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色々とおかしい

 シートの正面から右端の方…

 そこに、手の平サイズよりも少しだけ大きく描かれた四角い枠がある。

 俺たちは今、三人でそれの目の前にいた。


 「でじゃ、家…はどうできるのじゃ?」

 「あー…


 魔王の質問に、俺はしゃがみ正面の四角い枠を指さす。


 「ここに小さな四角形が…。あのさ、その前に確認なんだけどさ…」

 

 今俺が指差している四角い枠が見えるよう、隣で俺と同じようにしゃがみこんでいる魔王の方に俺は顔を向けた。

 魔王と目が合う。


 「のじゃ?どうしたのじゃ?」

 「いやさ、お前…、さすがに四角形…は分かるよな?」

 「のじゃっ!?」

 「えっ!?」


 魔王とアイラから驚きの声が上がる。

 アイラは魔王と反対側…

 今は俺の背後にいるから彼女の表情は見えなかったが、目の前にいた魔王が段々と顔をしかめてくる。

 そして、後ろにいたアイラから…

 

 「フェデ、それはさすがに…。いや、でもそっか、その可能性だって十分…」


 独り言のような言葉が流れてくる。

 それは当然、俺の目の前にいる魔王にも聞こえたのだろう。

 しかめた顔がよりきつくなり、眉間にすごいしわができていた。


 「なー、なーじゃ…」


 いつもよりワントーン、ツートーンくらい低い声が魔王から聞こえてくる。


 「な、なんだ?」

 「ど、どうかした?」


 怒りでか、魔王は小さな身体をプルプルと震わせ、キッと鋭い視線とともに…


 「お主ら、もしかしてじゃ、もしかしてなのじゃ…。もしかして…

 「もしかしてが多いな…」

 「プッ!!今は言わないの!」

 「いやでもさ…」

 「分かるわよ?私も同じこと思ったし…。でも今は怒ってるみたいなんだから、だから言わ…

 「お主らーーーっ!!」


 いつの間にか立ち上がっていた魔王が怒鳴り声をあげてきた。


 「ん?」

 「ほらー…」


 「今妾が話してた…、してたのじゃ!!なのにじゃ!なんでジャマすのじゃ!!なんでなんじゃ!!」

 「なんでって…。いやつい気になったから…」

 「私は、フェデがツッコむから。つい…」

 「わっ!?俺のせいにしてきたっ…!!」

 「実際そうでしょ?」

 「でもアイラだって、同じこと思ったって…」

 「でもフェデが…」

 「お主らーーーっ!!」


 また魔王が怒鳴り声をあげた。

 二人揃って魔王の方に振り向く。


 「「ん?」」

 「今は妾が聞いておるのじゃ!!だから、妾に向かってしゃべるのじゃ!!」

 「はー…」

 「しょうがないわね…」

 「むすーっ…。分かればいいのじゃ。」


 魔王は身体の前で両腕を組んで、偉そうにしていた。


 「でじゃ!えっと…、妾たち、今何の話をしているところじゃったのじゃっけ?」


 ガタッ…

 という感じじゃった…


 「そして『じゃ』が多い…」

 「シー…!言わないの!!」


 つい口にしてしまった感想で、アイラの小さく…だけど強く、諫めるような言葉を受けてしまった。

 すぐアイラは俺から魔王へと顔の向きを切り替えて…


 「アンタが四角形分かるの?って話だったでしょ?」

 「あっ、そうじゃ!そうだったのじゃ!!お主…!!」


 あほで間抜けな顔をしていた魔王が、俺へと鋭い視線を向けてくる。


 「ん?」

 「ん?…じゃないのじゃ!!もしかして…。もしか…お主!!」


 魔王は、二度目の『もしかして』を途中で止めた。

 もしかして、さっき俺にツッコまれたのがうざかったのだろうか…

  

 「妾のこと、賢い妾のことをバカにしてるのじゃ?知っているのじゃ!!四角形など、余裕で知ってるのじゃ!!」

 「「へー…」」

 「ぐぬぬ…!!」


 さすがに知ってるんだ…

 俺…俺たちのそんな気持ちが顔にまで出ていたのかもしれない。

 魔王が腹立たしそうな顔をした後、すぐに小さくしゃがみこみ、地面に落ちていた小石を拾って地面へと何やら描き込んでいき始めた。

 縦、横…から下、横。

 描き終わった魔王が、自信満々の表情をしながら顔を上げてくる。


 「どうじゃ!!ちゃんと見てみるのじゃ!!」

 

