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麗しのハーフダークエルフの最恐魔王が勇者アリアにだけは甘い  作者: 久遠悠羽
第5章 蘇る記憶 交錯する想い

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第109話 丘の上の約束

 一連の会合を終えてグラディスが言った。


「ハウエリア陛下、本日は我ら一堂、大変感謝した次第だ。お疲れになった事だろう。

 本日の結びとして、細やかながら晩餐の席を設けている。

 貴賓室に寝具も用意させた。

 まだ時間もある。少しお休みになられ、よろしければお越しいただきたい」


「お気遣いありがとうございます」

 ハウエリアがややふらつきながら言った。

 ミレーヌが心配そうに支える。


「久しぶりに術を使いましたので……確かに堪えました。お言葉に甘えて休ませていただきます。

 晩餐のお誘い、謹んでお受けいたしますわ」


「承知した。従者どのをこちらに」

「はい」

「かしこまりました」

 グラディスの命に、控えていた従者達が呪術室に入り、女王を支える。

 ミレーヌが付き従おうとしたが、彼女が手を添える。


「この場はいいわ。あなたはリューク殿下の魔力回路の構造を見せていただいて。

 正確な核の位置を記録させていただくのですよ」

 そう言うと付き添いを断った。


 しかし彼女の手を握り直し、

「頑張ってね」

と付け加える。


「?……は、はい……お母様」

 ミレーヌがやや不思議そうに返す。


「ヴェイル、私にも少し脱力感があります。お部屋に戻るのを手伝ってくれるかしら。それにあなたにも負担が掛かったのでは?」

 フィスファーナも言う。

 ヴェイルも僅かに目眩がしていた。


「多少皆様に負担が掛かりました。申し訳ありませんね」

 ハウエリアが従者に支えられながら言った。


「呪術室自体もやや空気が悪い。一旦外に出よう」


「では、私も陛下を……」

 リュークがヴェイルに着こうとした。

 が、グラディスが止める。


「今回はいい。ヴェイルとフィスファーナ殿は私と側近がみてやるから……」

 そしてチラリとミレーヌを見る。


「リューク、お前はこの機会にしっかりミレーヌ姫に検証してもらえ」

「え。あ、はい……」


 グラディスが何故か口元に笑みを浮かべて去って行く。


 そしてリュークとミレーヌ以外の人物がその場から居なくなった。


 呪術室に2人が残る。

「あー、一旦オレ達も出ようか。なんだか『気』も悪いし」

「そうですね……」


 彼らは揃って部屋を出た。



 ——これ、意図的に2人にされてない?


 リュークが思う。


 ——何……何?もしかして皆んなグル?


 少し焦って考える。



「リューク様?」

「は、はい?」

 ミレーヌが声を掛けたので、彼は少し高めの声を出してしまった。


「あの、お身体の中の魔力回路を検証させていただきたいのですが……何処か落ち着ける場所で見せていただけますか?」

 彼女が心配そうに言う。

 後ろを見ると、呪術室は浄化の為にもう閉鎖されてしまっていた。



 ——こんな時に限って仕事早いなオイ!



「そ、そうだな……ええと、何処を使おうか」

 取り敢えず2人で歩き出すが、予約を取っている応接室もなく、行く宛がない。


 暫く並んで歩いていると、すれ違う臣下が暖かい目で彼らを見送って来る事に気が付いた。


「……あの……なんだかとても多くの方に見られている様な気がするのですが……」

 ミレーヌが恥ずかしげに下を向いた。


「そもそもドレス展示会で結構一緒にいたからなぁ……今は翼が生えてしまってオレは目立つし」


 ——オレってそんなにミレーヌの事、好きそうにしてたっけ?

