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八つ当たりを

えーと、

すでに読んでしまっていた方は、最後、何も見なかったということで…

というか、忘れてください


消すの忘れてた…

 俺はアイテムボックスの中から、何重にも折り畳まれた一枚のシートを取り出し、それを地面に置いた。

 それを魔王は不思議そうに見つめる。


 「のじゃ?なんなのじゃ?これ…」

 「これはな…」

 「のじゃ…」


 自分の頬が今、何故か上がっているのを感じた。


 「家…だよ。」

 「いえ…、家…。ぬわっ!?こ、これっ、家なのじゃっ!?」


 目が飛び出してしまいそうなほど、魔王は大きく目を見開かせた。


 「はははっ…」

 「ふふふっ…」


 俺とアイラはそんな魔王の反応を見てついつい笑い声をあげてしまうが、今の魔王はそれどころじゃないみたいだ。

 魔王はすごい勢いで…


 「家ってあの家なのじゃ?あの家なのじゃっ??」

 「どの家かは知らないけど、あの家だな。」


 魔王はすぐさま、俺からシートへとまた視線を移す。

 そしてすごく興奮した様子…

 

 「お~、お~!!おっ…?」


 …だったが、不思議そうに途中で首をコテッと倒した。


 「でもこれ…が家なのじゃ?妾にはそうは見えないのじゃ…」

 「まぁ、このままだとな。」

 「フフ、そうね。」

 「このまま…だと…?」


 まじまじと、また魔王はシートを見つめる。

 元から低い背をより低くするようにしゃがみ、じっと見つめる。


 「つまりは、どういうことなのじゃ…?」

 「ははっ…。じゃーせっかくだけど早速やってみるか。」

 「何をじゃ?」

 「家を建てるのをだよ。」

 「のじゃ?のじゃ…?」

 

 魔王は始めに左、そしてすぐさま次は右へと首を傾げた。


 「ははっ…」

 「ふふ、変なの。」

 「何がじゃ?」

 「ふふふ、何でもないわよ。」

 「そうなのじゃ?」

 「そうよ。」


 会話も落ち着いたみたいだし、やるか…

 俺は地面に置いたシートを広げていく。


 「アイラ…」

 「うん…」


 まずは、始めに見つけたシートの角をアイラへと手渡した。

 アイラは巨大なシートを広げるために、こっちの様子を伺いながら、麓から離れるよう、ゆっくりと後ろに下がっていく。

 そして俺は、また次の角を探していって…

 あった、あった…!!

 

 「モーア。」

 「ぬ…。お主に言われるの、やっぱり気持ち悪いのじゃ。」

 「ははっ。俺もすごい違和感あるわ。で、これ…」

 「のじゃ?これ…をどうすればいいのじゃ?」

 「アイラみたいに、持って、ゆっくりと後ろに下がってくれ。」

 「お、おうなのじゃ…」

 「ゆっくりと、こけないようにな!」

 「わ、分かっておるのじゃ…!!」


 返事をした後魔王はシートを持ち、後ずさりながら下がっていく。


 じゃー次を…

 俺は三つ目の角を探していく。

 ただその間、後ずさっていく魔王から小さく、だけどすごくイライラした様子の声が聞こえてくる。

 

 「あやつめ、一々うっさいのじゃ。妾を誰だと思っておるのじゃ!!魔王なのじゃ。皆が恐れる、あの魔王なのじゃ!!こんなことでその妾がこけるわけが…、の…ぬわっ…!!!」


 魔王の方から大きな声が上がった。

 魔王の方を見てみると、気づけば魔王は地面へと座っ…おしりからこけていた。

 

 「いちゃ~っ!!!ぬぅぅ、いったいのじゃ!!!」


 魔王はすぐさま、おしりと背中をさする。

 顔を歪め、頬を赤くし、そして涙目だ。


 「ぬぅぅ…!!」

 「あーあ…」

 「アンタってやつは…」


 もちろん俺たちの呟きが魔王に聞こえてる様子はなく、すぐにキッと鋭い視線でシートを睨みつけ…

 

