36 もう我慢できないかもしれない (ヴィンセント視点)
朝からどうも落ち着かない。
何とはなしに気にしないふりをしていたが、
今週は頭の片隅でずっと今日のことを考えていた。
今日はレナと出かける。そして今日こそレナにーーー
支度を終えて馬車の前で待っていると
馬車の前で待っていると、視線の端に綺麗がきらめいた。レナだ。
目を向けた瞬間、心臓が跳ねた。
レナはワンピースは控えめながらもレナの美しさを引き立てていた。
少しメイクをしているのか、唇が綺麗なピンクに輝いて、瞳も一際キラキラとしている。
なんというか、息を飲むほどだった。
自分の胸の鼓動が急に早くなったのが分かる。
だがレナにはそんな心の動きを悟られないように、
できるだけ無表情を保つ。自然を装わなければ。
レナに先に気がつかれてしまっては、告白の意味がない。
「お待たせしました、お兄様。」
レナが近づいてくる。
耳に届いた声は変わらず清らかで、心地よい。
だが今日は、それがさらに特別に聞こえる。
私はなんとか平静を保とうとしつつも、つい口を開いてしまった。
「……似合っているな。」
一瞬、レナの顔に驚きの表情が浮かんだのが見えた。
しまった、と内心焦ったが、もう言葉は引っ込められない。
彼女が少し頬を染めたのが可愛らしくて、余計に心が乱れる。
嬉しかったということだろうか?
それとも単なる戸惑いによる焦りなのだろうか?
何とか自分を落ち着けようとしながら、馬車に向かった。
馬車に乗り込んで少し揺られながら、街へと向かう道中、
どうにも気まずい沈黙が続いてしまった。
レナも何か話そうとしているのが伝わるが、私も何を言うべきか迷っている。
「なにか、行きたいとこが思い浮かんだら言え。」
ぶっきらぼうな言葉が出てしまった。
レナは少し驚いて
「特にないですわ。お兄様にお任せいたします。」
と微笑んだ。可愛すぎて直視できない。
黙った方が良いか。そう思い、窓の外を眺めた。
まずは馴染みの宝石商へと向かう。
先週、この日に出かけることが決まってから、
ヨナスに宝石商に連絡をとって、とびきりのジュエリーを取り揃えてもらった。
告白にはジュエリーが必須だとラファエルも言っていた。
店の物は全て買う勢いできた。
支配人が出てきて、奥に通された。
用意させたジュエリーはどれも一級品でレナにぴったりだった。
なりふりかまわず、レナが試着した物は全て購入していたら
「こんなに一人ではつけられません」とレナが言う。
私は肩をすくめて答えた。
「毎日違うものをつけていけばいい。」
レナには毎日お姫様でいてもらわなければ。
世界で一番幸せなお姫様でいてもらいたいんだ。
しかしレナはなぜかちょっと顔をしかめて、それから黙った。
ジュエリーは好きじゃないんだろうか?
デザインが気に食わないのか?
これ以上の一級品なんてあるのだろうか?
宝石商にもう一度特注させようか?
そんなことを考えていたが、ふとレナをみると、
レナはティアラをみていた。婚約の時に贈るためのティアラだ。
俺はふと彼女がそのティアラを手にしている姿を想像した。
どんなに美しいだろうか。
だが、そのティアラをつける時、隣にいるのは誰なんだろうか――
心がずきりと痛んだ。
「……お前は、どんなティアラがいいとか、あるのか?」
気づけば、そんなことを口にしていた。
俺が、プレゼントすればいいじゃないか。誰よりも早く。
そんな自分勝手な思いがよぎった。
だが、レナの答えは予想外だった。
「私は……ティアラはいりませんわ。」
驚いて、思わず聞き返した。
「そうなのか?なぜだ?」と。
だが、レナは理由を話そうとはせず、黙り込んだ。
その沈黙が余計に私を不安にさせた。
俺からはいらないということ?
結婚はしないということか?
それともティアラがいらないだけか?
沈黙の後
「ティアラよりも、いつでも身につけられるシンプルな指輪が欲しいですわ。」
指輪……?そんなもの?
シンプルとはどういうものなんだ?
頭の中には疑問がいっぱいだった。
「シンプルな指輪をすべてだせ。」
そう支配人に伝えると、支配人が多くの指輪をもってきた。
頭をフル回転させて、指輪をみた。
するとレナに似合いそうなものが目に入る。
綺麗な花のモチーフに、小さな宝石がきらめいている。
「じゃあ、これはどうだ?」
とその指輪を手に取った。
ダイヤとサファイアが控えめに光る、シンプルで美しいものだった。
レナはなにやらこそこそと支配人と話している。
気に入らなかったのだろうか?
