9 お兄様の騎士姿は素敵すぎましたわ
お兄様の騎士団訓練を見学する日が決まってから、
この日を心待ちにしていた。
何度かアニーからお兄様の剣の強さについては
聞いていたが、
今日は実際にその姿を見ることができる。
王宮の片隅にある訓練場の上に設置された見学スペースに案内され、
私は胸が高鳴るのを感じた。
訓練が始まると、鎧をまとった騎士たちが
剣を振り回し、重々しい音が場内に響いた。
その中で、すぐに目についたのは、お兄様の剣技だ。
お兄様のスピードや身のこなしの自由さは、
他の騎士と一線を画していた。
お兄様の剣さばきには迷いがなく、相手の隙を一瞬でつき、
練習相手の騎士を次々と倒して抜いていった。
お兄様の表情は真剣そのもので、
お兄様の力強い一挙手一投足とその素早い動きの切り替えは、
まるで剣技の舞のようであった。
お兄様の、圧巻の剣技に夢中になって
見入っていると、また胸が高鳴った。
その胸の高鳴りに戸惑い、
視線をお兄様からそらすとふと知っている顔が視界に入った。
オレンジ色の髪が特徴的な男性が、
仲間たちの間で活気に満ちた動きを見せていた。
彼もまた、他の騎士とは一線を画し、
お兄様に負けず劣らずの剣技を見せていた。
私のここ最近の記憶が正しければ、
彼はお兄様の執務室で見かけたことのある人物だろう。
「アニー、あれは誰かしら?
この前お兄様の執務室でも見かけた気がするんだけど」
私はアニーに聞いた。
「あれはレナード様ですよ。
ヴィンセント様とずっと一緒に訓練してこられた侯爵家の次男です」
「そうなの……。レナード様……」
と私は何か思い出せないかと思案しながら呟いた。
彼はその明るい性格を表すかのように、
元気に大きく剣をふるっているようだったが、
その剣の動きはとても鋭く、練習相手を圧倒していた。
「公爵様が、彼が次男だということで自分のところで
領地経営の勉強をさせるために雇われたそうです。
ヴィンセント様は仕事においては
完璧を求め効率を重視するために部下にも厳しく、
冷徹といわれていますが、
実は心優しい方ですからね」
「そうなんだ……」
私はレナードを見つめながら、
その明るさが仲間たちの士気を上げていることに気づいた。
「レナードは人気者のようね。」
というとアニーが
「レナード様は副団長でもあり、
唯一公爵様と互角に戦える騎士でもあります。
団長の公爵様があのように
いつも一匹狼でいらっしゃるので、
実質騎士団をまとめているのは
レナード様だと思いますよ。
とはいえ公爵様もあの実力から団員には尊敬され、
目標になっているようで、
教官として指導を頼まれたときには
丁寧に教えていらっしゃいますよ。
公爵様は不器用なお方ですよね。」
と言ってアニーは微笑んだ。
休憩に入ったのか、私の視線に気づいたのか、
レナード様がこちらを見上げ、
にこやかに手を振ってきた。
「レナ様~~~!」
遠くから大きな声で元気に声をかけてきたので、
私は少し驚きながらも控えめに手を振り返した。
「レナード様はいつもあんな感じですよ。
お嬢様にこんな馴れ馴れしい態度。
いつも注意してるんですが。適当にあしらっておけばいいです」
とアニーが少しあきれて笑いながら言った。
「ムードメーカーで元気な方なのね。良い人だわ」と私は微笑んだ。
しかし、次の瞬間、お兄様がレナードを睨みつけ、
何かを言い放ったようにみえた。
どうやらレナードに一騎打ちを挑んでいるらしかった。
お兄様が本気の表情を見せている姿にドキドキしながら、
何が起こるのかわからず、ハラハラと事が始まるのを待つしかなかった。
名前を間違えていました。ヴィンセントと働いている侯爵家次男で剣技が強いのがレナードで、王子の名前はエドワードです。修正しました、すみません(´;ω;`)