【第四章 記憶の旅路】
裂け目をくぐった瞬間、ユウトの身体はふわりと浮き上がり、意識が遠のいていくのを感じた。
耳に届くのは、風の音でもロノウェの声でもない。誰かの心の声だった。
——《お前さえいなければ、この世界はもっと綺麗だった》
——《僕は間違ってたのか……。いや、あれが正しいと、信じたかっただけなんだ》
——《世界を滅ぼす者って、ほんとうは……》
光と影の渦の中で、ユウトの足元に地面が現れた。そこは、荒廃した街の片隅だった。
空は裂け、瓦礫の山に赤い草が生い茂る。空気はぬるく、どこか懐かしい。
目の前に立っていたのは、10代の少年だった。ボロボロの制服姿で、片手には折れたステッキを握っている。
「俺は……タクミ。四代目の選ばれし者だった」
彼はユウトを見ず、ただ独り言のように呟いた。
「俺が倒した“世界を滅ぼす者”は……母だったよ。世界を救って、俺は世界から孤立した」
ユウトは思わず言葉を失う。
タクミは振り返らず続ける。
「選ばれたからって、救われるわけじゃない。けど、それでも誰かがやらなきゃいけないんだ」
その瞬間、空が砕け、タクミの姿が砂のように崩れ始める。
——記憶の終わりだ。
「タクミ……」
ロノウェの声が背後から聞こえた。
「彼は、選ばれた代償を背負い続けた。けれど、最後まで誰も恨まなかった」
「……こんな旅が、ずっと続くのか」
「うん。でも君が選ばれた理由も、きっとどこかにある。次に行こう」
光が走り、視界が切り替わる。
次に現れたのは、戦火に包まれた学校だった。黒煙と悲鳴の中、一人の少女が銀のステッキを構えて立っている。
彼女の名は、ナツキ。六代目の選ばれし者。
ナツキの記憶では、“世界を滅ぼす者”は、親友だった。
彼女は泣きながら親友を倒し、倒したあともずっと名前を呼び続けていた。
その記憶を追体験するユウトの目にも、自然と涙がこぼれる。
ナツキの声が、遠くからユウトに届く。
——《お願い。どうか、終わらせて。誰も選ばれなくていい世界にして……》
視界が白く染まり、次の記憶へと引き込まれる。