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麗しのハーフダークエルフの最恐魔王が勇者アリアにだけは甘い  作者: 久遠悠羽
第5章 蘇る記憶 交錯する想い

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第105話 飛行訓練

 翼が生えてしまい、外交他通常業務をこなす事は暫く無理だと判断されたヴェイルとリュークは魔王職と参謀職を休職し、アウドラとラザルがいる新設飛竜部隊に籍を置く事になった。


 魔王代理にはまた、父グラディスが復帰し、第1部隊と第3部隊の将軍職も兼任した。

 第1部隊の参謀は空席となり、リュークが率いていた少数精鋭の機動部隊である第2部隊の将軍には、彼の父ストリクが就いて兵達の指導にあたる事になった。


 それ程までに王族の親世代は圧倒的な魔力と戦闘能力を持っており、彼らを凌ぐ力を持った若者はまだ出て来てはいなかったのだ。


「……なかなか兵が育たないな……オレ達こんな事してていいのかな……」

 明日からの飛竜部隊所属に向けて、第2広域訓練場でヴェイルと飛翔能力の調整をしに来たリュークが呟く。


「そもそも編成を変えてからまだ4ヶ月ほどしか経たない。仕方がないだろう。敵襲がない事を祈るばかりだ」

 ヴェイルが返す。

 

 翼が生えてから3日目となり、アルタが頑張ったのか予定より早く魔装着装ヴァルシェ・アディバサの衣装も到着した。


 武器鎧制作工匠でもあるストリクが、異形の2人に逆に制作意欲を刺激され、突貫ではあるが鎧の試作品も完成させたので、早速装着してみる。


「「魔装ヴァルシェ天翼武装ニヴィアスブランニア」」

 2人で詠唱する。


 彼らの身体に、翼の縁にも少し鉄の防具が施された専用の鎧が纏われた。

 装着が完了すると、腕を捻り足を回すなどして身体をほぐしてみる。

 

 鎧の分の重さがどれ程飛翔に影響するかも確認しなければならない。


「……行くぞ」

 ヴェイルが声を掛けた。

「おう」

 リュークが返事をする。


 お互いに翼を動かす。

 身体が浮くと、一息で大きく羽ばたく。


 バシュン!と風を地面に叩き付ける様な音をさせ、2人は目にも止まらぬ速さで空高く飛び上がった。


「……重さはあまり気にならないな」

 ヴェイルが空中に留まって鎧の胸元を押さえてみる。


「そうだな。なるべく強度を下げない様にしながらも軽くて済む素材で作られているようだ」

 リュークも顔を動かし身体のあちこちを眺めてみて言う。


「よし、まず訓練場を一周、上下飛翔、静止と突撃飛び……」

「なんだその突撃飛びって。急発進?」


「そんな感じ!」

 ヴェイルは大きくクルリと回ると訓練場の上空を一気に飛びだした。

「あ、待てよ!」

 リュークも慌てて後を追う。


 2人は訓練場を往復し、大きく上下をしたり、翼を畳み気味にしてぐるぐる回ってみたりしている。

 かと思うと空中で静止して、また波打つように飛んでみる。


 その姿はまるで巣立ったばかりの若鳥が、空を制するのは自分だとばかりに自由に飛び回る姿のようで、連日心配しながら眺めていた親達の気持ちも少し癒される光景となっていた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「——ふう。だいぶ飛んだな。少し疲れた」