 彼は心の中でまだ焦っていた。



 2人で魔王城の中庭に出る。

 こっそり見守る人が出て来た。


「リューク殿下とミレーヌ姫よ……」

「やはりお付き合いされているのかしら」

「ナザガランの未来も明るいですな」

 聞こえる様に言っているのか、囁き声も耳に入る。


 ミレーヌがますます縮こまってしまった。


「……ああもう」

 リュークが言った。


「姫、大変、たいっへん失礼いたします!」

「え、はい?なんです……きゃっ!」


 彼が急だが驚くほど丁寧に、両腕でミレーヌを抱き上げた。

 翼が大きく広がり、風が巻く。


 そして見る間にズバン!と空へ舞い上がった。



 城の下からワッ!と歓声が上がった。


 魔王城がみるみる遠ざかり、小さくなってゆく。


 腕の中のミレーヌの髪が風に乱れる。

 彼女はあまりの速さと不安定さに思わず目を閉じて、リュークの首へ腕を回した。


 やがて速度が緩んだ気がしてそっと目を開く。


「わあ……」

 広がっていたのは、見たこともないほど美しい上空からの景色だった。


「急にこんな事してすまない。高い所が怖くないか?」

 すぐ近くでリュークの声がする。


「いいえ。平気ですわ」

 そう言って振り返ったすぐ近くに顔があった。


「リューク様……わ、わたくし、腕をお首に……」

 自分の大胆さに赤面する。


「ははは。うん、危ないからそのまま持っててくれ」

 彼が愉快そうに笑って、上空で向きを変えた。



 それから暫く飛び、魔族の祖アズサーバルの石碑がある丘の上までやって来た。


 翼が、波立つように滑らかに羽ばたいている。


 2人は空中で抱き合い、ゆっくりと回って降りて来た。

 落とさぬように抱き締めるリュークの腕は、驚くほど頼もしい。


 ミレーヌの首に回した手の、白磁のような滑らかな指先が彼のうなじに添えられた。

 控え目ながらも何度か交わす唇の優しい触れ合いが、2人の心に甘い記憶を刻む。


 石碑の周りの木々も、彼らの下がって行く高度に合わせて風に揺らめいていた。


 2人の足元に現れた魔法陣が、静かに地面に着いた足と共に消えて行く。


 彼らは着地すると、そのまま暫く向き合って、両手を繋いで見つめ合っていた。


 やがてどちらからともなく照れた様に笑い、手を離す。


「……ここは?」

 ミレーヌが聞く。


「ここは、オレ達の祖先のアズサーバルの魂を祀った石碑が建つ丘なんだ。

 ……オレは、自己満足かもしれないけれど、今まで殺めて来た人の為に月に一度花をたむけに来ている」


「そうなのですね……

 自己満足なんかじゃありませんわ。きっと皆様は救われてますよ」


 ミレーヌが石碑に近付き、降り仰ぐ。

 まだ高い位置にある恒星が眩しかった。


「翼が生えた時……最初は罰が当たったと思った。

 襲撃されたからとは言え、今まであまりにも多くの人を殺めて来たから……もうオレは終わるんだろうって」


「……」


「でも、ミレーヌに会ったら……やっぱり何がなんでも死にたくないなって思った」


 彼女が振り返って言う。

「死んでは嫌です」


「……うん」

「わたくし、頑張りますから……」


 そう言ってリュークの側に来た。


 2人で群生している白詰草の上にそっと座り、彼の魔力回路を魔鏡に投影する。


「……第2回路、雷特性2本、火焔特性3本……左上角、端から左0.5ルドル、上0.7ルドル……」

 ミレーヌが慎重に核の位置をなぞって行く。


 魔法道具付箋マジケストロ・リーメニに記録を終えると、顔を上げて言った。


「これで核の位置はしっかり記録しました。後は精度を上げる鍛錬を積みます。

 15日程で術を仕上げますので、お待ちくださいね」


「ミレーヌは本当に頼り甲斐があるな。ありがとう。大人しく待つとするよ」

 リュークが笑って言う。


 2人はそこでまた黙ってしまった。



 遮る物のない丘の上に緩やかな風が吹き抜ける。


「……そろそろ戻らないと。ハウエリア様もお具合が良くなられているといいのだが」


「……はい」


 けれども2人ともなかなか立ち上がらない。

 

 彼が戸惑った様に右手を上げ、風が揺らした彼女の金髪に触れた。

 そのまま指先が白い頬に添えられる。


「また暫く……会えないな」

「……そうですね」


 ミレーヌが目を閉じ、その手に自分の手を添え、愛しげに首を傾げた。



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― 新着の感想 ―
わああ……リュークさんとミレーヌさん...尊いですっ 翼を広げて横抱きするところ、カッコよすぎて胸キュンが止まりませんでしたっ... この場所って、ヴェイル様が夜中にリュークさんを見つけた、あの丘です…
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