2食分だけしか
「ぬはーっ、うまい。おかわりっ!!なのじゃ。」
ようやく朝ごはんを食べ始めた私たち。
いえ、食べ終えようとしていた私たち。
そんな中、いつものように魔王が『おかわり』という言葉を出してきたところだった。
「だ~めっ。アンタのご飯代って渡されたお金、朝とお昼分しか…。しか…」
魔王はフェデからご飯代…というか、私に渡すようにと布袋を預かっていた。
その中身はお金で、朝食にお昼分くらいなるくらいのお金が入っていた。
だから私は、そのお金を朝と昼の二食分と受け取った。
受け取ったけど…
でも待って…
もしかしてだけどこれって…
「んじゃ?おなご?どうかしたのじゃ?」
信じられないことに気がついてしまった…
いえ、気づいてしまったは、少し考え過ぎかもしれない。
でも少し嫌な予感を感じてしまった私に、魔王が不思議そうな顔を向けてきていた。
「えっとね、もしかしてなんだけどアイツ…、夕飯まで帰ってくる気ないんじゃないのかなって。もしかして、なんだけど…」
「ん?そうなのじゃ…?」
魔王が何でもないかのように聞き返してきた。
「たぶん…だけどね。」
「そうなのじゃ?でも、なんでそんなことが分かるのじゃ?」
「だってね、アンタのご飯代が2食分、これに入ってたの。」
分かりやすいように、私は預かった布袋を取り出して持ち上げる。
「だから逆に言えばね、2食…朝と昼は帰ってくる気がないってことなんじゃない?」
「おーっ、なるほどなのじゃ。」
目の前のおこちゃまが感心したような顔を向けてくる。
それに少し浮つきそうになる。
でもそれどころじゃない。
だって…
「一日面倒か…。はぁ…」
私は小さくそうこぼした。
「なんか言ったのじゃ?」
「いや何も言ってないわよ?ただ疲れる、だろうなーって…」
「ん?なんでじゃ?」
「何でもよ。」
「ふ~ん、そうなんじゃ~。」
「そうなのよ。」
目の前のおこちゃまが、少し不思議そうに見つめてきていた。
でもすぐ、パッと目を見開いた。
「でじゃ、お主!!」
「何、よ…」
嫌な予感がした。
いえ、嫌な予感しかしなかった。
「妾、おかわりがしたい!!おかわりがしたいのじゃ!!!」
やっぱり…
「ダメよ。」
「なんでじゃ!!」
「なんでって…。さっき言ったでしょ?フェデから朝と昼の分しかもらってないって。だからダメ!!」
「ぬぅぅ…!!嫌じゃ!!そんなの嫌なのじゃ!!妾、おかわりしたい!!したいのじゃ!!!」
魔王がしつこく言ってくる。
はぁ…
よくアイツ、こんなのの面倒見れるわね…
どうやってるのよ、ったく…
「ダメなものはダメ!!」
「なんでじゃ!!」
「だーかーらっ、アイツからは二食分しかもらってないの!!それ以上はもらってないの!!」
「なんでじゃ!!」
「そんなの知らないわよ!!帰ってきたらアイツに聞いて!!!」
「ぐぬぬぬ…」
魔王が睨んでくる。
ほんと面倒。
「そうじゃ!!」
「何よ…」
「妾、いいことを思いついたのじゃ!!賢い妾は、すごいことを思いついたのじゃ!!」
「はぁ…。で何?」
「それはなのじゃ、足りない分はお主が出せばいいのじゃ!!そうすればいいのじゃ!!解決なのじゃ!!」
「どこが良い案、なのよ。ったく…」
私はそう吐き捨てる。
でも目の前のおこちゃまには、私のそんな呟きは聞こえてないみたいだった。
「むふーっ!!妾、賢い!!やっぱり賢いのじゃ!!ということでおかわりを…」
「ダメよっ。」
「ぬっ…!!なんでじゃ!!なんでなんじゃ!!」
「なんでって、それは…」
「それは…、何のじゃ!!いったい何なのじゃ!!」
魔王が差し迫ってくる。
でもちょっと…
ほんのちょっとだけ理由を言いにくい。
だから私は、なんとか小さい声で理由を口にした。
「だって今お金ないし…」
「ん?なんなのじゃ?聞こえないのじゃ!!」
「だーかーらっ…」
そこからはまた、小さな声で…
「今お金ないし…」
「聞こえないのじゃ!!妾みたいに、もっと大きい声で言うのじゃ!!」
イラっ…
「あーもううっさいわね!!ダメなものはダメなの!!」
「なんでじゃ!!」
「ダメだからよっ!!」
「ぬぅぅ…!!嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃーっ!!!」
しつこいことに、まだおこちゃまが食い下がってくる。
面倒。
ほんと子供って面倒!!
