帰宅のさいには念の為
「ふー。今日は楽しかったな。」
今日は色んな所へ行った。
魔道具店に本屋、出店とか他にも…
久しぶりの一人。
自由気ままに出歩けてすごく楽しかった。
あと、念のためにお土産も買ったし…
俺はお世話になっている宿屋の扉を開く。
扉を開くと、借りている部屋へと向かうための階段と食堂に向かうドアが新しく見えた。
俺は食堂へと進みドアを開く。
するとすぐ、アイラと魔王の二人を見つけた。
アイラは本を読んでいて、魔王はぐったりと机に顔を預けている。
「よっ!」
傍まで近づき、声をかける。
そしたらすぐ、アイラが険しい表情で顔を上げてきた。
「何がよっ、よ。人に子守押しつけて、自分だけで遊びに行ってたくせに!!」
アイラの言葉に反応して、魔王ががばっと起き上がる。
「ぬわっ…!!こ、子守っ!?お、おなご、子守とはなんじゃ!!子守とは…!!その言い方じゃとまるで、妾が子供みたいなのじゃ!!言い直すのじゃ!!すぐに言い直すのじゃ!!」
「はっ、子供でしょっ!?朝なんて、アンタ、自分がどんだけわがまま言ってたか覚えてないのっ?」
「覚えてないのじゃ!!そもそもじゃ、妾、わがままなど言ってないのじゃ!!これっぽっちも言ってないのじゃ!!」
「言ってたわよ!!」
「言ってないのじゃ!!」
アイラと魔王の二人が睨み合う。
ある程度は予想してたけど、今日一日、アイラ、大変だったんだなー。
俺は目の前の光景でそう思うものの、どうやら少し、俺が思ってたのとは違っているみたいだ。
「というかじゃ、遊んでたお主よりも妾の方が上なのじゃ!!すっごく上なのじゃ!!」
「はっ!?なんでよ?」
「だからじゃ、お主は一日遊んでた。だけどじゃ、妾はお手伝いしてたのじゃ!!だからじゃ、妾の方が上なのじゃ!!ずーっと、ずぅぅっと上なのじゃ!!」
「なっ…!!何こいつ、めっちゃむかつくんだけど…。わざわざアンタのために、今日一日ここで時間潰してたっていうのに、そんなこというわけ?」
「はっ、そんなの知らないのじゃ!!お主が勝手にやったことなのじゃ!!だから妾には関係ないのじゃ!!」
「むきーっ!!マジむかつく!!ほんとむかつく!!」
煽るように言う魔王の言葉に、アイラの眉間に皺が寄っていく。
でもそれよりも気になるのは…
「お手伝い…?」
俺のその呟きに、魔王がバッと振り向いてくる。
「そうなのじゃ!!妾は、今日お手伝いをしてたのじゃ!!だから偉いのじゃ!!すごーく偉いのじゃ!!」
お手伝い?
どこで何の…?
俺が疑問に思っていると、横から声が聞こえてきた。
サーナさんだ。
「フェル、おかえり。」
「あっ、はい。ただいま、です…」
俺の返事にサーナさんはニコッと笑みを浮かべてから、手に持った料理をテーブルに置いていく。
今日の晩御飯は、どうやらピザのようだ。
「わっ…!!ピザなのじゃ!!ご飯、ピザなのじゃ!!やったーなのじゃ!!」
「ふふふ、モーアちゃん、今日は頑張ってくれたからね。だから、ご褒美だよ。」
「そうなのじゃ?やったーなのじゃ!!」
魔王が大喜びする。
でもそれよりも…
「モーアちゃん…?」
なんか知らない名前が出てきたんだけど…
「あっ…!!あの…
俺の呟きに、すぐさまアイラから声が飛び出す。
そして何か言いだそうとしているが、それが遮られてしまう形でサーナさんが話しかけてきた。
「今日ね、モーアちゃんがウチの手伝いをしてくれたんだよ。すごく助かったんだよ。モーアちゃん、ありがとね。」
「ぬふーっ!!おうなのじゃ!!」
魔王へお礼を言ったあと、サーナさんはまたこっちに顔を向けてくる。
「でその時にね、モーアちゃんがピザ食べたいって言ってたのをうちの旦那が聞いたらしいんだよ。だから、今日のメニューはピザになったんだ。」
「え、あー、そう…
「そうなのじゃ!?ピザ、嬉しいのじゃ!!やったーなのじゃ!!」
「ふふふ…」
サーナさんはまたさらに言葉を続けてきた。
あとそれと、視界の端ではアイラがあわあわと何か焦っている。
今すぐでも、何か伝えたいことでもあるかのように…
「それでね、少ないけど、今日モーアちゃんが手伝ってくれた分。まぁ、お小遣い程度だけど、受けとって欲しんだよ。」
サーナさんが、中に何か入った布袋を差し出してきた。
言葉と流れ的にはお金だろう。
お手伝い…
お金…
モーア、ちゃん…
で、視界の端の方に見える、あわあわと目をさまよわせてテンパっているアイラ…
あー、なるほどね。
