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5 お茶会で恋バナです



お茶会の準備が整ったと聞かされ、少し緊張したまま自室を出た。

記憶を失った今、友人たちとの再会が彼女にとってどのように進むのか不安もあったが、

再会が記憶を取り戻す手助けになるかもしれないという期待もあった。



「お嬢様、お茶会の準備が整いました」

とアニーが告げ、私は深呼吸して立ち上がった。

「ありがとう、アニー。頑張ってみるわ」

アニーの優しい笑顔に支えられ、客間へと向かった。重厚な扉を開けると、そこには親しい友人たちがすでに待っていた。エリザベス、シャーロット、そしてアンナ。彼女たちは、以前からの大切な友人であり、特別な存在だったようだが、記憶が曖昧な今のレナには、彼女たちの姿が少し遠く感じられた。事前にアニーに肖像画を用意してもらったり、わかる範囲での性格を細かく教えてもらっていたので、名前や顔を間違える心配はなかったが、不安を抱えながらのお茶会の始まりであった。



「レナ!」

最初に声を上げたのは、エリザベス。金色の髪を揺らし、親しげな笑顔を浮かべてレナに近づいてきた。

「ずっと心配していたのよ。体調はどうかしら?」

「ありがとう、エリザベス。だいぶ良くなったわ」

と微笑みながら応えた。

「ただ、まだ完全には記憶が戻っていないけど、日常生活には問題ないわ」

「それでも元気そうでよかったわ」

とシャーロットが続けて言った。栗色の髪をベルベッドの光沢のある素敵なリボンですっきりとまとめた彼女は、大人っぽい落ち着いた雰囲気を漂わせている。

「私たちみんなあなたのことを心配していたの。こうしてまた会えるのが本当に嬉しいわ」

「ありがとう、シャーロット。」

と私が言うと、アンナが

「元気そうなレナ様とお会いできて本当に安心しました。このような場に呼んでいただき感謝いたします。」

と、アンナは控えめに微笑みながら挨拶してくれた。



四人が席に着き、お茶が運ばれると、自然と会話が弾み始めた。最初の話題はレナの体調だった。

「本当に驚いたわ、あなたが倒れたと聞いたとき。突然だったの?」

とエリザベスが心配そうに尋ねる。

「実は、はっきりした原因は思い出せないの」

「気づいたら急に体調が悪くなって、その後はずっと寝込んでいたみたい。でも、もう元気だから心配しないで」

「本当によかった……でも、無理はしないでくださいね」

とアンナが優しく言った。

「ありがとう、皆が心配してくれていたことを知って、本当に嬉しく思っているわ。レナは素敵な友達がいるのね」

と微笑んだ。

しばらく体調の話をした後、話題は自然と別の方向に向かった。シャーロットが微笑みながら口を開く。



「ところで、最近王宮や舞踏会で話題になっている男性たちのうわさ、聞いたことある?」

「もちろん!」

とエリザベスがすぐに応じた。

「この前の舞踏会で王子のエドワード様と公爵系のラファエル様にお会いしたの。お二人ともとても魅力的で、会場の令嬢たちの目をうばっておりましたわ」



知らない名前の連続に少し戸惑いながらも、聞き返す。

「エドワード様とラファエル様?」

「そうよ、レナ」

とシャーロットが微笑んだ。

「エドワード様とラファエル様はヴィンセント様の幼馴染よ。エドワード様は優しい物腰に柔らかな微笑みをした方で、ラファエル様は元気でいつも明るい方だわ。2人ともレナのお兄様とは小さい頃からの知り合いで、仲がよろしいとうかがったわ。」

「舞踏会でラファエル様と踊ったとき、本当に夢のようだったわ」

とエリザベスが付け加えた。

「あの優雅さやチャーミングな人懐っこさは誰もが虜になるわ。」

アンナは少し顔を赤らめながら、控えめに話し始めた。

「私はまだ王宮で有名な方と踊ったことはないけれど……エドワード王子様は誰もが憧れる方よね。」

「そうね、王子様は本当に穏やかで優しい方。あの微笑みを見ると、誰もが心を奪われてしまうのよ」

とシャーロットも柔らかく微笑んだ。



友人たちの熱心な会話に耳を傾けながら、彼女たちが王宮や舞踏会でのロマンスに憧れていることに気づいた。特に、王子や伯爵のような高貴な人物との出会いに夢を見ているのだ。



「婚約者ってどうやって決めたらいいのかしら。」

とアンナがつぶやいた。

「親が進めてくれた相手も素敵なのだけど、一度は社交界で噂されるような方や、自分で決めた方と恋愛してみたいわ。」

「分かるわ」とシャーロットが頷く。

「私の婚約者は同じ侯爵家の長男で、とても優しく落ち着いたか方だけど、結婚というとイメージが湧かないわ。舞踏会で会う男性たちと比べると、どうしても物足りなく感じてしまうの。」

エリザベスも同意しながら、

「私はお父様に、私が惹かれる方じゃないと婚約はしないとキッパリ言ってあるわ」

と言い、他の3人の笑いを誘った。

「でも、現実的には親が選んだ婚約者の方が安全よね」

とアンナがため息を混じりに言った。「贅沢なのはわかってるけど、ロマンチックな出会いを夢見てしまうわ。」



彼女たちの話を聞いて、ふと自分の婚約者について考えた。

しかし、今の私には婚約者がいるのかどうかすら分からない。

それが誰であるかも記憶にはなく、大きな不安が胸に広がったが、

今は友人たちの話に耳を傾け続けた。



「レナも確か婚約者はまだだったわよね?」

とシャーロットが尋ねた。

「レナならだれもが惹かれるけど、ヴィンセント様と比べてしまうと…ね。」

とエリザベスが微笑みながら続けた。

「いたかどうかは記憶にないの。ごめんなさい。ヴィンセントってお兄様のこと?

お兄様と私が婚約することに何か関係があるの?」

エリザベスからお兄様の名前が出てきて思わず勢いよく聞き返してしまった。



「そうよ、ヴィンセント様よ。ヴィンセント様の美貌や才覚や剣技は全令嬢をとりこにしているわ。レナード様とラファエル様とヴィンセント様は今社交界で花の3人って呼ばれるくらい人気があるのよ。みなが婚約者になりたくて必死よ。だからそんな人がそばにいたら理想が高くなるんじゃないかしらと思ったのよ。」

とエリザベスが勢いよく言い放った。なるほど。そういうことだったのか。お兄様が令嬢から人気があるなんて初めて聞いたので、少しだけ胸が締め付けられたような気がした。



友人たちはそれぞれの恋愛や婚約者について話し続けたが、

心の中では、自分の記憶がないことがより大きな問題として感じられてきていた。

どんな未来を選び、公爵家のためにどんな人と共に歩んでいくべきかを決めるためにも

まず自分の過去を取り戻す必要があるのだと感じた。



お茶会が終わりに近づいたころ、エリザベスがふと思い出したように言った。

「レナ、次の舞踏会にも出席するのよね? きっと素敵な出会いがあるはずよ」

私は、舞踏会など全く考えてもいなかったので少し言いよどんだが、

「舞踏会……出席できたらいいわね」

と答えた。これは正直な気持ちだった。

「私たちも楽しみにしているわ。」

とシャーロットがいった。

「もちろん、私も」

と微笑み返した。



お茶会が終わり、友人たちが帰った後、自室に戻り、静かに考えた。彼女たちの笑顔や会話は暗い気分を少しの間紛らわしてくれたが、記憶を取り戻すという課題より一層心に重くのしかかったように思えた。

お兄ちゃんモテるって(°▽°)

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