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6 婚約者なんて耐えられない(ヴィンセント視点)

初の兄視点!!




夕食の席で、レナが俺の横に座り、

すこしそわそわしながら突然口を開いた。




「お兄様……どうして私には婚約者がいないの?」





その質問を聞いた瞬間、俺は手を止めた。

予想していなかった問いかけに、

驚いき、思わず戸惑いが口をついて出た。





「……婚約者?」

「ああ、シャーロットや同じ年頃の女の子には婚約者が決まっている子もいるのに、

どうして私はいないのかなって思ったの」





レナは真剣な表情で続ける。

その瞳に見つめられ、

俺は一瞬視線をそらしてしまった。

「お前は……まだ若い。

それに、体調もずっと良くなかっただろう。

婚約の話なんて今は考えなくていい」





曖昧な答えで、話を終わらせようとしたが、

レナは引き下がらない。

「でも、候補者はいるの?

これまでに誰か考えたことがある?」





その問いに、俺は完全に言葉を失った。

レナが嫁ぐことなんて考えられるはずがない。他の男の元に行くなんて…..

一緒に暮らせなくなるなんて…….

想像するだけで胸に沸き立つ感情が

抑えきれなかった。

動揺を隠しながら、俺は顔を曇らせて答えた。






「……そんな話はない」

それだけ言って、食事に戻ろうとしたが、

レナの表情には不満が浮かんでいた。






「それなら……舞踏会に行ってみたいわ」

その言葉に俺は驚き、顔を上げた。

「舞踏会?」

「ああ、私も12歳の時にデビュタントを済ませているし、舞踏会に参加できるはずだってエリザベスたちが言ってたの」

レナは真剣な顔で話を続ける。






「舞踏会で色んな人に会うことで、

もしかしたら記憶を取り戻すきっかけになるかもしれないし」

レナの言葉に頭を抱えた。

確かに、レナはデビュタントを済ませている。しかし、それ以来は彼女の病弱を理由に

舞踏会には一度も参加させていなかった。

だが、それは本音でもあり建前でもあった。

俺の中の1番の理由は、

レナが他の男と出会うのを避けたい。

ということだった。






「……レナ、お前の体調を考えれば、

舞踏会はまだ無理だろう」

ついこの間の

高熱の話を持ち出して反対しようとした。

「もう体は大丈夫よ!」

と、レナは少し感情的に反論した。

「私は病気なんかじゃない。記憶がないことが一番の問題なの。舞踏会で過去の知り合いに会えば、何かを思い出すかもしれないのよ」

レナの決意のこもった瞳に、

俺はため息をついた。







本気で記憶を取り戻そうとしていることが分かった以上、無視するわけにはいかない。

レナの幸せを考えたら、

記憶を取り戻す方が先決だ。

それにこんなに真剣なレナの気持ちを俺の邪な感情で邪険にするわけにはいけない。






「……分かった」

ようやく俺は言葉を絞り出した。

「今度の王宮での舞踏会なら行くことを許可しよう」






王宮の舞踏会であれば伯爵以上しか来ないし、招待客も把握できる。

悪い虫がつかないように

できるという考えもあった。






レナは驚き、瞳を輝かせた。

「本当に? 行っていいの?」

「ただし、条件がある」

俺は冷静さを保ちつつ言った。

「俺も一緒に行くこと。それを約束できるなら、舞踏会に参加しても構わない」






レナは少し考えた後、微笑んで頷いた。

「もちろん、お兄様と一緒なら安心だわ。

ありがとう!」

その笑顔に、一瞬心が揺さぶられたが、

同時に胸の奥に芽生える不安も感じていた。

レナが他の男たちと踊り、

親しくする姿を想像するだけで、

胸の中がざわついて落ち着かない。






「これで、少しは記憶を取り戻せるかもしれない……」

レナは自分に言い聞かせるように呟きながら、俺の顔をじっと見つめていた。






舞踏会が、レナが記憶を取り戻す一助

になって欲しいという願いと共に、

舞踏会で彼女がどんな

出会いを経験するのかという不安が、

胸の中にうずまいていた。








ーーーーー







俺がレナを意識し始めたのは、

4年前、両親が流行り病で急死した時だった。まだ14歳だった俺が、

公爵の家督を継ぐには若すぎた。

しかし、レナはもっと幼かった。

彼女はまだ8歳で、

突然この家に引き取られたばかりだった。

俺も最初は、どう接していいか分からず、

距離を置いていた。






両親を失ってすぐ、

俺は爵位を継がねばならなかった。

若すぎると侮られることがないように

完璧を求められる日々だった。

感情を押し殺し、全てを犠牲にして、

みんなが求める公爵として振る舞い続けていた。





そんなある朝、

俺は毎日ベッドサイドに置かれている

小さな花とジャム菓子に気づいた。

最初はメイドが気を利かせている

と思っていた。

ある朝早く目が覚めた時、

その認識が誤っていたことに気づいた。





薄暗い朝、静かにドアが開く音がした。

入ってきたのは…..まだ幼いレナだった。

花瓶とジャム菓子を小さい手に抱え、

それをベッドサイドに置くと、

そっと俺の額に手を当てて撫でた。

「よしよし、だいじょうぶ。」

その純粋で無垢行動に、心が強く揺さぶられた。両親を失ってから、完全に凍っていた心が徐々に温かくなっていくのを感じた。






その日から、

レナが俺にとって特別な存在となった。

それ以来レナの行動を気にするようになったが、執務室を覗きにきたり

一緒にご飯を食べたいとアイン伝手にいってきたり、

俺の食べる姿をよく見ていたり、

窓の外から俺の執務室をみていた。

レナはずっと俺のことを家族として気にかけてくれていたのだ。俺はレナに優しくできていなかったのに。

それに気がついた時から、俺はレナを守ることが自分の使命だと強く感じるようになった。





その使命感や、レナに対する愛情はずっと家族のものだと思ってきた。

兄として、妹を大切にしている。

そう思っていた。

しかしレナが成長するにつれ、

それが違うのではないかと疑うことがあった。

レナが微笑むと胸がドキドキした。

彼女を喜ばせるのが生き甲斐になっていた。





俺が兄としてではなく、

レナを1人の女性としてかけがえのない

存在だと気づいた決定的な瞬間は、

レナが12歳でデビュタントを迎えた時だった。



舞踏会での彼女の姿は、

息をのむほど美しかった。

成長したレナは、昔と変わらず優しい、

そして美しい女性となっていた。

周囲の貴族たちが彼女に注目し、

若い貴族たちが次々と近づく姿に、

俺は激しい嫉妬を覚えた。






俺は彼女を異母妹としてではなく、

一人の女性として意識するようになった。

彼女が他の男に取られるなんて考えたくもない。そう思ってる自分に気がついた。

けれど、彼女の幸せを願うならば、

好きな相手と一緒になってほしい。

もしそれが俺でなくても。

むしろ俺でない方がいいのかもしれない。

もっと幸せにしてくれる男と結ばれるべきだ。




そんな想いに苦しんでいた矢先、

彼女が高熱で倒れた。

俺は神からの警告だと感じた。

そして今、再び舞踏会の話が持ち上がった時、俺は天からレナを自由にしてやれと言われたような気がした。





俺は深くため息をつき、重い腰を上げ

寝室に向かった。


ブックマークしてくださっている方がいて感激です( ;∀;)更新頑張ります!

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