44 婚約者としてのデートです
婚約式の週末、朝から少しわくわくしていた。
支度をしながらお兄様がふいに
「朝ごはんを食べたら街に買い物に行かないか」と言ってきたのだ。
アニーを呼び、お出かけ用に支度をお願いする。
「よかったですね、レナ様。婚約者としては初のデートですね」
とアニーが微笑みながら言う。
「たしかにそうね! 婚約式の準備でずっと忙しかったから、
こうしてお兄様とゆっくり出かけられるのは嬉しいわ」
「今日はまた、とびきり可愛く仕上げますね」
と、アニーの目が輝く。私はそんな彼女に微笑み返す。
「いつもありがとう、アニー」
アニーが髪を梳かしながら話し始める。
「ヴィンセント様、気合いを入れて
有名なデザイナーに片っ端から注文を入れているようで、
ドレスの数がすごいことになっていますわ。
街歩き用のワンピースドレスもたくさんありますので、
どれにするか迷ってしまいますね」
確かに、新しい衣装部屋は前の4倍ほどの広さがあり、
お兄様が選んでくれたドレスやジュエリー、靴が所狭しと並んでいる。
こんなにたくさんのドレスを、一年で全て着られるのかしら。
中には、袖を通さないまま終わってしまうものもありそうだ。
もったいないけれど、お兄様がデザイナーを呼んでいる様子を見ると、
もはや趣味になっているのかも、とも思い、なかなかもういいなんて言い出せない。
「確かに、本当に迷うわ……」
そう言いながらも、ふと思い出した。
「今日はお兄様が深緑のシャツに黒のスラックスだったから、
私も緑色にするわ。動きやすそうな服を見繕ってくれる?」
アニーは鏡越しに微笑みながら
「わかりましたわ」と言って、衣装部屋に消えていった。
支度が整うと、
アインが「ヴィンセント様はすでに馬車に乗られています」
と伝えてくれた。急いで外に出ると、お兄様は馬車の中で待っていた。
「すみません、お待たせしてしまいましたか?」
と尋ねると、お兄様は穏やかに微笑んで
「俺も今着いたところだ」と答えた。
そして、私をチラリと見て
「こっちにこい」
と、隣の席を指さす。
少し恥ずかしさがこみ上げたけれど、
お兄様の言う通り、隣に座った。
お兄様の体温が肩越しにほんのりと伝わり、心臓がキュッと締めつけられる。
心臓の音がお兄様に聞こえてしまわないといいけれど……。
そんなことを考えていると、
お兄様が「その服も、似合っている」
と私のドレスを褒めてくれた。
「お兄様の見立てが良いからですわ」
と微笑むと、お兄様は真剣な声で続けた。
「欲しいものはなんでも言え。
ドレスもジュエリーも欲しくなったらいつでも知らせてくれ。
自分でデザイナーを呼びつけてもいいし、
街に買いに行っても構わない。
お前の望みは全部叶える」
お兄様はぶっきらぼうにそう言い捨てた。
「ありがとうございます。
でも、ドレスもジュエリーも、
もう十分にいただいていますわ。
それに私は……お兄様のそばにいられることが一番幸せです」
そう言うと、お兄様は少し驚いたようにこちらを見て、
優しく微笑んだ。
その瞬間、また胸がドキドキして止まらなくなってしまった。
馬車が停まると、目の前には乗馬や狩りの服や用具を扱う店があった。
お兄様は何を買うつもりなのだろう。
「公爵様、お待ちしておりました。どうぞ、こちらへ」
と店の支配人が現れ、私たちを奥の応接間へと案内してくれる。
「今日はわざわざお越しいただきありがとうございます。
お屋敷に伺うことも可能でしたのに」
と支配人は恐縮しながらお茶を出してくれた。
「いいんだ。今日は他にも用事があってな。ついでだ」
とお兄様は軽く応じた。
「狭いところで失礼いたします」
と支配人はさらに恐縮するが、お兄様は気にする様子もなく
「いいんだ。それで頼みがあるんだが、今度の狩猟祭で着る服を決めたい。
ここは女性ものも扱っているよな?」
と切り出した。
「そうでございますね。女性用は滅多に注文が入らないのですが……」
と支配人が答える。
「であれば、男性ものの乗馬服と合わせたデザインのドレスを作ってもらえないか?」
お兄様の言葉に、支配人は一瞬固まり、顔が青ざめた。
「ド、ドレス……ですか?」
支配人は驚く。
「そうだ。すでにデザイナーのメリウスには話を通してある。
二人で協力して、私の乗馬服とレナのドレスのデザインを似たものにして欲しい。
婚約していることが一目でわかるようにしたいんだ。」
とお兄様が続けると、支配人はほっとしたような表情で
「なるほど!それなら可能でございます!」
と答えた。
「報酬はお前たちの言い値でいい。
そのかわり、文句のない仕上がりを期待している。
デザインが決まり次第、案を屋敷に送ってくれ」
とお兄様は確固たる態度で言った。
「かしこまりました。最高の出来に仕上げてみせます」
と、支配人は力強く答えた。
そのあと、お兄様は私の方を向いて
「レナ、ドレスについて何か希望はあるか?色でも形でも、何でも言ってくれ」
と聞いてくれた。
お兄様とお揃いの乗馬服……。
想像するだけで胸が高鳴る。
「私のドレスは何でもいいですわ。
でも、お兄様の乗馬用の燕尾服、後ろが長すぎますわ。
全部短いほうがかっこいいと思いますの」
と率直に伝えると、支配人が驚いた顔をして言った。
「それはリージェンシーテイルコートといって、狩猟祭の正装でございますから……」
そうか、あの服は正装で変えられないのか。残念。
するとお兄様が笑いながら、
「いや、実際あれは邪魔なんだ。
できることなら短くしたかった。
これを機に、短い燕尾服もデザインしてみてくれないか?
もし非難されたら、君の名前は出さないから」
と言って、支配人に言った。
「わ、わかりました!全力で取り組みます!」
支配人は再び額に汗をかきながら、必死に頷いた。
馬車に戻ると、お兄様はずっと笑っていた。
「あれは本当にいらないよな」と、まだ笑いを引きずりながら言う。
「そうですわ!せっかくお兄様はスタイルがいいのに、
あれでは足が短く見えてしまいますもの!」
と私が言うと、お兄様はまた大きく笑い出した。
「そ、そうか。ありがとうレナ。出来上がりが楽しみだな」
「はい!」
私も嬉しくなって、笑顔で頷いた。そして、再び馬車に乗り込み、次の場所へと向かった。
婚約編あと1話と言っていたのに終わりませんでした(´;ω;`)
すみません....
次こそです!
結婚編も終わり次第はじめようかなと思ったり....
「ムーンライトノベルズ」で投稿しているこちらのR18版が日間ランキングに載りました。
こちらにもし読んでくださった方がいらっしゃいましたらありがとうございます☆
こちらは優しいヴィンセントしか(いや優しくない時あるか)出てきませんのでご安心を.....
普通のなろうでもランクインしたいな〜がんばろ〜と思う今日この頃です。
文章力上がるように賽銭にでもいってきます( ・∇・)




