や甥をフィスファーナの復活の生贄に使おうとしている事を知ったらどうする?


 深く悲しみ、私を責め、殺そうとするかも知れない。


 

 いや、彼女が記憶を失くしている今ならまだ間に合う。

 彼らを死なせてしまっても、知らなかった、故意ではなかったと言えばいい。


 全てが終わってから真実を知られたとしても、もう悔いはない。


 幸い、既に2人の翼は真っ白になっていた。

 あれは魔力も命も十分に吸っているという事だ。もう手に入れても差し支えないだろう。


 ……けれども身体に力が漲っていた。何という余力だ。


「また襲撃に来たら面倒だな。それに直接彼らの姿を見てしまったら、流石にパトラクトラ様もロイも記憶を取り戻してしまうかも知れない……」


 どうしたものか、と腕を組む。


「……いっそ殺してしまおうか。

 今は核に密かに仕込んだ結晶石の通信貴石で奴らと繋がっているし。


 翼と核は身体が死んだ後、勝手に外れて呪岩を目掛けてこちらに飛んで来る筈だ。手間も省けるというもの……」



 彼はそう言うと、正八面体の結晶を取り出した。

 光りながら空中で回るそれに、目を瞑って手を翳す。


 例の帯を出現させて首でも落とそうと思ったのだ。


 しかし、どうも上手く反応しない。



「……ダメか。流石にナザガランは遠過ぎる」


 暫く試したが、術を出現させる事が出来ず、諦めて目を開けた。


「……」


 額に手を当て考え、やがて徐ろに呟く。


「…… 2人に命令を送って殺し合わせるか。

 相討ちで死んでくれるのが望ましいが、どちらか1人でも死ねば、正気に戻っても恐怖で私に刃向かおうなどとは思わなくなる筈だ。


 片方も大人しく死を待つがいい。

 今から言霊を流したら、明日には効いて来るだろう」


 そう呟くと、また結晶に手を翳し、大きく息を吐いて目を瞑った。


「この術は魔力を大量に消費する……何度も使えるものではない。

 集中して……確実に……」



 彼はそれきり黙ると、照明を落とした室内でまるで儚げな蛍光蝶のように光り輝きながら、慎重に結晶石に魔力を注ぎ出した。




 深夜になり、活動時間を終えた5体の傀儡人形達が、机の前の椅子に座った状態で、顔を横に向け突っ伏している。


 その開いたままの感情のない瞳に、リヒトの淡く光る姿が幾重にも反射して、寂しげに煌めいていた。







ここまで読んでいただき、有難うございました。

本年はこちらのお話まで、次回第113話は2026年1月3日(土)より公開します。

どうぞよろしくお願いします。

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