 描かれたもの見てみると、ちゃんと描けていた。

 本当に描かれていた。

 四角形が…


 「おぉ~。」

 「描けてる…」

 「ぬふふ…。妾は賢いのじゃ!!だから当然なのじゃ!!ぬふーっ!!」

 

 嬉しそうに、魔王は何も無い胸を張った。

 

 「すげー…。ほんとに知ってたとわ…。驚きだわ…」

 「うん…。ん?」

 「そうじゃ!!妾はすごいのじゃ!!賢いのじゃ!!」


 アイラから肯定と疑問の声、魔王からは自賛の声が聞こえてきた。

 嬉しそうに胸を張る魔王と、知っていたことにただ感嘆としまう俺。

 そこへアイラが…


 「ねぇ…。それ…褒められてないわよ?」

 「のじゃ?そうなのじゃ!?でもじゃ、妾のことをすごいって褒めていたのじゃ!だから…

 「だって…

 「いや、ちゃんと褒めてたぞ?」

 「えっ…?」

 「ほらなのじゃー!!やっぱり褒めていたのじゃ!!でじゃでじゃ、どうせなら、もっとも~っと妾を褒めていいのじゃ?褒めてもいいのじゃ!!」


 魔王はアイラはへとにやけ面を向けた後、すぐさま俺へと向き直り、犬のようにすごい勢いで催促してきた。


 「お、おぉ…。いや、お前なら知らなくてもおかしくないと思ったんだよ。だけどさ、意外にも知ってたから、へー、俺が思ってたよりも賢いんだなーって。だから、今回は褒めてたぞ?まじめに…」

 「賢い…!!賢い、なのじゃ…。やっぱり褒めてた…。これは絶対に、褒めてるのじゃ…!!むふふーんっ!!」


 魔王は恒例のように胸を張る。

 そしてアイラはというと、魔王の言動にポカーンと口を開いていた。

 ただすぐに切り替えて…


 「そ、それ!褒めてなくない!?思ったより…とか、今回”は”とか!」


 アイラが余計なことを口に出しだした。

 だから魔王もそれに気づいてしまう…なんてことはもちろんあり得るはずもなく…

 

 「のじゃ?お主、何を言ってるのじゃ?のーお主?」


 魔王が同感を求めてくる。

 

 「そ。本当に褒めてたぞ?」

 「えっ…?いや…。絶対に嘘!!それ、絶対に嘘なやつだからっ…!!」

 「嘘じゃないのじゃ!!こやつは、絶対に妾を褒めていたのじゃ!!なーお主、さっきの、嘘なんかじゃないよの?本当なのよの?」


 疑いの色など微塵も感じられない、自信満々の表情の魔王が尋ねてくる。


 「そ。ほんとほんと。俺、嘘つかない。」


 俺がそう言葉にした瞬間、魔王の目がより光り頬を歪ます。

 そしてアイラに向かって嬉しそうに…

 

 「ほらなのじゃ!!ほらで、ほらなのじゃー!!」

 「いやそれ、絶対に嘘だから!!絶対に、嘘ついてる時の言葉だから…!!」

 「違うのじゃ!!そんなわけないのじゃ!!だってじゃ…」

 「何よ…」

 

 アイラが尋ねる。

 それに対して、魔王は自信満々に…


 「こやつの言葉、妾を賢いと褒めていたのじゃ!!そして妾は賢い!!つまりじゃ、さっきのこやつの言葉は絶対に本当なのじゃ!!嘘なんかじゃないのじゃ!!」


 理由が強かった…

 

 魔王の言葉に何も言い返す言葉が出てこないアイラの方を見てみると、ポカーンと、半端に口が開いてしまっている。

 そしてその口から…

 「はっ…。はっ…」

 細切れな、失笑のようなものまで聞こえてきた。


 そんな何も言わないアイラへ、魔王はさらに浴びせるように…


 「そもそもじゃ、お主はうっさいのじゃ!!一々うっさいのじゃ!!」

 「はっ…!?」

 「妾は褒められているのじゃ!!それなのにブツブツと…。ほんとうっさいのじゃ!!黙っておるのじゃ!!」

 「はぁー!!何こいつ…!!何なのよこいつ…!!」


 また喧嘩が始まった…


 「のー、お主…」

 