「分かりました。で、ウチのモーア、ご迷惑とかかけませんでした?」
「えっ!?」
「全然!!モーアちゃんが手伝ってくれてすごく助かったよ!!」
「当たり前なのじゃ!!なんたって、妾なのじゃからなっ!!むふーっ!!」
アイラからは驚きの声が飛び出し、魔王は鼻と座高を高かくした。
「そうなんですね。なら良かったです。」
「ふふふ、ほんと助かったよ。繰り返しになるけど、モーアちゃん、今日はありがとね。」
「おうなのじゃ!!」
魔王の反応に笑顔で返事した後、サーナさんは去って行った。
そして俺が席に座るなり、魔王が鼻息荒めで話しかけてくる。
「お主それ、それはいったい何なのじゃ?」
サーナさんがくれた布袋のことだろう。
俺は紐を解いていく。
「ま-たぶん…。あっやっぱりな、お金だよ。」
「お金…?なのじゃ?」
「あー。俺がさ、何か買う時にお店の人に何か渡してるだろ?」
「渡してる…。渡してるのじゃ!!」
「それだよ。」
「そうなのじゃ…?でもあれ、いつも何を渡していたのじゃ?」
「あー…」
俺は布袋を魔王へと手渡す。
手渡されるとすぐ、布袋を逆さにして、魔王は中身を全部取り出した。
「のじゃ?丸い…。あとなんか汚いのじゃ!!」
魔王の言う通り、取り出した硬貨は汚れて、少し濁った色をしていた。
「はは、かもな。でそれがな、お店とかで何か買う時にそれと…、それ、お金って言うんだけど、それと交換で食べ物とかを貰うんだよ。」
「お金?交換…?なのじゃ?」
「そ。お金で交換。だからお前が何か欲しい時にな、それを差し出せば欲しいものが貰えるんだよ。」
「なるほど、なのじゃ…?」
魔王からは分かっているのか分かっていないのか分からない、あいまいな返事が返ってきた。
「まー、失くしたりすると勿体ないからな、中にしまっときな。」
「わ、分かったのじゃ…」
言われた通り、魔王はお金を布袋の中へとしまっていく。
そこで、アイラが話しかけてきた。
「ねぇ、フェデ?」
「ん?」
「アンタ、よくすぐ理解できたわね。お手伝いとかモーアって名前。」
「のじゃ?呼んだのじゃ?」
呼ばれたと勘違いして、魔王が反応してきた。
「別に呼んでないわよ!!」
「そうなのじゃ?なら、いいのじゃ…」
また魔王は、硬貨を布袋にしまう作業に戻る。
「いや、馴染みすぎだろ…」
「フフッ、ほんとそうね。」
「な。」
「ね。」
「で、あれだろ?こいつがお手伝いすることになったけど、魔王って呼んでもらうわけにはいかないから、今日は”モーア”って名前にすることにしたんだろ?」
「そ。せーかい。」
「ははっ、やっぱりな。さすがだろ?」
「はいはい。」
ドヤってみた俺の言葉は、アイラにテキトーに流されてしまった。
会話に一段落つく。
だから早速、俺は目の前のご飯に手を伸ばそうとした時、アイラからは明るい声が飛んできた。
「で、フェデ君は今日はどこほっつき歩いてたの?何も言わず一人勝手にね。」
気持ち悪いくらいに明るい声。
だけどそれはまるで、用意したかのよう…
顔を上げてみると、アイラの顔にも作り物のようなきれいな笑顔がこびりついていた。
「ん-、その辺、だな…」
「へー、その辺かー。楽しかった?一人、で!」
「そ、それなりには…」
「ふ~ん。ふ~~~~ん。そっかー。楽しかったのかー。一人で遊びに行ったの。」
ピクピクと、アイラの頬が上下に動く。
こ、これは…
「は、はい、楽しかった、です…」
「そうなんだー。私は何かあったときのために、ずっとここで時間潰してたのに、なのにアンタは一人楽しんでたんだー。ふ~ん。へー!!」
不自然なほどに強調された、へー。
まるで怨念でも込められてそうで、これは少しやばい気が…
「何も言わず一人で遊びに行って、それで楽しかったのかー。そっか。そうなんだー。人には厄介ごと押しつけたくせにね!!」
「」
「アンタっていつもそうだったわよね。皆で打ち上げしようって言っても、何も言わず、気づかないうちに一人でどっか行って。で、帰ってくるのは朝!何も聞かされず、無駄に待たされる私たちのこと、少しでも考えたことある?」
「あ、ありま…
「ないわよね!!あるわけないわよね!!あったらそんなことしないもの。」
「は、はい…」
何も言わしてくれない…
「で、今日はどこほっつきまわってたの!!」
「えっと、本屋とか…、魔道具店とか…」
「へー、へー!!」
アイラの眉間がピクピクと動く。
「すごく楽しそうね、それは!!」
