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1話 ストーカーをつかまえた

 突然だが、俺――物田仰ものだあおぎは、現在ストーカー被害に遭っている。


 朝、家を出て大学に向かう時。授業を受けている時。学食で昼食を摂ってる時。休憩時間に窓の外を見つめている時。バイトをしている時。家に帰る時。そして、玄関の扉を開けようとする時。


 特に、最後の『玄関を開けようとする時』はそれが露骨だ。


 扉の前に、可愛らしい猫のキャラクターが描かれた保温袋が置かれていて、その中には温かい料理がいつも入っている。


 王道のカレーやシチュー、肉じゃがに煮物、ハンバーグや唐揚げ、それから魚料理も時折あって、野菜類もあったりする。


 栄養満点で、しかも美味しそう。


 ただ、ストーカーの作ったものだし、何をこの料理に混ぜているかわからない。


 捨てるしかないか……と思っていた俺だが、一人暮らし大学生の食生活は乱れている。


 我慢できず、一度食べてみたところ、見た目通り頬が落ちそうになるほど美味しかったので、料理だけは食べてあげることにした。翌日とか、体調不良にもならなかったし。


 けれど、それ以外の常に監視するようなストーキングは気味が悪い。


365日、家の中でも風呂の中でも、トイレの中でも見られているような気がしたし、耐えられなくなった俺は、暴挙に出ることにした。


 ストーカーを家の中に閉じ込め、そこで説教してやろう、と。


 方法は簡単だ。


 いつも俺が玄関の扉を開け、アパートの部屋に入るところまで見ているのは知ってる。


 そこで、「あ、醤油買い忘れたわ~」とか適当なこと言って、部屋の鍵を開けたまま、再度出かけるような演技をする。


 そうしたら、このストーカーは絶対俺の部屋の中に不法侵入するはずだ。


 そこを狙い、俺も後から部屋へ駆け込む。


 で、鍵を閉めて出られないようにすれば、閉じ込め成功。


 後は煮るなり焼くなり好き勝手できる。


 我ながらなんて素晴らしい作戦だろう。


 今に見てろよ、ストーカー。絶対お前を閉じ込めて二度とストーキングできないようにしてやる。


「ふっふっふ。バカめ。今日もノコノコついて来てるな」


 10月下旬。


 夏が終わり、冷たい秋風を感じる大学の帰り道で、俺は一人笑みを浮かべる。


 後方では、今日もストーカーが俺の後を尾けてきていた。


 これから自分が部屋の中に閉じ込められるなど、きっと微塵も考えていないはずだ。


「……よし」


 歩き、無事アパートまで帰り着く。


 一階の部屋。102号室の前で立ち止まり、俺は扉の鍵を開けた。


 ここからだ。


「あ。そういえば醤油買い忘れたな~。スーパーに買いに戻らないと~」


 ナイス演技。


 鍵を閉めず、俺は来た道を戻る。


 その瞬間にストーカーも慌てて隠れだしたが、あれでバレてないとでも思っているんだろうか。


 まあいい。


 ストーカーめ、今日がお前の命日だ。


 見えた長めの黒髪を無視し、俺はアパートから離れる。


 で、後ろをチラチラと確認するのだが……。


 ストーカーの姿がない。


 どうやら作戦が成功したみたいだ。


 抑えきれないニヤけを我慢し、俺は猛ダッシュでアパートの方へ戻った。


 そして、さっきストーカーが隠れていた場所で、同じように隠れながら様子を伺う。


「……!」


 長い黒髪の女の子。


 帽子を深めに被り、サングラスをかけたパーカースタイルだ。


 いかにも怪しげで、辺りをキョロキョロ見回している。


 あの子だ。あの子がどうも俺をストーキングしていたらしい。


 女の子かな、とは薄々思っていた。


 長い黒髪自体は何度も見えてたしな。


 ……さあ……入るか……入るか……。


 ドキドキしながら彼女を監視し、遂にその時はやって来る。


 名前のわからないストーカー女子は、俺の部屋のドアノブにそっと手をかけ――




 ――ガチャリ。




 本当に入って行った。


 俺の家の中へ。


「ま……マジかよ……」


 予想して作戦立てしたものの、こうして本当に不法侵入されると複雑な気分だ。


 彼女はいったい俺の何を気に入ったんだろう。


 説教してやるとか意気込んでたけど、実際にそこのところは聞いてみたい。こんな非モテで友達も少ないのに。


「ま、まあ、いいや。とりあえず当初の目的は達成させないとな。閉じ込めてやる」


 遅れて俺は部屋の扉を思い切り開ける。


 で、中の様子を確認することなく鍵を閉め、


「もう逃げられないからな! 散々ストーキングしやがって! ここでお前を捕まえて警察に突き出してやる! 料理は美味しかったけど!」


 威勢よく叫ぶ俺。


 だが、部屋の中にいた女の子の姿を見て、思わず言葉を失ってしまった。


「っ……」


 サングラスを外した彼女が、あまりにも可愛くて。


 俺のベッド上で、思い切り枕の匂いを嗅いでいたから。


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