不安が過ぎる。
しかしすぐにレナはにっこりと
「それがいいですわ」と微笑んだ
レナがそれを気に入ってくれたことに、ほっと胸をなでおろした。
その後、カフェへ立ち寄った。
ここは公爵領に来たときは必ず訪れる場所で、
レナの好きなケーキがある。
レナがケーキを二つ注文しているのを見て、思わず笑ってしまった。
「太るぞ。」
「今日は運動してるから大丈夫ですわ。」とレナが答える。
彼女が楽しそうにケーキを食べる姿を見ていると、
自然と私も食べてみたくなった。
いつもは甘いものを控えているが、今日は例外にしよう。
「久々に食べるとうまいな。」
私がそう言うと、レナも嬉しそうに頷いていた。
彼女がこんなにも楽しそうにしているのを見るのは、久しぶりだった。
私の胸の中に、温かい感情が広がっていくのを感じた。
カフェから外を見渡すと、街に移動遊園地がやって来ているのが見えた。
レナがそれに気づき、興味深そうに窓の外を見つめているのがわかった。
「行ってみるか?」
と聞くと、うれしそうにうなずいた。
遊園地では、レナがジェットコースターやメリーゴーランド、
空中ブランコに乗り楽しそうにはしゃいでいた。
遠くから手を振ると、彼女も笑顔で手を振り返してくれる。
その笑顔を見ていると、自然と私も笑みがこぼれてきた。
レナが楽しんでいるのを見ると、幸せな気持ちになる。
観覧車の前に差し掛かると
「観覧車はさすがに一人は寂しいですわ! 一緒に乗りましょう。」
と言われた。
夕食で切り出そうと思ってたが、ここなら2人きりだ。
ここで、レナの気持ちを聞こうーーーー
意を決して、レナと観覧車に乗り込んだ。
思ったよりも観覧車の中はせまい。
レナの顔が思ったよりも近く、甘い匂いに胸が疼く。
胸が張り裂けそうなほどドキドキした。
しかし、ここで聞かなければ
「そういえば、前にお前が寝ぼけていた時に……俺に何かーーー」
その瞬間、体が傾いた。
「っ……!」
レナがバランスを崩して、俺の胸に飛び込んでくる。
思わず受け止めてしまった。強く。
彼女のやわかさと温かさが全身から伝わってきて、心臓が口から出そうだ。
「……」
言葉が出てこない。
レナが私を見上げている。
「お兄様……」
「……大丈夫か?」
声を振り絞る。
「大丈夫です……わ。」
「ご、ごめんなさい、離れ……。」
といってレナが離れようとした。
俺は「離れたくない」と反射的にレナをつよく抱きしめていた。
「俺はーーー」
その瞬間緊急停止のアナウンスが聞こえた。
心臓の鼓動が止まらない。このままどうすればいいのか、頭が混乱していた。
「すまん」
俺はそう言ってレナを優しく席に戻した。
言えなかった。
意気地ないな俺は。
何も伝えられなかった後悔。
そしてレナを強く抱きしめた感触。
それが頭を支配していた。
やがて観覧車が再び動き出し、頂上に到達した。
ちょうど夕日が山際に重なり、美しい光景が広がった。
「綺麗だ……」
「綺麗ですね……」
お互いの言葉が重なり、ふっと笑い合った。
その後、ディナーを公爵家御用達のレストランで食べたが、ほとんど味がしなかった。
ずっと、観覧車での出来事が頭を支配していた。
レナの美しい顔、無邪気な笑顔、やわらかい体、つややかな髪。
もし告白して、断られたら、一生俺はーーー
そう思うとなにもできなくなった。
今週忙殺されててHP0だったのですが
満点評価つけてくださった方のおかげで頑張れました(´;ω;`)
本当にありがとうございます!!
更新減ってはいますが、きちんと完結しますので、何卒よろしくお願いいたします。
<追記>
最近新しいものを書く時間がなく昔のエピソードの校正をしているのですが、展開は遅いわ、言葉遣いおかしいわで恥ずかしくなってます( T_T)反省点がたくさんあります。(もちろん今もひどいところたくさんありますが)
こんな文章でここまで読んでくださったすべての方々に改めて心から感謝申し上げますm(_ _)m