 何故か魔王が呼んできた。

 

 「ん?」

 「おなご、おかしいのじゃ!!こやつ、頭おかしいんじゃないのじゃ?」


 アイラは、魔王に指を指されながら言われていた。


 「なんでよ!!おかしいのは私じゃなくてアンタの方でしょ!!」

 「そんなことないのじゃ!!ぜーったいにないのじゃ!!おかしいのはお主なのじゃ!!のー勇者、お主もそう思うのよな?そうよな?」

 「違うわよね?おかしいのはアイツよね?」

 「そんなことないのじゃ!!」

 「そんなことあるの!!フェデ、アンタはどっちなの?どっちの味方なの!!」

 「どっちじゃ!!」


 二人して言い迫ってくる。


 さて、どっちにつくべきだろうか…

 おかしいのは魔王、それは当然だ。

 でもそれだと、さっきの自分の言葉を嘘と自認してしまうことになるから、魔王からまためんどくさく言われる可能性がある。

 あるか…?

 いや、あるかもしれない…

 一応は…

 

 じゃー、スルー?

 それができるのならば一番アリな気はするが、目の前にいる今の二人の迫力的にそれは許してくれなさそうだ。

 なら…

 たまには、いいだろう…


 「アイラが…


 アイラの味方…

 二人ともそう受け取ったのだろう。

 そこまでの俺の言葉に、アイラが目を輝かせ、魔王が顔をしかめる。

 でもまだ続きがある。


 「…おかしいかな。」

 「なっ…!!」

 「…ほ、ほらなのじゃー!!ほらで、ほらなのじゃーっ!!おなご、お主がおかしいのじゃ!!おかしいのじゃーー!!ぬふふふ…」


 魔王がアイラに向かって、ニマニマとしたうざったそうな笑顔を向ける。

 アイラは顔を強くしかめたあと、こっちを強く睨んでくる。


 「なんでよ!!なんでなのよ!!」


 アイラが問い詰めようとしてくる。

 でもそこへ再度魔王が…

 

 「おっと、お主、負け…。負け…」

 「負け惜しみでしょ!!違うわよ!!」

 「お、おう…。なのじゃ…」


 ちょっとしたメスガキムーブを魔王はしようとするが、一瞬で不発になっていた。

 

 「フェデ、なんでよ!!どうしてなのよ!!」

 

 またアイラが詰問してくる。


 「なんで、か…。ん-…」

 「なんで今考えてんのよ!!おかしくない!?絶対におかしいわよね!!」

 「…あっ…!!」

 「あっ…じゃないわよ!!あっ、じゃ!!なんで今考えてんのよ!!」

 「ん?それは…

 「のーお主…」


 俺が今まさに言おうとした瞬間に、タイミングよく魔王が話しかけてきた。

 

 「どうした?」

 「えっ…?無視なの?ここで無視なの!?」


 アイラからそんな声が聞こえてくるが、俺は一旦スルーすることにした。

 いや、無視…というわけではない。

 スルーだ。

 一旦スルーするだけだ…


 「で、どうした?」

 「なっ…!?」

 「妾は思うのじゃ。このおなご、やっぱり変わっておるのじゃ。かなり変わっておるのじゃ!!」


 魔王が意味不明なことを言いだした。

 でも方針は決めた。

 だから今回は魔王に乗っかろう。


 「はっ…!?なんでよ!!そんなわけ…

 「まぁ、確かにアイラは、ちょっと変わってるからな…」

 「えっ…?私なの!?私が変わってるの!?」

 「そうじゃ!!お主が変わっておるのじゃ!!」

 「なっ…!!そんなことないわよ!!私、そんなおかしく…


 色々とツッコんでくるアイラ。

 そんなアイラへ、魔王はさらにばっさりと…


 「それにじゃ、今も横でうるさいのじゃ…」

 「なっ…」

 「ははっ…。確かに。それは確かにな…」

 「むっ…!!」


 アイラが睨みつけてくる。

 そしてそのまま強く大きな声で…


 「もういいわよ!!黙る!!黙るわよ!!!」


 怒鳴ってきた。

 それに対して、魔王は鬱陶しいそうにぼそっと…


 「やっぱりうるさいのじゃ…」

 「なっ…」

 

 最後、アイラは言葉を失っていた。

 

 

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