「はい、楽しかった、です…」
「楽しかった、楽しかったか。よくこの状況でそんな言葉言えるわね!!羨ましいわ、その性格!!」
アイラが、すごく怖い…
「ほら、何か言いなさいよ!!ほら!!」
「えっと…」
「何?早く言ってよね!!」
ピりつく空気…というかアイラ。
そこで、魔王が話しかけてきた。
「お、お主。あやつ、怖いのじゃ…。朝も…」
「アンタは関係ないのでしょ!!今は黙ってて!!」
「はぃぃ~…」
一瞬で一蹴された。
またすぐにアイラが睨みつけてくる。
「で、何か言うことはないわけ?」
「えっと、アイラ、様…」
「何よ。」
「そのー、お土産…があるんですけど…」
「はぁ…。またそうやって物で機嫌取ろうとして…。アンタってやつはほんとっ!!」
アイラがうんざりしたように言ってくる。
その言葉を受け取りながら、俺はアイテムボックスを漁っていく。
「で、今回は何?別に、お土産なんかで機嫌戻してあげる気なんかないんだけど!!」
どうやら、お土産自体には多少なりとも興味を示してくれているみたいだ。
俺はガサガサとアイテムボックスの中を漁り…
「えっと、これなんですけど…」
俺は今日買ってきたものを、アイテムボックスから取り出した。
そしてそれを、アイラへと渡す。
「はぁー…」
アイラから大きなため息をつかれる。
やれやれといった感じだ。
だけど渡されたものを見たらすぐ、アイラの目が輝きだした。
「わっ、きれい…!!」
アイラから、可愛い、女の子みたいな声が飛び出てくる。
表情も今は、さっきまでのむすっとしてたものはどこかへ行ってしまっていて、ぱぁーっと明るい表情になっている。
相当気に入ってくれたみたいだ。
ブレスレット。
そう、俺が買ったのはブレスレットだ。
赤、青、緑色に輝く魔石を花びらの形に成形し、それをシルバー基調の細いチェーンにいくつも取り付けられたもの。
そこそこに値段は張ったものの、男の俺から見てもかなりきれいに見える。
アイラは今もそれを、手の上で転がしながら、魔石でできた花の輝きを色んな角度で眺めている。
キラキラと輝く目。
少し空いてしまっている口元。
自然と浮き上がってできたであろう頬笑み。
アイラがブレスレットを気に入ってくれたのが伝わってくる。
でも、一応…
「どうだ?気に入ったか?」
「ん?あっ…!!」
俺の言葉に誘導されてしまったかのよう、アイラは無意識に顔を上げてくる。
パッと、目が合う。
そしてすぐ、アイラは『しまった』という顔になった。
「いや、これはあれだから、あの…。えっと…」
あたふたとし始める。
視線は右左、斜めも合わさり大暴れだ。
「ククッ…」
その姿に笑ってしまった。
「何笑ってるの!!」
「いや?」
「いや?じゃないわよ!!なんで笑ってるのか、って聞いてるの!!」
アイラが眉をひそめてながら聞いてきた。
「ん-、気に入ってくれたみたいだからよかったなーって。」
「はっ!?べ、別に、気に入ってなんかないんだけど…!!」
「そうなのか?」
「そ、そうよ!!」
「そっかー。じゃー…」
渡したブレスレットへと手を伸ばす。
「えっ…?何?」
「いや、いらないみたいだし、返してもらおうかと…」
「えっ、えっ!?」
俺はさらに手を伸ばす。
そしてもう少しで、ブレスレットに手が届きそうになったところで…
「あっ…」
アイラから悲しそうな声が聞こえてきた。
顔を覗いてみると、声だけじゃなく顔までも悲しそうな顔になっている。
だけどもう少し、ギリギリまで伸ばしていく。
そしてギリギリで止めた。
また顔を見てみると、アイラの顔は今すぐにでも泣きそうな顔になっていた。
「ははっ、冗談。冗談だから…」
「え…?」
「取らない、取らないから。お土産だからちゃんとアイラにあげるって。」
「あ、うん…」
アイラはホッとしたようだった。
「でも、かなり気に入ってくれたみたいだし、良かった良かった。」
ホッとした顔が一転、アイラはまた鋭い視線を向けてくる。
頬を赤くして…
「だ~か~らっ、気に入ってないからっ!!」
「はいはい。」
「ほんと、気に入ってないからね?」
「はいはい、そうだね、気に入ってないね。」
「あー、うざい!!ほんと気に入ってないからっ!!」
「そうだね。」
「あー、もうっ!!」
お土産、気に入ってくれたみたいで良かった…
けどそれ以上に、魔王を押し付けたのが有耶無耶になってくれたのが本当に助かった。
お土産作戦、これはまだまだいけるな。




