21 8歳の私にはトラウマは重すぎますわ
次に目が覚めると、
目の前には見慣れた公爵邸のベッドの
ワインレッドの天蓋が広がっていた。
あれ?今のは夢だった?
舞踏会で倒れた後、やはり公爵邸に運び込まれたのだろうか。いや、しかし、あれは確実に私の過去の記憶だった。過去というより、前世の記憶とでも言うほうが正確かもしれないが。
私は体を起こし、部屋を見渡す。
私の自室よりも一回り小さい、
そして家具も一回り小さいようだ。
ここには見覚えがある。
記憶を失い目が覚めたあと、屋敷をアニーが案内してくれときにつれてきてもらった、
私がまだ幼かった頃に使っていた部屋だ。
…なぜ今、この部屋に?
また頭が混乱している中、扉が開き、
パタパタとした足音が聞こえてきた。
アニーだ。
現在よりもかなり小さい。
しかし大きなくりくりした可愛い瞳は
絶対にアニーであった。
彼女は、私がまるで見えていないかのように素通りした。何かを探しているようだ。
「あれ?レナ様のカーディガン、どこにしまったっけ。」
アニーはどうやらどこか少し寒いところ(庭かテラスだろうか)にいる私のために、カーディガンを探しにきてくれたようだ。
「ここでも私の姿は見えないんだ…」
私はまた、過去の時代に飛ばされたらしい。
もしくはすでに舞踏会で倒れた後死んでしまい、ずっと走馬灯の中にいるのかもしれない。どういう状況かはわからない。
しかし行動しなければ何も進まない。
とりあえずお兄様を探してみよう。
私は気を取り直し、部屋を出て、
お兄様の執務室に向かった。
何やらお屋敷がいつもと様子が違う。
両親が亡くなった喪に服しているのか、
全体的に屋敷の装飾は暗く、
執事やメイドも喪服をきていた。
しかし、彼らはいつも以上に忙しなく
本や書類を抱えて屋敷を行き来していた。
彼らのは資料室とお兄様の執務室を行き来しているようだった。
メイドたちの行き交う流れに従って、
お兄様の執務室にたどり着く。
扉を開くと、大量の資料の山の奥に、お兄様が疲れ切った顔で机に向かっている姿が見えた。
お兄様の顔はやつれ、痩せ細り、今にも眉間に皺がより、今にも倒れそうだった。
「お兄様…!」
と駆け寄ろうとした瞬間、
お兄様が椅子から崩れ落ちた。
「お兄様!」
私は叫んだ。
その瞬間、まだ欠けていた
レナに関する全ての記憶が蘇った。
高熱から目が覚める以前のレナの記憶を。
お兄様が倒れた6年前のまさにこの日、
8歳の私は、お兄様が椅子から
崩れ落ちる瞬間を庭の外から見ていた。
そしてお兄様が椅子から崩れ落ちる姿、
医師が慌ただしく駆け寄る光景をみてなぜだか、幼い私は、ひどく胸が締め付けられ、
呼吸がままならなくなり、
その場で倒れた。
屋敷のものやお兄様はみな、
私がお兄様が倒れたショックで倒れたと思って
私を慰めてくれていたが、そうではなかった。
前世での過労死に対するトラウマが
前世の記憶がない中でも無意識的に
私を強く強く刺激し苦しめたのだった。
それがわかったのは、
私が8歳のこの日、
現実で意識を失ってから、
前世の記憶をすべて取り戻したからだった。
前世の記憶を取り戻したがために
私は前世の、
過労による苦しみと、
愛されない苦しみに、
苦しめられることになる。
8歳の私にはあまりにも重く、辛い過去が、この時から先ほど自分の死後を見るまでずっと、私を苦しめてきたのだ。
お読みいただき、ありがとうございます。
早くお兄様とレナのラブラブを見たい毎日です。