 「こ、これのせいなのじゃ!!これのっ…!!」


 フッと湧いてきた気持ちをすぐさま発散するかのように、魔王が大きく怒った声を上げる。

 こけたはずみで手放してしまっていたであろうシートを魔王は両手でつかみ、そして引きちぎるかのような動きを…


 「ストォォォォップ…!!!!」

 「ぬっ…!!なんじゃ!!」

 「お前今、これを、破こうとしてるだろ!!」

 「そうじゃ!!してるのじゃ!!こんなのっ…!!」


 はっきりと魔王がそう言い放ってきた。

 そしてまた、シートを両手で思いっきり破こうと…


 「待て。マジで待てっ!!これっ、クソ高かったんだぞ?」

 「はっ…!!そんなの知らないのじゃ。妾には関係ないのじゃ。というかじゃ、これのせいで妾はこけたのじゃ!!これのせいで…!!ぐぬぬぬ…!!」


 魔王は止まろうとしない。


 「ちょっ…。アンタ…!!」


 アイラからも制止の声がかかるが、魔王がその声を聞こえた上でも止まる様子がない。

 そして今まさに破こうと…


 「破いたら飯抜きなっ!!!」


 ピタっと魔王の動きが止まった。

 がばっとこっちへ振り向いてくる。


 「破いたら少なくても20年、飯抜きだからな?」

 「に、にじゅうっっ!?なんでじゃ!!なんでなんじゃ!!」

 「言ってるだろ?これ、クソ高いって!!」

 「でもじゃ…!!そんなにご飯抜きじゃと、妾死ぬのじゃ!!死んでしまうのじゃ…!!」

 「破かなかったらいいだけの話じゃない。」

 「ぐぬぬぬ…!!」


 アイラの言葉で魔王はうつむく。

 だけどまたすぐ、悔しそうな顔で…


 「でもじゃ…!!でもなんじゃ…!!妾はこれのせいでこけたのじゃ!!これのせいで…!!」

 「それ、普通にアンタのせいじゃない!!」

 「ぬわっ!?違うのじゃ!!ぜーったいに違うのじゃ!!」

 「違わないわよ!」

 「違わないのじゃ!!」


 まだ魔王は認めたくないようだった。


 「そうじゃ!!そうなのじゃ!!」


 魔王が何か思いついたらしい。


 「なんだ?」

 「何?」

 

 「妾、いいことを思いついたのじゃ!!すごいことを思いついたのじゃ!!」

 「はー…」

 「何よ?」

 「それはなのじゃ、昨日妾がもらったお金、これをあげるのじゃ!!」


 魔王は懐から、お小遣いをもらった時一緒に貰った布袋を取り出した。

 ガッリガリに萎んでしまっている布袋を…

 

 「プッ…。あはははは…」

 「ふふっ…。あははは…」

 「なんじゃ!!何を笑っておるのじゃ!!!妾はマジなのじゃ!!」

 「いやな、だって…。ははは…」

 「そう、よね。ふふふふ…」


 どうしても笑ってしまう。

 

 「ぬぅ…!!なんじゃ!!言いたいことがあるのなら言うのじゃ!!笑わずに、さっさというのじゃ!!」

 「ははは…。プっ…」


 なんとかこみ上げてくる笑いを我慢して…


 「中、見てみろよ…。くくっ…」

 「中…なのじゃ?」


 つけられた紐でくくられてもいなかった布袋を、魔王は広げて中を覗く。


 「ぬぁっ!?ぬぁっ!!」


 中を見て驚いた魔王は、すぐさま袋を逆さにして上下に振る。

 だけどやっぱり、何も出てこない。

 でもまだ現実を認められないのか、布袋の裏地を引っ張り出すことで裏返しにした。

 そしてやっぱり、布袋の中には何もなかった。

 

 「ぬわーーっ!!なんでじゃ!!なんでお金がないのじゃ!!」

 「お前、昨日全部使い切ったじゃんか。ピザのおかわりに…」

 「のじゃ?そ、そうなのじゃ?」

 「そうよ。」

 「じゃーじゃ、じゃーなのじゃ…!!妾のお金…はもうないのじゃ?」

 「見て分かるだろ?」

 「ほんとよね。」

 「そう、なんじゃ…」


 魔王から出た声はすごく切なそうだった。

 

 「でもじゃ!!またお手伝いすれば…」

 「そもそもだけどさ…」

 「なんじゃ!!」

 「数日…。いや、数年お手伝いしたところで、足りないからな?お金…」

 「そ、そうなのじゃっ!?でも、なんでなんじゃ!?」

 「そりゃ、これ、物凄く高いもの。きっとだけど、10年くらいは少なくともお手伝いしないといけないわよ、ね?」


 確認のため、アイラはこっちを振り向いてくる。


 この世界のお金は、だいたい日本と一緒だ。

 そして一年間でこいつが稼げるお金を多めに…、めちゃくちゃ多めに150万くらいだと仮定したとすると…

 それを丸々目の前のこの魔道具にあてるとすると、足りはする。


 「じゅっ、じゅうっ…

 「まぁ、それくらいはしないとな。」

 「なっ、ぬわっ!?」


 魔王が大きく目を飛び出させた。

 だけどすぐ、何故か自信満々な態度を取ってきた。


 「で、でもいいのじゃ。お手伝いをしたら、昨日はご飯がついたのじゃ!!だから10年くらい、全然…」


 あー、昨日はご飯ついてたのか…

 であの金額…

 なるほどな。


 「じゃー、追加でもう10年な。」

 「ぬわっ!?なんでじゃ!!」

 「いや、その分もらえるお金が引かれるからな。だから当然だろ?」

 「と、当然…!!ぬぬぬ…。おなご、当然なのじゃ?」

 「…ん?まぁ、そうなるわよね。」

 「ぐぬぬ…!!そうなんじゃ…。ぬぬぬぅ…!!」


 忌々しそうに魔王がシートを見つめる。

 というか…

 