 第2広域訓練場からかなり離れた丘の上で、2人は並んで芝生の上に座っていた。

 広げると片翼4ガルドルもある翼は、三角に座ると当然後ろにマントの様に羽先が地面に広がった。


「マント、当分付けれないな」

「要らないだろ。この翼結構暑いし。寝ていてもデュベット要らないかなって思ったぐらいだった」

 リュークの言葉にヴェイルが応える。

 寝る時どうするかの問題は各自解決しているようだ。


「いや、マント付いてるとカッコイイじゃないか」

「リュークの今の翼が生えた姿もカッコイイと思う」

「えっ、ありがとう。お前もカッコイイぞ」

「ははは」


 少し張り切って飛びすぎたのか、2人の額には汗が滲んでいた。


「……なあ、核を騙すやり方、お前はどう思う?」

「どうって……明後日にトラフェリアからハウエリア様とミレーヌが来てくれるだろ?その時聞けばいいじゃないか」


「そりゃ、オレはなんとかなっても、お前だよ。時間界ザスタビーチェが効かないんだろ?身体を超低温にするとか言ってたけど……考えてみたら結構危険なんじゃないのか。

 前にパトラクトラ様がお前の身体から心臓抜く術使ってらしたよな?あれをお前は使えないのか?」


「『次空間維持ラルファクトレア』は母しか使えない。しかも、心臓は別次元に保存出来ても、そこに魔力の細い束で力を送って血流は維持していなければならない。脈拍は誤魔化せても、体温が下がる訳でもないし、とても核に死んだとは認識させられないと思う。


 ツガンニアの前では短時間だったから、体温が下がって来なくても分からなかっただろうし……

 そもそもあの時は心臓を避難させただけで、あんな目に遭うとは思っていなかったしな」


「そうか……確かにもう、あんな危険な目には遭わせられないな。オレの心臓の方が持たないよ」

 リュークが呟き、遠くを見る。


 そして重そうに口を開く。


「……あのさ、ロイの事なんだけど……」

「ん?」

「遺跡でお前がロイが『大切に扱われているのではないか』って言ったよな。その考えは変わらないのか?」

「うん……」


 ヴェイルが目を伏せた。

「山中湖で見かけたロイは、身体が生きていた時のように美しく保たれていた。翼も羽根が乱れたり抜けたりもしていなくて、手入れが行き届いていた。慌てて飛び去ったから持って帰り損ねた靴もあっただろう?


 遺体だから食事は出来ないだろうが、普通の子供のように身なりを整え、安心して眠れる場所も用意してある様子が見てとれた。平穏に日常生活を送らせてもらっているんだと思う。


 背中の翼は俺達に生えてしまったものと同じようだった。

 遺跡を巡って知ったが、死者復活には2対の翼が必要だ。

 しかし、1対をロイとしたらもう1対でいい筈なのに、リヒトは何故俺達2人に翼を植え付けたのだろうか。

 ……俺には、リヒトはもう、ロイを生贄に使う気が無くなったんじゃないかと思えたんだ」


「なるほどな。まあ、その話を両親にも話したんだ」

「叔父上と叔母上に?」


「うん……そしたら2人はなんて言ったと思う?」

「……さあ……想像が付かないな」


「『あの子の事は今でも愛おしい。出来れば会って抱きしめ、連れて帰りたい。けれども一度死んだ者を、蘇生出来たからと言って再び我が元に戻すと国民はどう思う?〔何故王族の子は復活した。呪われた力ではないのか……〕〔公子様に蘇りが許されるのならば病気で亡くなった我が子も……〕などと思うだろう。


 それならば、もう死した者として再会も諦める。術を掛けた者がロイの殺された時の辛い記憶を封じ、大切にしてくれて、彼が幸せを感じて過ごせているのならばそれでいい』なんて言ったんだ」


「……」


「オレは信じられなかった。何故取り返し、然るべき状態に戻してやろうとしないのか……親というものの考えが分からないと思ったよ……」


「そうか……でもそれは、叔父上と叔母上なりの愛情ではないのだろうか……今は生きているお前の事を全力で支えてやりたい、とも考えておいでなのではないか?」


「そうかなあ……」


 リュークはそう言うと、両手を背中の後ろの方の地面に付き、空を仰いだ。


「空に浮かぶ双月の間に死者の魂が行き着く場所があるのに、あいつはそこにも行かせてもらっていないんだな……」


「うん……何処にいるんだろうな」


 ヴェイルも同じ格好をし、空を見上げた。


 


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