表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/47

8 踊りの練習に耐えられませんでしたわ

ドレス選びがこんなに大変だなんて、全然思ってもみなかった。




デザイナーとの打ち合わせで、

お兄様が驚くほどの気迫で細かい注文を出している姿を見て、

私は内心圧倒されていた。

生地の質感や刺繍のデザインに至るまで、

一つ一つに真剣な顔で指示を飛ばしているお兄様。

その姿を見ながら、こんなにも私のことを気にかけてくれているのだと感じ、嬉しく思った。





いちばん驚いたのはお兄様が宝石の大きさだ。

まるで王妃様が身に着けるような大きな宝石ばかりで、

かなり気後れしてしまった。

お兄様が「これくらいでないとレナには似合わない」

と言い張るので、結局あきらめるしかなかった。

身につける日は緊張しそうだなと今から少し心配になった。





自分のドレスを注文してもらっている時は

戸惑うことが多かったけれど、

お兄様のタキシードを選ぶ時間はずっと楽しかった。

お兄様が私の意見を真剣に聞いてくれる姿が新鮮で

ついつい夢中になってしまった。

お兄様に私のドレスと似たデザインは嫌がられるかとも思ったが、

すんなりと受け入れてくれて内心ちょっと嬉しく思った。

お兄様がそのタキシードを着るのを密かに楽しみにしているのは、

お兄様には秘密だ。

私のドレスとペアリングしたタキシードは

お兄様の銀髪にも絶対に似合うはずだ。




全ての作業が片付き、宝石商とドレスデザイナーの人が出ていった。

ふとお兄様をみると、疲れているように見えたので、

お茶に誘ってみた。

すんなり承諾してくれたことも

もう少し一緒にいられることも嬉しくて胸が少し高鳴った。





「ダンス大丈夫なのか?」

とお兄様が心配してくれた。

ダンスは先週からアインが覚えているか試してくれている。

基本的なステップは覚えていたが、

舞踏会で踊るとなると不安があった。

お兄様に心配はかけたくないが、

その気持ちを、正直に伝えることにした。




「おぼえているか不安ですわ。

この前アインに少し練習に付き合ってもらいましたが、

大きな舞台で踊った記憶がないので……」

「お兄様、お兄様は舞踏会に慣れていらっしゃいますよね?

教えていただければ嬉しいのですが……」

なぜか勢いでそう言ってしまった。

もうすこしお兄様と一緒にいたい、という本能からくるものだろうか。




しかし、その言葉の後、お兄様が少しためらったように見えた。

疲れているお兄様にこんなお願いをしてしまったのは

間違いだったかもしれない、と後悔し

「あ、すみません、お兄様が疲れているときに……」

と言いかけた。その瞬間、




お兄様が立ち上がり、私の手を取った。




その手の温かさが、じんわりと心に伝わってきて、

なんだか安心感と不思議な気持ちに心がいっぱいになった。

記憶を失ってから、お兄様はいつも私を支えてくれる存在だった。

1番の安心をくれる存在だった。

でも、こうして手を握られると、

今まで感じたことのないざわめきが心に広がる。



お兄様は私を優しくリードしてくれ、軽く踊り始めた。

最初私はぎこちない動いていたが、

お兄様の動きに合わせているうちに、

自然と体がついていくのを感じた。




けれど、数秒もも経たないうちに、

私は自分の心臓が妙に早く鼓動しているのに気づいた。

「どうして……こんなにドキドキしているのかしら?」

ただのお兄様に触れているだけで、

こんなに心が動揺するなんて。

記憶を失ったからお兄様とでも緊張してしまうのかしら?




そう困惑していると、

「レナ、お前の動きは悪くない。

だが……舞踏会までに昔のお前のダンスの講師を呼んでおく。俺は……疲れた」

そう言って、お兄様は急に踊りを止め、

私の手を離して部屋を出て行ってしまった。

私は立ち尽くしたまま、お兄様の背中を見送った。




「どうして、こんなに心がざわめくのかしら?そしてお兄様の態度は?」

自分の頬がほんのりと熱くなっているのを感じた。

お兄様の焦ったような表情を、私は初めて見た気がする。

何か、大事なことを私が忘れてしまった気がしていた。

そんなことを考えていると、アニーが近づいてきた。





「お嬢様、お疲れではありませんか?」

アニーが優しく声をかけてくれる。

「ええ、少し疲れたかもしれないわ。

でも……アニー、少しお話してもいいかしら?」

「もちろんです、お嬢様。何でもお聞きください」

私は椅子に腰を下ろし、アニーに問いかけた。

「記憶を失う前に私ってどんな生活していたの?

…特にお兄様とどんな時間を過ごしていたのか、教えてほしいの」



アニーは少し間をおいてから、

静かな声で答えてくれた。

「お嬢様は以前高熱で寝込まれたことがあってそれを気にした公爵様の計らいで

外での活動は少なかったですが、

毎日令嬢教育や楽器の練習などされていてとても多忙な日々を送られていました。

たまにエリザベス様たちとお茶会を楽しんだり、

領地に戻った時は広い庭園ですこしお散歩なさったり、ボードに乗ったり

外での活動も少ししておられました。

公爵様とは普段は一緒にお茶を飲まれたり、歓談したり、

ときどき王宮に行って騎士団の訓練をご覧になられたりもしていましたね。」




「騎士団の訓練……お兄様の?」

私は興味津々で尋ねた。

「はい。お嬢様はその時間をとても楽しみにされていましたよ」

その話を聞くと、どこか懐かしい気持ちが湧いてきた。

「今度、またお兄様の騎士団の訓練を見に行けたらいいわ。

アニー、そうお兄様に伝えてもらえないかしら?」

「かしこまりました、お嬢様。きっとヴィンセント様も喜ばれるでしょう」

レナは微笑みながら、再びその心のざわめきを感じた。

「お兄様の騎士姿……楽しみね」と、そっと呟いた。

なぜか、お兄様のことを考えると胸がざわつく。

この感情は一体何なのか――私はまだ答えが見つけれないようだった。








やっぱり記憶を失っても、好きな人にはまた恋するのかな?と思ったりする今日この頃です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