イライラしていた私、たち…
そんな私たちにところに、サーナさんがやってきた。
「二人とも、少し静かにしておくれ!他の人の迷惑になってるんだよ!!」
「あっ…」
私は周囲を見渡す。
するとあまり多くないながらも、私たち以外のお客さんもいた。
申し訳ない気持ちと少し恥ずかしい気持ちが湧いてきた。
「ごめん、なさい…」
小さく謝罪を口にする。
でももう一人のおこちゃまが謝ることはなかった。
「妾、悪くないのじゃ!!悪いのはおなごなのじゃ!!全部ぜーんぶっ、おなごが悪いのじゃ!!」
「はぁ゛っ…!?」
「フンッ…!!」
魔王はプイッと、顔を横に背けた。
「ッ…!!なんなのよコイツっ…!!」
イラってした。
すごくすごく、イラってきた。
そんな中、サーナさんから尋ねてきた。
「はぁ…、どうかしたのかい?」
「こやつが悪いのじゃ!!こやつがっ!!」
「はぁ…」
私を指さしながら言ってくる魔王の言葉に、サーナさんはまたため息を大きくついた。
そして私の方を見てくる。
「アイラちゃん、何があったんだい?」
「その、この子がおかわりをしたいしたいって、ずっと我が儘を言ってくるんです。」
「妾、わがままなんて言ってないのじゃ!!ただおかわりがしたいって言っただけなのじゃ!!」
イラっ…
「それが我がままなのよ!!」
「ぬっ…!!」
「はいはい。まずは二人とも落ち着きなさい。」
「はい…」
「フンッ…!!」
イラッ…!!
「でアイラちゃん、おかわり、だよね?してあげたらいいじゃない。」
「そうじゃ、そうじゃ!!」
「はぁ…!?うっさ…
「ちっちゃいお嬢ちゃんは、少し静かにしててね。」
「ちっちゃいっ!?」
信じられないといった風にお子ちゃまは目を大きく開いていた。
「でアイラちゃん、なんでおかわりさせてあげないんだい?」
「それは…、アイツ…、フェ…ル。フェルからこの子のご飯代を朝と昼分しかもらってなくて…」
「あー、そうなんだね。でもウチはそんな高くないし、おかわり分くらい、アイラちゃんが出してあげたらどうなんだい?」
「それはその…、今はちょっと…、なんというか…」
言いたくなくて、歯切れの悪くなってしまう私…
言葉を紡ぐ間でチラッとサーナさんの顔を見てみたら、サーナさんは優しい微笑みを浮かべていた。
「あー、なるほどね。」
サーナさんは、何か察してくれたみたいだった。
それが少し恥ずかしくて、私は下を向く。
そんな中、サーナさんから声が聞こえてきた。
「じゃーこういうのはどうだい?」
「ん?」
そ〜と私は顔を上げる。
するとすぐサーナさんの顔が目に入ってきて、ニカっと明るい笑顔だった。
「お嬢ちゃんにウチの手伝い、をさせてみるっていうのは。」
「手伝い…?」
「お手伝い、なのじゃ?」
「そうお手伝い、だよ。」
サーナさんは少し膝を折って、おこちゃまと目線の高さを合わせる。
「頑張ってくれたら、お嬢ちゃんにお昼、ごちそうしてあげるよ?」
「ご、ご、ご、ごちそうっっ!?なのじゃ?」
「そう、ごちそうしてあげるよ。」
サーナさんは明るい笑顔のまま。
そしておこちゃまは、ごちそうって言葉に目を光り輝かせている。
「ごちそうっ!?やる!!妾お手伝いやるっ、やるのじゃっ!!」
「そうかい。」
おこちゃまに明るい笑顔で返事した後、サーナさんは私の方を見てきた。
「アイラちゃん。この子にお手伝い、やらせてもいいかい?」
「いいけど…」
「そうかい。じゃ―決まりだね。」
「お手伝い、するのじゃーー。」
「お嬢ちゃん、今日はよろしく頼むね。」
「のじゃ!!」
魔王はいい返事を返した。
話は終わったから、サーナさんは後ろへと去って行く。
そしてすぐ、目の前の魔王から嬉しそうな声が漏れ始めた。
「むふーっ!!ごちそう、ごちそうなのじゃ。ぬふふふふ…」
そんな魔王を見てて、今更ながら少し気になったことがあった。
この子…もしかしてだけど、御馳走とご飯を奢ってあげるのごちそうを勘違いしてる気が…
いや、そんなわけないか。
バカじゃあるまいし。
ということでおこちゃまは今日、サーナさんの宿屋のお手伝いをすることになった。
ちゃっかりとおかわりをした後。