 「いや、破るの諦めたらいいだけだろ…」

 「そうよね。そもそも破らなかったらいいだけの話だし。ていうか、なんでこんなくだらないことをこんな長いこと話さないといけないのよ。」

 「ほんとだよな。ほんと、そうだよな…」

 

 無駄すぎる…


 「ち、違うのじゃ!!」

 「何がだ?」

 「妾は魔王。あの、皆が恐れる魔王なのじゃ!!その魔王がじゃ、こんなシートにこかされたと分かったらじゃ、魔王の…、魔王の…」

 

 また言葉が出ないらしい。


 「なんだ?」

 「何よ?」

 「魔王の…。とにかくじゃ!!」


 「諦めたか。」

 「諦めたわね。」


 「あ、諦めてないのじゃ!!ただ…」

 「なんだ?」

 「…。…ッ!!そ、そうじゃ!!とにかくじゃ!!こんなシートに負けた日には、妾の…。妾の…」


 「またか。」

 「またね。」

 「ぐわーーっ!!うっさいのじゃ!!お主らうっさいのじゃ!!そのせいで言葉が出てこないのじゃ!!」


 「とうとう、人のせいにし始めたわね。」

 「し始めたな。でも元からだろ?」

 「そうね。元からよね。」

 「うっさいんじゃーーーっ!!」


 魔王が怒鳴ってきた。

 でももう、なんかめんどくさい…

 というか、いい加減早く進めたい。

 

 「いやさ…。お前がこかされたの、これじゃなくて、石だろ?ただ石につまずいただけだろ?もうその辺の石に八つ当たりすればいんじゃね?」

 「そうね。アンタ、そういうことにしときなさいよ!!ていうか、実際にはそうだし。」

 「ち、違うのじゃ!!妾は石になど…」


 会話も終わったことだし、俺は再度作業に戻ることにした。

 角はどこかなー。


 「ぐぬぬ…。おなごっ!!」


 俺が相手をするのを止めたからだろう。

 魔王は矛先を、俺からアイラへと移したようだ。

 

 そ~と、顔を上げて二人の様子を見てみる。

 するとアイラは…


 「あっ!!足元っ!!そこにいい感じの石があるじゃない。それにしときなさいよ!」

 

 魔王をクソバカにしていた。

 

 「ククッ…」

 「あっ…!!お主、今笑ったのじゃ!!妾を見て笑ったのじゃ!!」


 俺目掛けて魔王が指さしてくる。

 

 「笑ってない笑ってない、から…。ププッ…」

 「嘘じゃ!!すごく嘘なのじゃ!!だって今笑っておるのじゃ!!すごく笑っておるのじゃ!!」

 「ククッ…。いやほんと、笑ってない…から…。それよりもさ、早く石…蹴った方が良いんじゃないか?またこかされる…前に…さ…。ププッ…」

 「ふふ…。あはははっ…」


 アイラからも楽しそうな笑い声が響いてくる。

 そして魔王はというと、いつの間にか顔を真っ赤になってしまっていて…


 「ぬわーーっ!!!怒ったのじゃ!!妾は怒ったじゃ!!こんなものっ…!!!」

 「飯、抜き…」

 

 魔王の動きが、またピタッと止まる。


 「ぐぬぬぬ…。いいのじゃ!!別にい…

 「一生な?」

 「いっしょうっ!?」

 「そう、一生。」

 「ぐぬぬぬ…!!!ぬわーーっ!!!」


 そんな叫び声をあげた後、魔王は大きく足を振りかぶって…

 スカッと、ドスンッ…

 地面におしりをついた。


 「いちゃ~っ!!!」

 「プッ…。ははははは…」

 「ふふ…、あはははは…」

 「ぬぅ…!!笑うなーーっ!!!」


 怒られてしまった。

 だから我慢を…


 「…ん?プッ…。ははははは…」

 「プププ…。あはははは…」

 

 できなかった…


 「笑うな…。お主ら、笑うなじゃーーーーっ!!!」


 ということでこうして、魔王はまたこけたのであった。

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